(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月27日22時20分
高見島沖合 備讃瀬戸南航路
2 船舶の要目
船種船名 |
押船住吉丸 |
バージ山陽3号 |
総トン数 |
290トン |
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全長 |
31.10メートル |
78.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
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船種船名 |
貨物船開運丸 |
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総トン数 |
173トン |
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全長 |
54.30メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
441キロワット |
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3 事実の経過
住吉丸は、鋼製押船兼引船で、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、その船首部を、石灰石4,250トンを積載して船首5.5メートル船尾5.8メートルの喫水となった非自航型鋼製バージ山陽3号の凹状船尾に嵌合して長さ109メートルの押船列(以下「住吉丸押船列」という。)を構成し、船首3.3メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成14年3月27日05時40分大分県津久見港を発し、神奈川県横須賀港久里浜に向かった。
A受審人は、船橋当直を一等航海士及びB受審人と自らの3人による単独4時間交替制とし、06時から10時及び18時から20時まで自ら当直に従事していたところ、18時00分安芸灘東部で船橋当直に就き、来島海峡を経て備後灘を東行し、21時50分二面島灯台の西南西方1.5海里の地点で、長年住吉丸に乗り組み瀬戸内海の航行経験が豊富なB受審人が昇橋し、周囲の通航船舶も平素と比べて特に多いわけではなかったので、折から自船の前後を航行中の同航船に注意するように告げて自室で休息した。
B受審人は、船橋当直に就いたとき法定灯火が表示されていることを確かめ、21時59分二面島灯台から186度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの地点で備讃瀬戸南航路に入航したとき、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.3ノットの対地速力(以下「速力」という。)で同航路の右側をこれに沿って進行した。
その後B受審人は、数隻の同航船に追い越され、22時15分高見港南防波堤灯台から221度1.4海里の地点に達したとき、左舷船尾36度500メートルに開運丸の白、白、緑3灯とその近くに別の東行船1隻の航海灯を初認し、同時16分同灯台から216度1.3海里の地点で航路に沿って060度に転針したとき、開運丸を左舷船尾74度490メートルに見るようになり、自船より速力の速いことを知ったが、いずれ同船も航路に沿って転針し左舷側を無難に追い越して行くものと思い、その後同船に対する動静監視を十分に行わず、そのころ0.5海里前方の同航船の右舷側を追い越すつもりで同船に留意して続航した。
22時18分B受審人は、高見港南防波堤灯台から209度1.0海里の地点に達したとき、開運丸が方位が変わらないまま240メートルとなり、その後も同船が航路に沿って転針せず、航路を斜航し衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、さらに間近になっても減速するなど衝突を避けるための協力動作をとらず、前路の同航船のみに留意して進行し、22時20分少し前左舷後方を見たとき、至近に迫った開運丸を認め、操舵を手動に切り替えて右舵一杯とするとともに機関を全速力後進にかけたが及ばず、住吉丸押船列は、22時20分高見港南防波堤灯台から200度1,500メートルの地点において、原針路、原速力のまま、開運丸の船首が山陽3号の左舷船尾に後方から22度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期にあたり、微弱な東流があった。
また、開運丸は、船尾船橋型貨物船で、C受審人及びD指定海難関係人の2人が乗り組み、プラント45トンを積み、船首1.3メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、同日09時40分山口県宇部港を発し、大阪港に向かった。
C受審人は、出入港及び狭水道通航の際に操舵操船にあたるほか、D指定海難関係人が船橋当直に就くことを申し出たとき以外は自ら船橋当直に従事し、周囲の状況を見て無資格の同人に船橋当直を行わせても大丈夫と判断すれば、危険を感じたら船長に知らせるよう指示して同人に当直を行わせることとし、その間同人がいつでも報告することができるよう、また報告を受けたら直ちに操船にあたることができるよう、船橋内のソファで休息をとるようにしていた。
C受審人は、日没時に航海灯を点灯し、21時40分備後灘の六島南方約1海里の地点でD指定海難関係人が昇橋したので、同人とともに見張りにあたりながら周囲の航路標識を同人に教え、22時02分二面島灯台から206度1,200メートルの地点で、備讃瀬戸南航路西口まで400メートルとなったとき、それまで長時間自ら船橋当直に就いていたのでD指定海難関係人に当直を行わせて船橋内でしばらく休むこととしたが、同人が長年一緒に乗船して当直経験が十分にあったことに気を許し、困ったときには適宜報告してくれるものと思い、転針地点に近づいたとき及び船橋を離れるときには必ず報告するよう船長への報告時機について十分に指示することなく、同人に船橋当直を引き継ぎ、船橋前面の窓の下に置いたソファに横になって休息した。
22時03分D指定海難関係人は、備讃瀬戸南航路に入り、同時09分二面島灯台から123度1.1海里の地点で船首方向750メートルに住吉丸押船列の船尾灯を初認したとき、針路を同押船列の北方に向く082度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.1ノットの対地速力で、同南航路にほぼ沿って進行した。
定針したときD指定海難関係人は、住吉丸押船列を右舷船首15度に認め、その後徐々に接近するものの方位が右に変わることからその左舷側を無難に追い越すことができると考え、22時16分少し前高見港南防波堤灯台から229度1.3海里の地点で、備讃瀬戸南航路第3号灯浮標(以下「備讃瀬戸南航路」を省略する。)を左舷側250メートルに航過して航路屈曲部に近づき、同押船列を右舷船首51度490メートルに認めるようになったとき、のどの渇きを覚えて水を飲みたくなったので上甲板左舷側の食堂に降りることとしたが、依然同押船列の方位が右方に変わっており、しばらくこのまま航行しても大丈夫と思い、短時間で戻るつもりでC受審人に転針地点に近づいたこと及び船橋を離れることを報告することなく降橋した。
こうして開運丸は、D指定海難関係人がC受審人に無断で降橋したことから船橋が無人状態となり、22時16分航路に沿って左転した住吉丸押船列のマスト灯と左舷灯を右舷船首52度490メートルに視認できるようになり、同時18分航路屈曲部に達し、住吉丸押船列が同方位240メートルに接近したものの、航路に沿って転針する措置がとられず、その後航路を斜航しながら衝突のおそれがある態勢で同押船列に接近したが、速やかに左転するなどしてその進路を避けることなく続航した。
D指定海難関係人は、食堂で水を飲んだあと、22時20分わずか前ボートデッキ右舷側から船橋に上がる途中、右舷船首至近に迫った住吉丸押船列を認め、急いで船橋に戻って手動操舵に切り替えたとき、開運丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
C受審人は、衝撃で目覚め、損傷を確認するなど事後の措置にあたった。
衝突の結果、住吉丸は損傷がなく、山陽3号の左舷側後部ハンドレールが圧壊し、開運丸は、右舷船首部外板に凹損が生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸西部の備讃瀬戸南航路において、両船が高見島南方沖合の同航路屈曲部付近を航行中、開運丸が、船橋が無人状態となり、航路に沿って航行せず、航路に沿って航行中の住吉丸押船列の進路を避けなかったことによって発生したが、住吉丸押船列が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
開運丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、転針地点に近づいたとき及び船橋を離れるときには必ず報告するよう船長への報告時機について十分に指示しなかったことと、船橋当直者が転針地点に近づいたこと及び船橋を離れることを船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
C受審人は、夜間、備讃瀬戸西部を航行中、長時間自ら船橋当直に就いた後、無資格者に船橋当直を行わせる場合、転針地点に近づいたとき及び船橋を離れるときには必ず報告するよう船長への報告時機について十分に指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、船橋当直者が長年一緒に乗船して当直経験が十分にあったことに気を許し、困ったときには適宜報告してくれるものと思い、転針地点に近づいたとき及び船橋を離れるときには必ず報告するよう船長への報告時機について十分に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が、転針地点に近づいたことも船橋を離れることも報告しないまま船橋を離れたため、転針地点で航路に沿って転針することができず、航路に沿って航行中の住吉丸押船列の進路を避けないで進行して同押船列との衝突を招き、山陽3号の左舷側後部ハンドレールを圧壊させるとともに、開運丸の右舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、備讃瀬戸南航路において、高見島南方の航路屈曲部付近を航行中、左舷後方に自船より速力の速い開運丸を認めた場合、同船が無難に追い越すまで同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、いずれ同船が航路に沿って転針し左舷側を無難に追い越して行くものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、航路屈曲部で転針せず航路を斜航する態勢となった同船が避航動作をとらないまま接近することに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作をとることもしないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D指定海難関係人が、夜間、備讃瀬戸南航路において、船橋当直に従事して高見島南方の航路屈曲部付近を航行中、転針地点に近づいたこと及び船橋を離れることを船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、船長に報告しないで船橋を離れたことを深く反省している点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。