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平成14年広審第106号
件名

貨物船第三大安丸引船きく丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月26日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、竹内伸二、西田克史)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第三大安丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:きく丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)

損害
大安丸・・・右舷中央部外板に凹損
きく丸・・・左舷船首外板に凹損

原因
大安丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
きく丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、第三大安丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、きく丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月25日04時00分
 瀬戸内海 安芸灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三大安丸 引船きく丸
総トン数 199トン 97トン
全長 56.10メートル
登録長   25.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 551キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第三大安丸(以下「大安丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼材730トンを積載し、船首2.5メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成13年6月24日11時50分大阪港を発し、福岡県博多港に向かった。
 翌25日01時00分ごろA受審人は、宮ノ窪瀬戸に差し掛かったとき、一等航海士が船橋当直中のところ昇橋し、航行中の動力船の灯火を表示して同瀬戸通峡の操船指揮を執り、このころから霧のため急速に視界が悪化して視程が約100メートルに狭められ、視界制限状態となったので同瀬戸通峡後降橋しないで大下瀬戸を経て安芸灘に向け西行を続け、03時30分安居島灯台から068度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点に達したとき、針路を236度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分310の全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 視界制限状態の中A受審人は、霧中信号を行わず、安全な速力としないまま、3海里レンジのレーダーを覗き込んだり、右舷ウイングに出たりして見張りをしていたところ、03時54分少し前安居島灯台から215度1.6海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首9度2.0海里に反航するきく丸の映像を探知し、同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったが、このまま航行しても右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく、自ら手動操舵に切り替えて続航した。
 03時57分少し前A受審人は、船首方1.0海里に接近したきく丸の映像を認めたので、同時57分機関を回転数毎分255に下げ、半速力の7.0ノットに減じて進行し、その後同船が更に接近したので衝突の危険を感じ、同時59分少し過ぎ左舵一杯をとったが及ばず、04時00分歌埼灯台から052度2.0海里の地点において、大安丸は、左転中の船首が146度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その右舷中央部に、きく丸の船首が、後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視程は100メートルであった。
 また、きく丸は、鋼製引船で、B受審人ほか2人が乗り組み、台船を曳航する目的で、同月24日16時00分関門港下関区を発し、広島県因島市に向かった。
 翌25日00時00分B受審人は、祝島の西南西方約2.5海里の地点で、昇橋して船長から船橋当直を引継ぎ、その際同人から陸に寄りすぎないよう、また、何かあったら報告するよう指示され、航行中の動力船の灯火を表示し、周防灘、平郡水道及びクダコ水道を経て安芸灘を東行し、03時47分歌埼灯台から312度1,400メートルの地点で、針路を安居島と小安居島の間に向く068度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分600の全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。
 定針したころB受審人は、霧が発生して視界が少し狭まり始め、このとき6海里レンジのレーダーで左舷船首4度4.4海里に反航する大安丸の映像を探知し、03時50分少し過ぎ歌埼灯台から357度1,290メートルの地点に達したとき、針路を071度に転じて航行し、同時53分少し前、霧のため視程が100メートルに狭められ、視界制限状態となったものの、霧中信号を行わず、安全な速力としないまま、レーダーに反航する大安丸の映像以外に何も認めなかったので、船長に報告しないで続航した。
 03時54分少し前B受審人は、歌埼灯台から032度1.1海里の地点に達したとき、大安丸が左舷船首7度2.0海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況であることを知ったが、同船と左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく進行した。
 03時55分少し前B受審人は、歌埼灯台から037度1.2海里の地点に達したとき、大安丸の映像が中心に向かって接近して来るので針路を小安居島北端に接航する073度に転じて続航し、しばらくしてレーダー監視を止め左舷船首方を見ていたところ、04時00分少し前同船の白、緑2灯を視認して衝突の危険を感じ、自動操舵のまま針路設定ダイヤルを少しずつ右に回し、機関を停止したが効なく、きく丸は、右転中の船首が076度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大安丸は、右舷中央部外板に凹損を、ハッチコーミングに歪みを生じたが、のち修理され、きく丸は、左舷船首外板に凹損を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界制限状態となった安芸灘において、西行する大安丸が、安全な速力とせず、レーダーにより前路に探知したきく丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、東行するきく丸が、安全な速力とせず、レーダーにより前路に探知した大安丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった安芸灘を西行中、レーダーにより前路に探知したきく丸と著しく接近することを避けることができない状況であった場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、このまま航行しても右舷を対して航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、半速力のまま進行して、きく丸との衝突を招き、大安丸の右舷中央部外板に凹損、ハッチコーミングに歪みを生じさせ、きく丸の左舷船首外板に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった安芸灘を東行中、レーダーにより前路に探知した大安丸と著しく接近することを避けることができない状況であった場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船と左舷を対して航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、全速力のまま進行して、大安丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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