(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月4日00時00分
島根県隠岐諸島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一幸榮丸 |
漁船第三生洋丸 |
総トン数 |
95トン |
95トン |
全長 |
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37.40メートル |
登録長 |
29.88メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
1,007キロワット |
3 事実の経過
第一幸榮丸(以下「幸榮丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか9人が乗り組み、かけ回し式かに底引き網漁の目的で、船首2.0メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成13年11月29日20時00分兵庫県浜坂港を発し、翌30日06時00分島根県隠岐諸島北方沖合約30海里の漁場に至り、操業を開始した。
ところで、かけ回し式かに底引き網漁は、えい網索をひし形に時計回りまたは反時計回りにかけ回して投網するもので、えい網の始点にたるを投入し、これに連結したえい網索を約1,000メートル延出しながら進んだところで沈子を連結して沈め、その地点から90度転針してえい網索を約1,000メートル延出しながら進んだところで袋網を連結して投入し、その地点から再び90度転針してえい網索を約1,000メートル延出しながら進んだところで沈子を連結して沈め、更にその地点から90度転針してえい網索を約1,000メートル延出しながら進んで始点に戻り、たるを拾って投網を終えるもので、投網中は船位が大きく変化した。また、その後海潮流に乗じてえい網し、揚網ののち潮上りを行うものであった。
越えて12月3日20時ごろそれまで付近で操業していた約30隻のかに底引き網漁の同業船のほとんどが帰航し、周囲には幸榮丸及び第三生洋丸(以下「生洋丸」という。)を含めて4隻が操業する状況となり、これら4隻は共に北東方に向けえい網し、南西方に向け潮上りをして操業を繰り返していた。
23時44分半A受審人は、船首を北東方に向け漂泊して揚網中、次の投網予定地点の方向にあたる船尾方の210度(真方位、以下同じ。)2.2海里に生洋丸のレーダー映像を認めたので、同船を左舷側に替わすよう次の潮上りの針路を220度と決め、その後、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船が投網中で船位を大きく変えていることに気付かなかった。
23時50分A受審人は、北緯36度50.1分東経133度01.2分の地点で、揚網を終えて反転し、針路を予定どおり220度に定め、機関を回転数毎分630の全速力前進にかけ、折からの北東流に抗して、9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、航行中の動力船の灯火及びトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白2灯のほか作業灯を点灯して、自動操舵により潮上りを開始し、船橋前方窓際に置かれた監視用テレビで船橋後方の作業甲板で行われている大量に網に入ったかにの選別作業を見守りながら進行した。
ところが、23時55分A受審人は、北緯36度49.6分東経133度00.6分の地点に達したとき、正船首方1.0海里に生洋丸の白、白、緑、紅4灯及び緑、白2灯のほか集魚灯数個を認めることができ、さらに北東方に向かう針路模様から同船がえい網中であることを知ることができ、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、潮上りを始めるにあたって同船を替わす針路としたことで衝突のおそれはないものと思い、監視用テレビに見入って同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、そのことに気付かず、その進路を避けないまま続航した。
翌4日00時00分わずか前A受審人は、ふと顔を上げ監視用テレビから目を離して前方を見たところ、左舷側に替わしたつもりの生洋丸をほぼ正船首間近に認めて驚き、直ちに遠隔手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが及ばず、同4日00時00分北緯36度49分東経133度00分の地点において、幸榮丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その右舷船首部と生洋丸の右舷船首部とがほぼ平行に衝突した。
当時、天候は曇で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には約1.0ノットの北東流があり、視界は良好であった。
また、生洋丸は沖合底引き網漁に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか10人が乗り組み、かけ回し式かに底引き網漁の目的で、船首1.65メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、同13年11月29日08時00分鳥取県鳥取港を発し、11時00分ごろ同港北北西方の漁場に到着して操業し、その後漁場を移動して、越えて12月2日00時00分前示衝突地点付近の漁場に至って操業を再開した。
ところで、生洋丸の操業は、えい網索を一辺が1,000メートルのひし形に時計回りにかけ回して投網したのち、機関を極微速力前進にかけ、2.0ノットの速力でえい網を開始し、約1.5海里航走したところでえい網を終えるものであった。
翌3日23時41分ごろB受審人は、たるを投入して投網を開始し、えい網索を延出しながら進み、同時44分半北緯36度48.3分東経132度59.9分の地点で、最初の沈子を沈めその後も投網を続けて始点に戻り、たるを拾い上げて投網を終えた。
23時55分B受審人は、北緯36度48.8分東経132度59.8分の地点で、針路を040度に定め、機関を回転数毎分230の極微速力前進にかけ、折からの北東流に乗じて3.0ノットの速力で、航行中の動力船の灯火及びトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白2灯のほか集魚灯数個を点灯して、自動操舵によりえい網を開始した。
ところが、定針したとき、B受審人は、正船首1.0海里に幸榮丸の白、白、緑、紅4灯及び緑、白2灯のほか作業灯を視認してその動静を監視し、南西方に向かう針路模様から同船が潮上り中で、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況を認めたが、そのうちに潮上り中の同船がえい網中の自船の進路を避けるものと思い、その後、幸榮丸が避航動作をとる様子のないまま間近に接近しても、警告信号を行わず、速やかに大きく右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく、同じ針路速力で続航した。
こうして、翌々4日00時00分わずか前B受審人は、至近に迫った幸榮丸と衝突の危険を感じ、自動操舵のまま左舵をとったが及ばず、生洋丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸榮丸は右舷アンカーローラーを破損し、生洋丸は右舷船首部外板に凹損を生じたが、両船とも操業には支障がなかったので予定どおり操業を行った後、帰航した。
(原因)
本件衝突は、夜間、隠岐諸島北方沖合漁場において、潮上り中の幸榮丸が、動静監視不十分で、前路で漁ろうに従事している生洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、生洋丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、隠岐諸島北方沖合漁場において、レーダーにより操業中の生洋丸を認めた後、反転して潮上りをする場合、えい網を開始した同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、反転後も引き続き生洋丸の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、潮上りの前にレーダーで認めた生洋丸を替わす針路としたので、同船との衝突のおそれはないものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、えい網中の生洋丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かず、その進路を避けないまま進行して衝突を招き、幸榮丸の右舷アンカーローラーに損傷を、生洋丸の右舷船首部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、隠岐諸島北方沖合漁場において、えい網中の自船に向かって潮上りをする幸榮丸が避航動作をとる様子のないまま接近するのを認めた場合、速やかに大きく右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、同船は自船と同じかけ回し式かに底引き網漁に従事する漁船で潮上り中であったから、そのうちにえい網中の自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わず、速やかに大きく右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。