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平成14年神審第104号
件名

貨物船第十八新福丸引船第二十五宝生丸引船列衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(黒田 均、大本直宏、村松雅史)

理事官
西山烝一

受審人
A 職名:第十八新福丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第二十五宝生丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
新福丸・・・船首部外板に亀裂を伴う凹損
土運船16号・・・船尾部に破損

原因
新福丸・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
宝生丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第十八新福丸が、動静監視不十分で、第二十五宝生丸引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第二十五宝生丸引船列が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月3日21時30分
 千葉県犬吠埼南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八新福丸  
総トン数 499トン  
全長 77.08メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  
船種船名 引船第二十五宝生丸  
総トン数 192トン  
全長 34.10メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,912キロワット  
船種船名 土運船(A)5-1600 土運船(A)16-1501
総トン数 1,563トン 1,563トン
長さ 59メートル 58メートル
15メートル 15メートル
深さ 5メートル 5メートル

3 事実の経過
 第十八新福丸(以下「新福丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、コンテナ貨物342トンを積載し、船首2.50メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成13年7月2日11時50分北海道苫小牧港を発し、京浜港横浜区に向かった。
 翌3日19時45分A受審人は、犬吠埼北方で昇橋して単独の船橋当直に就き、所定の航海灯が表示されているのを確認し、20時26分半犬吠埼灯台から096度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点において、針路を213度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
 21時10分A受審人は、3海里レンジとしたレーダーで、船首方2.6海里のところに、同航中の第二十五宝生丸(以下「宝生丸」という。)と同船に曳航された土運船(A)5-1600(以下「土運船5号」という。)及び同(A)16-1501(以下「土運船16号」という。)により構成された引船列(以下「宝生丸引船列」という。)の映像を探知し、同時15分2.0海里となった宝生丸の橙色回転灯のほか船尾灯と引船灯を視認したが、まだ距離があるので大丈夫と思い、その後の動静監視を十分に行わないで続航した。
 21時28分少し前A受審人は、犬吠埼灯台から196度12.4海里の地点に達したとき、宝生丸引船列の後端まで500メートルに接近し、土運船16号に表示されていた標識灯を視認できる状況となり、その後自船が同引船列を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視不十分で、このことに気付かなかったので、宝生丸引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないで進行した。
 21時30分少し前A受審人は、船首方至近のところに、前示の標識灯をようやく認め、衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替え右舵一杯としたが間に合わず、21時30分犬吠埼灯台から197度12.8海里の地点において、新福丸は、219度に向首したとき、原速力のまま、その船首部が、土運船16号の船尾部右舷側に、後方から5度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、宝生丸は、2基2軸を有する鋼製引船で、B受審人ほか3人が乗り組み、船首2.6メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、いずれも空倉で船首尾0.9メートルの等喫水となった、非自航で無人の土運船5号及び同16号を順に曳航し、同月2日13時00分宮城県石巻港を発し、千葉港に向かった。
 B受審人は、土運船16号の船首中央部と同5号の船尾中央部とを直径90ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ120メートルの合成繊維索で連結して直列とし、土運船5号の両舷船首部に係止した長さ26メートルのブライドルワイヤに、直径90ミリ長さ40メートルの合成繊維索と直径50ミリ長さ400メートルのワイヤロープからなる曳航索を取り付け、その他端を宝生丸の曳航フックにかけ、同船の船尾から土運船16号の後端までの長さを約700メートルとしていた。
 そして、夜間、宝生丸には、所定の航海灯のほか橙色回転灯を表示し、各土運船には、前部の甲板上で海面からの高さ4メートルのところに3個、後部の甲板室上で同高さ6メートルのところに5個、それぞれ6ボルトのアルカリ乾電池を電源とする4秒1閃の黄色点滅式標識灯を表示していた。
 翌3日18時00分B受審人は、犬吠埼北方で昇橋して単独の船橋当直に就き、日没ごろ前示の灯火を表示し、19時25分半犬吠埼灯台から132度3.8海里の地点において、針路を214度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.6ノットの曳航速力で、自動操舵により進行した。
 21時15分B受審人は、船尾方2.0海里のところに、同航中の新福丸のマスト灯と両舷灯を初めて視認したが、同船が自船を避けてくれるものと思い、その後の動静監視を十分に行わないで続航した。
 21時28分少し前B受審人は、犬吠埼灯台から197度13.0海里の地点に達したとき、新福丸が土運船16号の後端から500メートルのところに接近し、その後自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視不十分で、このことに気付かなかったので、警告信号を行わないで続航した。
 B受審人は、21時30分犬吠埼灯台から197度13.2海里の地点に達したとき、前示のとおり衝突したが、このことに気付かず、新福丸からのVHF電話により衝突したことを知らされ、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、新福丸は、船首部外板に亀裂を伴う凹損を、土運船16号は、船尾部に破損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用等)
 本件は、夜間、千葉県犬吠埼南方沖合において、いずれも南下する新福丸と宝生丸引船列とが衝突したものであるが、以下適用する航法等について検討する。
 衝突地点は、犬吠埼灯台の南南西方約13海里の地点で、港則法及び海上交通安全法の適用がなく、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)により律することになる。
 事実の経過で示したとおり、A受審人は、21時10分船首方2.6海里のところに、同航中の宝生丸引船列の映像を探知し、同時15分2.0海里となった宝生丸の橙色回転灯のほか船尾灯と引船灯を視認し、他方、B受審人は、21時15分船尾方2.0海里のところに、同航中の新福丸のマスト灯と両舷灯を初めて視認した。
 航法に関係する他船はなく、両船の相対位置関係からして、予防法第13条の追越し船の航法が適用されることは明白であるが、同条を適用するには、同法第11条に定める「互いに他の船舶の視野の内にある船舶」の条件を満足しなければならない。
 本件は、A受審人が、宝生丸の船尾灯と引船灯を視認したものの、引かれている船舶の灯火を認めなかったので、両船が2.0海里に接近した時点を見合い関係の発生時期とすることはできず、標識灯の視認距離としてB受審人の供述をとり、500メートルに接近した衝突2分余り前を同時期とするのが相当である。
 その場合、宝生丸引船列にとって、警告信号を行うことは可能であるが、その後しばらく新福丸の様子を見たのち転舵するなど、協力動作をとることについては、引船列の長さ等からして、時間的に余裕がなく、衝突回避の効果を期待できないので、船単位の原因にはならない。

(原因)
 本件衝突は、夜間、千葉県犬吠埼南方沖合において、新福丸が、動静監視不十分で、宝生丸引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、宝生丸引船列が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、千葉県犬吠埼南方沖合を南下中、船首方に同航中の宝生丸引船列を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ距離があるので大丈夫と思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船が同引船列を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないまま進行して同引船列との衝突を招き、自船の船首部外板に亀裂を伴う凹損を、土運船16号の船尾部に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、千葉県犬吠埼南方沖合を南下中、船尾方に同航中の新福丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、新福丸が自船を避けてくれるものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、新福丸が自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わないまま進行して新福丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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