(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月19日11時33分
徳島県徳島小松島港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船廣栄丸 |
プレジャーボートてるよし丸 |
総トン数 |
9.1トン |
|
全長 |
|
9.04メートル |
登録長 |
14.92メートル |
|
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
|
128キロワット |
漁船法馬力数 |
180 |
|
3 事実の経過
廣栄丸は、船びき網漁業に従事するFRP製漁獲物運搬船兼魚群探索船で、A受審人が1人で乗り組み、しらす漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年9月19日06時00分徳島県徳島小松島港を発し、徳島県北東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、漁場到着後、魚群探索を主として行いながら僚船の網船と共に繰り返し操業を続け、11時10分ごろから徳島小松島港東方沖合にある沖ノ瀬付近に向け北上しながら同探索を行った。
ところで、魚群探索は、航行しながら操舵室左舷前面下部に備えた魚群探知器の映像を見て魚影の濃淡を識別するものであった。
11時30分A受審人は、徳島小松島港沖波浪観測塔灯(以下「波浪観測塔灯」という。)から074度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、西方へ向けて魚群探索を行うこととし、魚群探知器の映像を見ながら、針路を260度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
そのとき、A受審人は、正船首方650メートルのところに、右舷側を見せて静止しているてるよし丸を視認することができる状況であったが、魚群探索に気を取られ、同船を見落とさないよう、同方向の見張りを十分に行っていなかったので、てるよし丸の存在に気付かなかった。
A受審人は、てるよし丸が錨泊中の形象物を表示していないものの、折からの風向と静止状況から、錨泊中であることが分かる同船に、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、左転するなど、てるよし丸を避けることなく続航中、11時33分わずか前船首方至近に同船を初めて視認し、機関を後進にかけたが及ばず、11時33分波浪観測塔灯から072度1.0海里の地点において、廣栄丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、てるよし丸の右舷側後部に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、視界は良好であった。
また、てるよし丸は、船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、妻を同乗させ、あじ釣りの目的で、船首尾とも0.4メートルの等喫水をもって、同日09時45分徳島小松島港を発し、同港東方沖合の釣り場に向かった。
10時00分B受審人は、衝突地点付近に到着し、水深約25メートルのところで機関停止のうえ、船首部から重さ16キログラムの錨を投じ、長さ3メートルの錨鎖に長さ55メートルの合成繊維索を繋いだものを延出して錨泊し、錨泊中の形象物を表示しないまま、船体後部左舷側のいすに同乗者を座らせ、自らは同部右舷側のいすに船尾方を向いて座り、竿釣りを始めた。
11時30分B受審人は、船首を000度に向けていたとき、右舷船首80度650メートルのところに、来航する廣栄丸を視認できる状況であったが、下を向いて釣り糸のもつれを直すことに気を取られ、接近する同船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行わなかったので、廣栄丸の存在に気付かなかった。
こうして、B受審人は、その後廣栄丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、備えてある笛を吹くなど、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に接近したとき、機関をかけて前進するなど、衝突を避けるための措置をとることもしないでいるうち、11時33分わずか前同乗者が「危ない」と叫んだ直後、てるよし丸は、船首を000度に向けた状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、廣栄丸は船首部に擦過傷を、てるよし丸は右舷側後部外板に破口をそれぞれ生じたが、のちてるよし丸は修理され、また、てるよし丸の同乗者が頭部打撲傷などを負った。
(原因)
本件衝突は、徳島小松島港東方沖合において、西行中の廣栄丸が、見張り不十分で、錨泊中のてるよし丸を避けなかったことによって発生したが、てるよし丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、徳島小松島港東方沖合において、魚群探索を行いながら西行する場合、前路で錨泊しているてるよし丸を見落とさないよう、正船首方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚群探索に気を取られ、正船首方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、てるよし丸の存在と接近に気付かず、左転するなど、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、てるよし丸の右舷側後部外板に破口をそれぞれ生じさせ、また、てるよし丸の同乗者に頭部打撲傷などを負わせるに至った。
B受審人は、徳島小松島港東方沖合において、錨泊して釣りを行う場合、接近する廣栄丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、下を向いて釣り糸のもつれを直すことに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、機関をかけて前進するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。