(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月14日21時43分
広島湾 宮島北東岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートしまど丸 |
総トン数 |
4.3トン |
全長 |
12.15メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
387キロワット |
3 事実の経過
しまど丸は、甲板上船体中央部やや後方寄りに操縦席付きキャビンを設け、レーダーとGPSプロッタ等を装備したFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人8人を乗せ、広島県宮島での水中花火大会見物の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成14年8月14日18時00分同県東能美島の深江漁港を発し、同県宮島厳島神社沖合に向かった。
ところで、A受審人は、父親Kがしまど丸を交通船に使用しているので、平素休日にしまど丸をレジャーのため利用して深江漁港周辺で釣りを行うために操船し、夜間に宮島北東岸水域を航行した経験がなく、同水域周辺を含む広島湾内にかき養殖筏が多数設置されていることは知っていたものの、宮島北東岸に設置された3箇所の同養殖筏区域の北東及び南東端付近に私設灯浮標が設けられ、各養殖筏の端に、シンカーに長さ約150メートルの筏係止用ワイヤーロープを取り付けた小さな筏(以下「豆筏」という。)があることを知らなかったが、夜間宮島付近から深江漁港に向かう際は同湾内に散在する島々を辿って帰航すれば大丈夫と思い、同港発航に先立ち、最寄りの漁業協同組合や海上保安部で同養殖筏の私設灯浮標、豆筏係止用ワイヤーロープ等の状況を確認するなどして水路調査を十分に行わなかった。また、同受審人はしまど丸にレーダーが装備され、数年間使用していたものの、電源を入れて表示された映像を見る程度で、方位や距離を測定して同映像を判断することができなかった。
こうして、発航後A受審人は、西能美島南西岸沖合に続いて宮島東岸と同県絵ノ島間との宮島瀬戸西側を経て、宮島北東岸のかき養殖筏から離れて北上したので同筏係止用ワイヤーロープの存在に気付かずに航行し、同日18時30分宮島北岸沖合に至り、厳島神社の北西方約600メートルの地点に錨泊していた作業船に係留し、同船に上がって花火見物ののち、21時25分帰途に就いた。
A受審人は、自船同様帰りを急ぐ花火見物船が次々と動き出し混雑した状況であったので、しばらくの間これらを避けるため、機関を増減速して航行した。そして、21時40分安芸絵ノ島灯台から331度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を同県大奈佐美島西端の閻魔鼻沖合に向く163度に定め、機関を半速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
21時41分A受審人は、同灯台から329度1.2海里の地点で、使用レンジが分からないレーダー映像を見ていたとき、右舷前方のかき養殖筏群から少し離れたところに映っていた私設灯浮標の映像を認め、肉眼で前方を見たところ、正船首少し左に同灯浮標の明かりを認めたものの、かき養殖筏区域の南東端を示す同標識灯の存在を知らなかったのでこれを小型船の灯火と誤認し、同標識灯を左舷側に航過することとして同養殖筏区域を避けることなく進行中、しまど丸は、21時43分安芸絵ノ島灯台から321度1,450メートルの地点において、原針路、原速力のまま豆筏係止用ワイヤーロープに直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、しまど丸は、衝突したワイヤーロープの反動により後方に引き戻され、推進器軸、同翼及びブラケットを曲損し、ワイヤーロープに損傷を生じたが、のちいずれも修理された。また、衝突の衝撃で友人Yが右鎖骨骨折等により1箇月半の入院加療を要する負傷を、同Eが右母指切断により3箇月の、同U、同H、同C及び同Dが頸椎捻挫等により、それぞれ約1週間の通院加療を要する傷を負った。
(原因)
本件かき養殖筏衝突は、夜間、宮島での水中花火大会見物のため広島湾を航行する際、航海予定海域のかき養殖筏についての水路調査が不十分で、宮島北東岸に設置されたかき養殖筏に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、広島湾宮島北東岸において、同島の水中花火大会見物ののち、広島県深江漁港に向けて航海に臨む場合、航海予定海域について不慣れであったのであるから、同港発航に先立ち、最寄りの漁業協同組合や海上保安部に連絡して同養殖筏の設置状況を確認するなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同湾内に散在する島々を辿って帰航すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、かき養殖筏に接近して豆筏係止用ワイヤーロープとの衝突を招き、しまど丸の推進器軸、同翼及びブラケットを曲損し、同筏係止用ワイヤーロープに損傷を生じさせ、また、友人6人に重軽傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。