(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月26日04時41分
京浜港東京区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第五富士宮丸 |
作業船第三昭栄丸 |
総トン数 |
199.31トン |
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全長 |
36.48メートル |
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登録長 |
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9.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
257キロワット |
139キロワット |
3 事実の経過
第五富士宮丸(以下「富士宮丸」という。)は、専ら東京湾内において石油製品の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人、B指定海難関係人ほか1人が乗り組み、ガソリン400キロリットルを積載し、船首1.90メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、平成14年3月26日04時00分多摩川河口から1.2海里ばかり上流の同川右岸にある、京浜港川崎区第1区浮島の多摩川に面した桟橋を発し、法定灯火のほか、引火性液体類を積載していることを示す赤灯を後部マストに掲げ、荒川上流にある埼玉県和光市の油槽所に向かった。
出航操船に引き続き船橋当直に就いたA受審人は、多摩川を南下したのち東京国際空港南方沖合を東行し、04時20分少し前羽田沖灯浮標を右舷側に見る、東京灯標から201度(真方位、以下同じ。)1.85海里の地点に達したとき、針路を同灯標の西側に向首する019度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、京浜港東京区港界線の1海里余り内側を手動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、B指定海難関係人と前年の12月から初めて乗り合わせて以来、同人の操船が、関係する他船に対し早めに避航動作をとっているように見え、また、甲種甲板部航海当直部員の資格を持っていたこともあって、十分に当直を任せることができるものと判断していた。
04時30分A受審人は、東京灯標から205度1,240メートルの地点に至ったとき、通航船の最も少ない時間帯なので、食事をとる30分ばかりの間であればB指定海難関係人に当直を任せても大丈夫と思い、港内を自ら操舵操船せず、特別当直についての指示をすることもなくB指定海難関係人と当直を交代し、まもなく降橋して食事を始めた。
B指定海難関係人は、東京灯標付近の単独当直には少々不安があったものの、A受審人に操船の指揮をとるよう申し出ることなく、舵輪後方の椅子に腰をかけた体勢で操舵操船に当たって続航中、04時33分半わずか過ぎ東京灯標から214度500メートルの地点に達したとき、東京東第1号灯浮標東側の、正船首わずか左1.95海里のところに第三昭栄丸(以下「昭栄丸」という。)の紅灯を初めて認め、その動静を監視するうち、緑灯と紅灯を交互に認めるようになり、間近に接近することが予測できたが、A受審人に報告しないまま進行し、同時36分東京灯標から314度150メートルの地点において、同船の灯火を同方位1.3海里に認めるようになったとき、航過距離を広げるべく針路を028度に転じた。
転針後B指定海難関係人は、昭栄丸の緑灯を見る機会が減るとともに、04時38分からは明確に紅灯のみを認めるようになり、同船と互いに左舷を対し150メートルの距離をもって無難に航過する態勢にあったことから、このまま左舷対左舷で航過できるものと思い、同船の灯火から目を離し、その後の動静監視を行うことなく続航した。
04時40分B指定海難関係人は、東京灯標から19度920メートルの地点に至ったとき、左舷船首23度460メートルとなった昭栄丸が突然左転し、無難に航過する態勢の自船に対し新たな衝突のおそれを生じさせるようになったが、動静監視を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、警告信号を行うことも、機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとることもできないまま進行した。
04時41分少し前B指定海難関係人は、ふと前方を見て至近に昭栄丸の緑灯を認め、短音1回に続き右舵一杯、機関中立としたが及ばず、04時41分富士宮丸は、東京灯標から021度1,120メートルの地点において、ほぼ原針路、原速力のまま、その左舷船首部に昭栄丸の船首部が前方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
A受審人は、船体の衝撃で衝突を知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また、昭栄丸は、専ら京浜港内や河川を航行する木造作業船で、C受審人が1人で乗り組み、曳航の目的で、船首0.80メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同月25日21時20分京浜港横浜区第3区の大黒運河に近接した係留地を発し、小型作業船を曳航して荒川経由で綾瀬川を上航し、翌26日00時20分東京都足立区に架かる綾瀬新橋近くで同作業船を離して曳航を終えたのち、荒川に入る水門付近まで戻って2時間ほど休憩し、03時40分同付近を発進して独航で帰途に就いた。
ところで、C受審人は、S汽船株式会社の社長として30隻ほどの小型船艇を運航しており、その多くが橋梁下通過用のマスト灯付可倒式マストを備え、橋梁下に余裕のないところでは同マストを倒して通過するようにしていたところ、いつしかマストを倒した状態で固縛し、夜間、橋梁下に余裕のある荒川や港湾においてもマスト灯を適切に表示しないで航行するようになっていたことを承知していたが、管海官庁などから指摘を受けなかったことから特別に改善を指示することなく、当時、自らも同マストを倒したまま、操舵室頂部の前面に両色灯を、同後面に船尾灯をそれぞれ掲げただけで航行していた。
C受審人は、荒川を下航して京浜港東京区第4区に入り、04時33分半わずか過ぎ東京東第1号灯浮標を右舷側50メートルばかりに並航する、東京灯標から015度1.7海里の地点に達したとき、針路を同灯標にほぼ向首する194度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で手動操舵とし、船首が少し左右に振れる状態で進行した。
04時36分C受審人は、東京灯標から015度1.3海里の地点に至ったとき、右舷船首4度1.3海里に白、紅各1灯に加え、赤灯を掲げた富士宮丸を認めることができる状況となったが、通航船の最も少ない時間帯なので他船はいないものと思い、見張りを怠っていたため、富士宮丸の灯火に気付かないまま続航した。
04時38分C受審人は、東京灯標から016度1.05海里の地点に至ったとき、同灯標の西側を通航するため、針路を198度に転じ、富士宮丸と互いに左舷を対し150メートルの距離をもって無難に航過する態勢で進行した。
04時40分C受審人は、東京灯標から014.5度1,360メートルの地点に達したとき、中央防波堤外側埋立地(その2)南東側の工事区域沖合から東京灯標にかけての海域で、水中の障害物に遭遇したことをふと思い出し、沖に出して東京灯標の東側を通航すべく左転することとしたが、依然、周囲の見張りが不十分で、左舷船首13度460メートルに接近していた富士宮丸の灯火に気付かなかった。
こうしてC受審人は、針路を168度に転じ、無難に航過する態勢の富士宮丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けるための措置をとることなく続航中、昭栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、富士宮丸は、左舷船首部に凹損を生じたが、のち修理され、昭栄丸は、船首部を圧壊して沈没し、一旦(いったん)、引き揚げられたものの、のち廃船とされた。また、C受審人が、3週間の通院加療を要する右膝等の打撲傷、右前頭部挫創及び右足関節捻挫を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、京浜港東京区において、昭栄丸が、見張り不十分で、富士宮丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、富士宮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
富士宮丸の運航が適切でなかったのは、船長が、港内航行中、自ら操船の指揮をとらなかったこと、当直者が船長に操船の指揮をとるよう申し出なかったこと及び動静監視を十分に行わなかったことによるものである。
(受審人等の所為)
C受審人は、夜間、京浜港東京区を航行中、針路を転ずる場合、無難に航過する態勢で接近する富士宮丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき意義務があった。しかるに、同人は、通航船が最も少ない時間帯なので他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、富士宮丸に気付かないまま転針し、無難に航過する態勢の同船に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、同船を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、富士宮丸の左舷船首部に凹損を生じさせ、昭栄丸の船首部を圧壊して沈没させるに至った。また、自らも3週間の通院加療を要する右膝等の打撲傷などを負った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、京浜港東京区を航行する場合、自ら操船すべき注意義務があった。しかるに、同人は、通航船の最も少ない時間帯なので、食事をとる30分ばかりの間であれば甲板員に当直を任せても大丈夫と思い、港内を自ら操船しなかった職務上の過失により、無難に航過する態勢の自船に、転針して新たな衝突のおそれを生じさせた昭栄丸に対し、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもできないまま進行して衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、京浜港東京区を航行中、船長と当直を交代した際、操船の指揮をとるよう申し出なかったこと及び昭栄丸の灯火を認めた際、動静監視を十分に行わなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。