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平成14年横審第113号
件名

遊漁船林崎一栄丸プレジャーボートケイユ丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月21日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、黒岩 貢、花原敏朗)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:林崎一栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ケイユ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
一栄丸・・・船首部外板及び右舷ビルジキールなどに破損
ケイユ丸・・・操舵室側壁などに損壊、転覆し、のち廃船

原因
一栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ケイユ丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、林崎一栄丸が、見張り不十分で、錨泊中のケイユ丸を避けなかったことによって発生したが、ケイユ丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月24日08時15分
 三重県神島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船林崎一栄丸 プレジャーボートケイユ丸
総トン数 4.0トン  
全長 12.41メートル 6.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 242キロワット 62キロワット

3 事実の経過
 林崎一栄丸(以下「一栄丸」という。)は、船体中央部船尾寄りに操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客4人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.25メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成12年9月24日06時00分愛知県師崎(もろさき)港を発し、神島南方約4海里のところに存在する瀬木寄瀬(せぎょうせ)周辺の釣り場に向かった。
 ところで、瀬木寄瀬周辺は、同瀬の南側に鯛島礁が、北側にアサマオ瀬がそれぞれ拡延しているため、多くの遊漁船やプレジャーボートなどが集まり、錨泊などして釣りをする水域であった。
 06時53分A受審人は、予定していた瀬木寄瀬南側にあたる神島灯台から170度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点で、一旦錨泊して釣りを始めたものの、芳しい釣果がなかったので、間もなく同錨地を発進し、機関を微速力前進にかけて8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により適宜針路を変更しながら同瀬から鯛島礁にかけての水域で魚群探索を始めた。
 08時05分A受審人は、神島灯台から187度3.95海里の鯛島礁北部の地点で、針路を瀬木寄瀬の南側に向かう072度に定め、舵輪の右舷側やや下方に装備した魚群探知機の画面に目を向けるなどしながら探索を続けた。
 08時14分A受審人は、神島灯台から169度3.6海里の地点に達したとき、正船首方250メートルのところにケイユ丸を視認でき、その後同船が錨泊中であることを示す法定の形象物を表示していなかったものの、船首から索を海面に伸出させ、折からの風潮流に船首を立てており、方位が変わらない状態などから錨泊中であることも、また、同船に衝突のおそれのある態勢で接近していることも分かる状況であったが、前路に認めた釣り船集団を替わすように定針したことから、船首方に航行の支障となる船舶はいないものと思い、前路の見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かなかった。
 こうしてA受審人は、ケイユ丸を避けることなく同じ針路、速力で進行し、08時15分一栄丸は、神島灯台から167度3.6海里の地点において、その船首がケイユ丸の左舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で視界は良好であった。
 A受審人は、船体に衝撃を受けてケイユ丸と衝突したことに気付き、事後の措置に当たった。
 また、ケイユ丸は、船体中央部に操縦席を設けたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人3人を同乗させ、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じないまま、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日06時00分愛知県西尾市平坂入江の係留地を発し、釣り餌を購入するために一旦師崎港に寄港したのち、瀬木寄瀬周辺の釣り場に向かった。
 B受審人は、07時35分神島灯台から158度2.6海里の予定していた瀬木寄瀬東側の地点で、一旦錨泊して釣りを始めたものの、全く釣果がなかったので、その後約1海里南方に認めた釣り船集団の近くに移動することとして同錨地を発進した。
 07時53分B受審人は、水深約23メートルの前示衝突地点において、機関を停止して船首から重さ8キログラムの鋼製錨を投じ、直径12ミリメートルの化学繊維製索を船首から約80メートル伸出させ、折からの風潮流により船首を北西方に向け、法定の形象物を表示しないまま錨泊を始め、船尾甲板の右舷側で船尾方を向き、同乗者2人が同甲板の左舷側で左舷方を、他の同乗者が船尾端で船尾方をそれぞれ向いて釣りを再開した。
 08時14分B受審人は、左舷正横250メートルのところに自船に向首する一栄丸を初めて視認し、その後その動静を見守っていたところ、同船が避航する気配を示さないまま衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、自船に用事があって近づくものであろうから、いずれ減速などするものと思い、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けた。
 08時15分少し前B受審人は、一栄丸が近距離に迫っても、依然として同じ針路、速力のまま接近することから不安を感じ、あわてて船尾端付近で両手を振って大声で叫ぶとともに、同乗者の1人が船首部に移動して釣り竿を左右に振って避航を促したが、効なく、ケイユ丸は、その船首が342度に向いていたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、一栄丸は、船首部外板及び右舷ビルジキールなどに破損を生じたが、のち修理され、ケイユ丸は、操舵室側壁などに損壊を、及び左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じて転覆し、のち廃船処理された。
 B受審人及びケイユ丸同乗者は、衝突の衝撃で海中に投げ出されたが、一栄丸に救助された。

(原因)
 本件衝突は、三重県神島南方沖合の釣り場において、魚群探索中の一栄丸が、見張り不十分で、錨泊中のケイユ丸を避けなかったことによって発生したが、ケイユ丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、三重県神島南方沖合の釣り場において、魚群探知機を用いて探索を行う場合、錨泊中のケイユ丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路に認めた釣り船集団を替わすように定針したことから、船首方に航行の支障となる船舶はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ケイユ丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、一栄丸の船首部外板及び右舷ビルジキールなどに破損を生じさせ、ケイユ丸の操舵室側壁などに損壊を、及び左舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせて転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、三重県神島南方沖合の釣り場において錨泊中、一栄丸が自船に向首し、正横から避航する気配を示さないまま衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた場合、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、一栄丸が自船に用事があって近づくものであろうから、いずれ減速などするものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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