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平成14年横審第117号
件名

貨物船荒戸丸漁船窪三丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(甲斐賢一郎、森田秀彦、黒岩 貢)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:荒戸丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:窪三丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
荒戸丸・・・球状船首に擦過傷
窪三丸・・・右舷船首部に破口及び亀裂等
船長と甲板員1人が肋骨骨折及び頚椎捻挫

原因
荒戸丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
窪三丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、荒戸丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している窪三丸の進路を避けなかったことによって発生したが、窪三丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月14日08時10分
 東京湾東扇島南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船荒戸丸 漁船窪三丸
総トン数 498トン 6.6トン
全長 49.98メートル 15.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   110

3 事実の経過
 荒戸丸は、船尾船橋型の鋼製砂利運搬船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成12年3月14日06時30分千葉港千葉区第4区袖ヶ浦ふ頭を発し、京浜港横浜区第3区鈴繁ふ頭に向かった。
 ところで、荒戸丸の前部甲板中央部には、荷役用回転式ジブクレーンが装備され、鋼材で格子状に組まれた側板を有する長さ約20メートルのブームが、船尾に向けて船首尾線上で45度の角度まで立てて固定されていた。そのため、船橋中央部から船首方を見た場合、ブーム側板の隙間から一部透けて見えることがあったものの、正船首左右各2度にわたってほとんど死角となっていたが、当直者が船橋内で左右に移動して見張りを行えば、死角を補うことができた。
 A受審人は、離岸作業に引き続き操船に当たり、東京湾を西行し、07時35分東京湾アクアライン風の塔灯から085度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、針路を249度に定め、機関を港内全速力前進にかけて、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵で進行した。
 定針してからA受審人は、東燃扇島シーバース南東方沖合に数隻の錨泊船を認め、その後これらを右舷に見て近距離で航過したとき、周囲を一瞥(いちべつ)したところ、これら錨泊船以外に他船を認めなかったことから、前路に支障となる他船はいないものと思い、操舵機のすぐ後方やや右舷側にある長いすに腰を降ろし、見張りを十分に行うことなく続航した。
 08時05分半A受審人は、川崎東扇島防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から115度1.9海里の地点に至ったとき、左舷船首1度1,360メートルのところに、漁ろうに従事していることを示す形象物を表示して黄色回転灯を点灯した窪三丸を視認し得る状況となり、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、船橋内を左右に移動して船首方の状況を確かめるなど、死角を補う見張りを十分に行うことなく、このことに気付かないまま進行した。
 08時08分少し前A受審人は、窪三丸が同方位のまま600メートルのところまで接近したものの、依然、このことに気付かず、漁ろうに従事する同船の進路を避けないまま続航し、同時10分少し前、ほぼ正船首100メートルに接近した窪三丸の黄色回転灯をブームの格子状に組まれた側板の間に初めて視認し、右舵一杯、機関全速力後進としたが、及ばず、08時10分西灯台から131度1.5海里の地点において、荒戸丸は、300度に向首して速力が約2ノットとなったとき、その船首が窪三丸の右舷船首部に前方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、窪三丸は、はえなわ漁業に従事し、船体中央やや後部に操舵室を有するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、あなご漁の目的で、船首0.0メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日07時00分京浜港横浜区第5区にある柴漁港を発し、神奈川県川崎市東扇島南方沖合の漁場に向かった。
 ところで、窪三丸の行うあなご漁は、東扇島南方及び東方沖合の漁場で、直径約12センチメートル(以下「センチ」という。)長さ約80センチのプラスチック製あなご筒を約22.5メートルの間隔に取り付けた、直径6ミリメートル長さ約5,200メートルの幹縄を直線状に海底に這わせ、一晩置いたのち、揚縄機で幹縄を巻き揚げながら極微速力で幹縄に沿って進み、筒を取り込んであなごを捕獲するもので、揚縄中は船体の移動が自由にならず、操縦性能が制限される状況であった。
 B受審人は、07時48分前示漁場に到着し、同時50分西灯台から152度1.4海里の地点に達したとき、黄色回転灯を点灯して漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げ、船体前部左舷側に設置されたラインホーラの後方で船首方を向いて立ち、ラインホーラに付属した遠隔操縦装置を使用して針路を060度に定め、機関を適宜調節し1.6ノットの速力で、手動操舵により、あなご漁の揚縄を行いながら進行した。
 08時05分半B受審人は、西灯台から135.5度1.5海里の地点に至ったとき、右舷船首8度1,360メートルのところに、自船に向け接近する荒戸丸を視認し得る状況となり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、接近する他船が漁ろう中の自船の進路を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま続航した。
 08時08分少し前B受審人は、荒戸丸が同方位のまま600メートルのところまで接近したものの、依然、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで衝突を避けるための措置をとることもなく漁ろうに従事中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、荒戸丸は、球状船首に擦過傷を生じたのみであったが、窪三丸は、右舷船首部に破口及び亀裂等を生じたが、のち修理され、B受審人が打撲傷を、窪三丸の甲板員1人が肋骨骨折及び頚椎捻挫をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、東扇島南東方沖合において、西行中の荒戸丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している窪三丸の進路を避けなかったことによって発生したが、窪三丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、東扇島南東方沖合において、京浜港横浜区第3区に向けて西行する場合、前部甲板中央部に装備された荷役用回転式ジブクレーンのブームで正船首方に死角を生じる状況であったから、前路で漁ろうに従事する窪三丸を見落とさないよう、船橋内を左右に移動して船首方の状況を確かめるなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に支障となる他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、窪三丸の存在に気付かず、漁ろうに従事する同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、荒戸丸の船首に擦過傷を、窪三丸の右舷船首部に破口等を生じさせ、B受審人に打撲傷を、窪三丸甲板員1人に肋骨骨折等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、東扇島南東方沖合において、漁ろうに従事する場合、衝突のおそれのある態勢で接近する荒戸丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近する他船が漁ろう中の自船の進路を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突するおそれのある態勢で接近する荒戸丸に気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもなく、漁ろうを続けて同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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