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平成14年横審第112号
件名

旅客船志摩丸プレジャーボート伊勢I号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(原 清澄、小須田 敏、甲斐賢一郎)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:志摩丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:伊勢I号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
志摩丸・・・右舷前部に擦過傷
伊勢I号・・・左舷船首部を圧壊

原因
志摩丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
伊勢I号・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、志摩丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る伊勢I号の進路を避けなかったことによって発生したが、伊勢I号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月15日09時21分
 愛知県伊良湖岬西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 旅客船志摩丸 プレジャーボート伊勢I号
総トン数 1,593トン  
全長 64.30メートル 11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,647キロワット 169キロワット

3 事実の経過
 志摩丸は、船首部に操舵室を有する旅客船兼自動車渡船で、船長U及びA受審人ほか6人が乗り組み、旅客108人を乗せ、自動車25台及びバス1台を積載し、船首2.70メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成13年9月15日09時10分愛知県伊良湖(いらご)港を発し、三重県鳥羽港に向かった。
 U船長は、後進して岸壁を離れ、回頭して船首を港口に向け、徐々に増速して伊良湖港防波堤灯台を左舷側至近に見るようになったとき、左舵をとって同灯台をつけ回し、09時17分少し前中山水道第2号灯浮標と同灯台との中間付近の、伊良湖岬灯台から358度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの地点に達したとき、針路を三重県答志(とうし)島の築上埼に向く233度に定め、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの対地速力(以下、「速力」という。)とし、手動操舵により進行した。
 定針後、U船長は、作業を終えてすでに昇橋していたA受審人に、平素のとおり船橋当直を引き継ぎ、自らは操舵室左舷側後部にある海図台の前にいすを置き、これに座って乗組員の作業の割り振りなどの検討を始めた。
 U船長が定針するのを傍で見ていたA受審人は、定針したとき、右舷船首86度1.2海里のところに、前路を左方に横切る態勢で南下中の伊勢I号を視認できたが、そのころ右舷船首45度2.5海里ばかりのところを伊良湖水道航路に向けて南下中の小型鋼船があり、いずれ避航しなければならなくなるおそれのある同船に気を取られ、伊勢I号に気付かないまま続航した。
 09時19分A受審人は、伊良湖岬灯台から306度970メートルの地点に達したとき、伊勢I号の方位に変化のないまま、1,100メートルのところまで接近し、同船と衝突のおそれのある態勢となっていることが分かる状況であったが、依然として南下中の小型鋼船に気を取られていて、このことに気付かず、周囲の見張りを十分に行わないまま、伊勢I号の進路を避けることなく進行した。
 09時21分わずか前A受審人は、操舵中の甲板手が発した「危ない、汽笛。」という叫び声で初めて伊勢I号の存在に気付き、驚きの叫び声をあげ、急いで長音一声を吹鳴し、甲板手に左舵を指示し、機関を停止したが、及ばず、09時21分伊良湖岬灯台から272度1,480メートルの地点において、志摩丸は、原針路、原速力のまま、その右舷前部に、伊勢I号の左舷船首部が後方から44度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 U船長は、A受審人の叫び声を聞き、操舵室右舷側へ移動し、伊勢I号と衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
 また、伊勢I号は、船体中央部に操縦席を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りを行う目的で、友人1人を乗せ、船首0.4メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日08時30分愛知県寺津漁港を発し、同県篠島港に寄せて釣り餌を積み込んだのち、伊良湖岬南方沖合の釣り場に向かった。
 09時07分少し前B受審人は、尾張野島灯台から320度1,350メートルの地点に達したとき、針路を179度に定め、機関を全速力前進にかけて22.0ノットの速力とし、自動操舵により進行した。
 ところで、B受審人は、伊勢I号の操縦席の旋回窓が、右舷側に1個だけしか設置されておらず、左舷方から波浪を受けて航走する際には窓にしぶきがかかって左舷方の見通しが悪くなり、同方向の見張りをレーダーなどに頼らざる得ない状況にあったものの、レーダーレンジを0.5海里に固定し、同レンジを適宜変更するなどしてレーダーを適切に使用せず、左舷方の見張りを十分に行えない状態のまま続航した。
 09時17分少し前B受審人は、伊良湖岬灯台から332度1.8海里の地点に達したとき、左舷船首40度1.2海里のところに左方から前路を右方に横切る態勢の志摩丸を視認できたが、そのころ前路を横切る第三船の避航を終えたことから、もう付近に他船はいないものと思い、適宜レーダーレンジを変更するなどして周囲の見張りを十分に行っていなかったので、左舷前方から接近する志摩丸に気付かないまま進行した。
 09時19分B受審人は、伊良湖岬灯台から313度1.1海里の地点に達したとき、志摩丸の方位に変化のないまま、1,100メートルのところまで接近し、同船と衝突のおそれのある態勢となっていることが分かる状況となったが、依然として周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、志摩丸に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 09時21分わずか前B受審人は、志摩丸が吹鳴した汽笛音を聞き、左舷船首至近に迫った同船を初めて認め、衝突の危険を感じて右舵をとり、減速したが、及ばず、針路が10度右転し、速力が約15ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、志摩丸は、右舷前部に擦過傷を生じ、伊勢I号は、左舷船首部を圧壊するなどの損傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、愛知県伊良湖岬西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、南西進中の志摩丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る伊勢I号の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の伊勢I号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、愛知県伊良湖岬西方沖合において三重県鳥羽港に向けて航行する場合、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する伊勢I号を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、伊良湖水道航路に向けて南下する小型鋼船に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する伊勢I号に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、志摩丸の右舷前部に擦過傷を生じさせ、伊勢I号の左舷船首部を圧壊させるなどの損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、愛知県伊良湖岬西方沖合を波浪を受けて航走する場合、しぶきで左舷方が見えにくい状況であったから、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する志摩丸を見落とすことのないよう、適宜レーダーレンジを切り替えるなどして左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を横切る第三船を避航したので、付近には他船はいないものと思い、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する志摩丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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