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平成14年広審第100号
件名

瀬渡船第11さくら丸浮消波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、竹内伸二、西林 眞)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:第11さくら丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
さくら丸・・・船首に破口
船長が頭部打撲等、甲板員及び釣客7人が肋骨骨折、頚椎捻 挫等
浮消波堤・・・損傷ない

原因
さくら丸・・・見張り不十分

主文

 本件浮消波堤衝突は、浮消波堤間の水路を航行するにあたり、見張り不十分で、右偏しながら同消波堤に向かって進行したことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月8日20時42分
 島根県 浦郷港

2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船第11さくら丸
総トン数 7.9トン
全長 15.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 316キロワット

3 事実の経過
 第11さくら丸(以下「さくら丸」という。)は、船体ほぼ中央に操舵室を有し、その下部に機関室、その後部に客室が配置されたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人及び甲板員Mが乗り組み、釣客7人を乗せ、船首0.20メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、平成14年6月8日20時40分島根県浦郷港を発し、同県来居港に向かった。
 ところで、浦郷港は、隠岐島前西ノ島の南方に開いた浦郷湾の湾奥中央に位置し、同中央から南方に約1,000メートル突き出た半島の東側にあり、更に同港奥の中央には南方に約300メートル延びる半島があって、両半島の南端を結ぶ線上の北東から南西方にコンクリート製ブロックで構成された沖浮消波堤2基が200メートルの水路幅をもって設置され、東側の同消波堤(以下「東浮消波堤」という。)が長さ215メートル幅9メートル海面上高さ0.85メートル、西側の同消波堤(以下「西浮消波堤」という。)が長さ160メートル幅9メートル海面上高さ0.85メートルで、両浮消波堤のそれぞれ東端には緑灯柱(単閃緑光毎3秒に1閃光、光達距離9.0キロメートル)、西端には紅灯柱(単閃紅光毎3秒に1閃光、光達距離9.0キロメートル)が設けられていた。
 また、A受審人は、浦郷港を基地として主に島根県隠岐郡西ノ島周辺で瀬渡業に携わり、釣りシーズン中は昼夜を問わずさくら丸を運航していたので、浮消波堤の存在や周辺水域の水路事情を熟知していた。
 これよりさき、A受審人は、前日7日昼ごろ大阪からの釣りクラブの客7人を浦郷港で乗船させて西浮消波堤と近くの由良湾の消波堤に瀬渡し、8日20時15分ごろこれらの釣客から風が強くなってきたので釣りを終わらせたいとの知らせを受け、釣客7人を乗せて同港の北側岸壁に向けて帰航し、同時30分レーダーの電源を切って同岸壁に船首付けしようとしたところ、同客からもう一晩釣りをしたいと要望されたので、岸壁の突端で釣るよう勧めたものの、同客がフェリーで帰るのに都合のよい同県知夫里島来居港に行きたいとの要請で、同港に向かうことになった。
 こうして、A受審人は、北風で岸壁から少し離される中、20時39分少し前再びレーダーの電源を入れ、両浮消波堤端に設置された紅、緑2灯からなる水路の中央に船首が向くよう右舵をとり、機関を前進に入れて増速しながら回転数毎分1,700の港内全速力前進として右回頭したのち、徐々に舵を中央付近に戻し、安全な速力にせずに、16.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、20時41分少し前浦郷港弁天防波堤灯台(以下「弁天防波堤灯台」という。)から237度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点で、船首が水路のほぼ中央である153度を向いたのを確認し、わずかな右舵を取ったまま進行した。
 その後すぐにA受審人は、スタンバイ状態にしたレーダーを見ながら、左側に立っていたM甲板員と雑談し、右舵が少し残っていたので予定針路から徐々に右偏を始めたが、舵角指示器を見ないまま、舵を中央に戻したつもりで船首が水路の中央を向いたので大丈夫と思い、東浮消波堤の紅灯と西浮消波堤の緑灯との間を通航できるよう、前路の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かずに続航した。
 A受審人は、その後も右偏を続けて西浮消波堤に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま進行中、20時42分少し前間近に迫った同浮消波堤を初めて認め、左舵一杯を取ったものの効なく、さくら丸は、20時42分弁天防波堤灯台から184度624メートルの地点において、船首が146度を向いたとき、原速力のまま、その船首が西浮消波堤のほぼ中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突の衝撃で顔と頭を前面の計器に打ちつけて一時意識をなくしたが、しばらくして気が付き、自ら操船して着岸させ、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、浮消波堤に損傷がなく、さくら丸は船首に破口を生じたが、のち修理され、M甲板員(昭和23年11月29日生)が気管断裂、頸動脈損傷により、釣客N(昭和15年1月1日生)が外傷性心タンポナーデによりそれぞれ死亡し、同Tが左肋骨多発骨折等により、同Hが右第6,7,11肋骨骨折、下顎骨骨折等によりそれぞれ全治3箇月の、同Iが右肩鎖靱帯断裂等により全治1箇月のそれぞれ入院加療を要する傷を負い、同Dが胸部打撲により、同Eが左肘関節打撲により、同Sが頸椎捻挫等によりそれぞれ全治1週間の、A受審人が頭部打撲、顔面挫創等により全治3週間の傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件浮消波堤衝突は、夜間、島根県浦郷港において、浮消波堤間に設けられた水路を航行する際、前路の見張り不十分で、右偏しながら西浮消波堤に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、島根県浦郷港において、浮消波堤間に設けられた水路を航行する場合、両浮消波堤の存在を知り、それらの先端に設けられた緑、紅2灯が点灯されていたのであるから、水路の中央を通航できるよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、離岸後舵を中央に戻したつもりで船首が水路の中央を向いたので大丈夫と思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、西浮消波堤中央部に向かって進行して衝突を招き、さくら丸の船首に破口を生じさせ、M甲板員を気管断裂、頸動脈損傷により、N釣客を外傷性心タンポナーデによりそれぞれ死亡させ、T釣客が左肋骨多発骨折等により、H釣客が右第6,7,11肋骨骨折、下顎骨骨折等によりそれぞれ全治3箇月の、I釣客が右肩鎖靱帯断裂等により全治1箇月のそれぞれ入院加療を要する傷を負わせ、D釣客が胸部打撲により、E釣客が左肘関節打撲により、S釣客が頸椎捻挫等によりそれぞれ全治1週間の、自らも頭部打撲、顔面挫創等により全治3週間の傷をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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