(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年3月24日14時14分
神奈川県三浦半島南岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船若松丸 |
プレジャーボートじょんず |
総トン数 |
7.5トン |
|
全長 |
16.28メートル |
|
登録長 |
|
6.79メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
330キロワット |
132キロワット |
3 事実の経過
若松丸は、船体後部に操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人ほか1人が乗り組み、釣り客4人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.5メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成13年3月24日06時00分神奈川県三浦半島南岸の江奈湾東岸の係留地を発し、千葉県洲崎西方沖合の釣り場に至って遊漁を行ったのち、13時20分洲埼灯台から288度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点を発進し、針路を江奈湾入口に向く351度に定めて機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力とし、帰航の途についた。
ところで、若松丸は、航走すると船首が浮き上がり、操舵室内の舵輪後方に設置した板の上に座った状態で、正船首から左右各舷約3度の範囲に死角が生じるので、A受審人は、平素は操舵室上部の天窓から顔を出したり、船首を左右に振ったりして死角を補う見張りを行っていた。
14時12分半わずか前A受審人は、剱埼灯台から222度1,450メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首方500メートルの江奈湾入口付近にじょんずが存在し、その後、同船が漂泊していて、これに衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めることができる状況にあった。しかし、同受審人は、先行していた僚船から無線電話で同湾入口付近には釣り船がいない旨聞いていたことから、前路に他船はいないものと思い、操舵室上部の天窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、じょんずを避けることなく進行中、同時14分わずか前左舷船首越しに同船船尾部を至近に認め、機関を後進にかけたが、効なく、14時14分若松丸は、剱埼灯台から240度1,200メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首がじょんずの右舷船首部に後方から89度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、じょんずは、FRP製プレジャーモーターボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者2人を乗せ、釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日08時00分横浜市磯子区堀割川右岸の係留地を発し、三浦半島南岸の毘沙門(びしゃもん)湾沖合に至って順次釣り場を移動しながら釣りを行ったのち、13時30分ごろ釣りを切り上げて帰航の途についた。
14時05分B受審人は、前示衝突地点付近に至り、この付近の遊漁船の釣果を見るつもりで機関をアイドリング運転とし、クラッチを中立に入れ、船首を080度に向けて漂泊を始め、同時12分半わずか前ほぼ右舷正横500メートルのところに、自船に向首して接近する若松丸を初めて視認し、その後、衝突のおそれのある態勢で同船が接近するのを認めたが、自船が漂泊しているので航行中の若松丸が避けてくれるものと思い、速やかに備えていた電子ホーンにより避航を促すための注意喚起信号を行わず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく、漂泊を続けた。
14時14分少し前B受審人は、若松丸がほぼ右舷正横100メートルに接近したのを認めたが、依然、同船が避けてくれることに期待して漂泊中、14時14分船首を080度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、若松丸は、船首部に擦過傷を生じただけであったが、じょんずは、右舷船首部を圧壊し、若松丸によって江奈湾に曳航され、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、神奈川県三浦半島南岸沖合において、若松丸が、同半島南岸の江奈湾に向け帰航する際、見張り不十分で、漂泊中のじょんずを避けなかったことによって発生したが、じょんずが、避航を促すための注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、神奈川県三浦半島南岸沖合において、同半島南岸の江奈湾に向け帰航する場合、船首方に死角があったのであるから、正船首方で漂泊中のじょんずを見落とすことのないよう、操舵室上部の天窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、先行していた僚船から無線電話で同湾入口付近には釣り船がいない旨聞いていたことから、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中のじょんずに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、じょんずの右舷船首部を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、神奈川県三浦半島南岸沖合の江奈湾入口において漂泊中、若松丸が自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた場合、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、自船が漂泊しているので航行中の若松丸が避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。