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平成14年仙審第46号
件名

ケミカルタンカー第二成和丸油送船宝運丸衝突事件
二審請求者〔理事官熊谷孝徳〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年2月25日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(亀井龍雄、長谷川峯清、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第二成和丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:宝運丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:宝運丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
成和丸・・・船首部に損傷
宝運丸・・・右舷中央部に大破口

原因
宝運丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(主因)
成和丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、宝運丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったうえ、第二成和丸の前方に向けて左転を続けたことによって発生したが、第二成和丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月23日12時43分
 宮城県金華山南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 ケミカルタンカー第二成和丸 油送船宝運丸
総トン数 495トン 411トン
全長 67.23メートル 58.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第二成和丸(以下「成和丸」という。)は、船尾船橋型鋼製ケミカルタンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、トルエン470トン、キシレン150トンを積載し、船首2.7メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成13年5月22日12時40分千葉港を発し、北海道室蘭港に向かった。
 A受審人は、航海当直体制を0030-0430時直船長、0430-0830時直甲板長、0830-1230時直一等航海士の単独4時間3直体制とし、太平洋沿岸を北上した。
 翌23日12時10分A受審人は、自船が吹鳴した霧中信号を聞いて昇橋し、視程が200メートル程度に狭められていること、成規の航海灯が点灯されていること及び針路が指示したとおりの040度(真方位、以下同じ。)であることを確かめた後当直中の一等航海士と交替して操船に当たった。
 A受審人は、12時13分半金華山灯台から199度13.0海里の地点で、船位が右偏しているので針路を020度に転じて自動操舵とし、全速力の12.0ノット(対地速力、以下同じ。)のまま引き続き霧中信号を自動吹鳴しながら進行した。
 A受審人は、12時30分金華山灯台から198度9.6海里の地点で針路を040度に戻したとき、レーダーで左舷船首9度4.5海里に宝運丸の映像を初めて認めた。この頃視界が更に悪化して100メートルとなっていた。
 A受審人は、12時37分金華山灯台から195度8.5海里の地点に達したとき、宝運丸の方位が殆ど(ほとんど)変わらないまま距離が2.0海里となり、そのまま進行すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、大きく右転するなどこの状況を避けるための動作を適切にとることなく、11.5ノットに減速すると共に自動操舵のまま小刻みに5度ずつ右転をしながら進行した。
 12時40分A受審人は、宝運丸のレーダー映像が1海里に接近して直ぐに(すぐに)海面反射の影響で見えなくなったとき、手動操舵に切り替えて右舵を5度ほど取り、ゆっくりと右転を続け、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行脚(ゆきあし)を止めることもなく、同じ速力で続航した。
 12時43分わずか前A受審人は、前方至近に宝運丸の船体を視認し、驚いて右舵10度としたが間に合わず、12時43分金華山灯台から190度7.5海里の地点において、成和丸が070度を向首したとき、その船首部が、175度に向首した宝運丸の右舷中央部に、原速力のまま、前方から75度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力1の東風が吹き、視程は100メートルであった。
 また、宝運丸は、船尾船橋型鋼製油脂専用船で、B及びC両受審人ほか3人が乗り組み、魚油656トンを積載し、船首3.05メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同日10時20分宮城県女川港を発し、佐賀県伊万里港に向かった。
 B受審人は、船橋当直体制を2345-0345時直一等航海士、0345-0745時直甲板長、0745-1145時直船長の単独4時間3直体制とし、自ら操船して港外に出て、霧模様で視程が2海里程度になっていたので成規の航海灯を点灯し、時々手動で霧中信号を行いながら、早崎水道を経て金華山北方沖合に向かった。
 B受審人は、11時35分金華山灯台から005度3.6海里の地点で針路を150度に定め、機関を全速力前進にかけ10.0ノットの速力で進行し、まもなく、C受審人に当直を引き継いだが、霧模様であったのに、視界が更に悪化する場合、他船と接近する場合等には報告するよう十分に指示することなく、降橋して自室で休息した。
 11時45分半C受審人は、金華山灯台から030度2.2海里の地点に達したとき、針路を195度に転じ、視界がだんだんと悪化する中を自動操舵によって進行した。
 C受審人は、12時30金華山灯台から188度5.2海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首16度4.5海里に成和丸の映像を初めて認め、このころ視程は100メートル程度に狭められていたが、この状況を船長に報告することなく、時々手動で霧中信号を行いながら進行した。
 12時37分C受審人は、成和丸の方位が殆ど変わらないまま距離が2.0海里となり、そのまま進行すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、大きく右転するなどこの状況を避けるための動作を適切にとることなく進行した。
 C受審人は、12時40分成和丸の映像が1.0海里となり、更に接近する状況となっても針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行脚を止めることなく、同じ針路、速力で続航した。
 12時41分C受審人は、成和丸との距離が0.7海里となったのを認めて同船の霧中信号を聴取したとき、右舷対右舷で航過しようと手動操舵に切り替えてゆっくりと左転を始め、このため右転中の成和丸の前方に向けて進行する状況となったが、その後成和丸の映像が海面反射の影響で見えなくなったのでこのことに気付かないまま左転を続け、12時43分宝運丸の船首が175度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、成和丸は船首部に損傷を生じ、宝運丸は右舷中央部に大破口を生じて積荷の魚油及び燃料油の流出を招き、右舷側に大傾斜したが、救助船によって石巻港に引きつけられ、のちそれぞれ修理された。
 また、転覆の危険を感じた宝運丸の乗組員は、全員救命艇で離船しているところを、成和丸に救助された。

(原因)
 本件衝突は、濃霧で視界が制限された宮城県金華山南方沖合において、南下する宝運丸が、安全な速力に減じず、レーダーにより右舷前方に探知した成和丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行脚を停止しなかったばかりか、右転中の成和丸の前方に向けて左転を続けたことによって発生したが、北上する成和丸が、安全な速力に減じず、レーダーにより左舷前方に探知した宝運丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行脚を停止しなかったことも一因をなすものである。
 宝運丸の運航が適切でなかったのは、船長が、当直者に対し、視界制限状態となったとき等は報告するよう十分に指示しなかったことと、当直者が、視界制限時の報告及び避航措置を適切に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、視界が100メートルに制限された金華山南方沖合を南下中、レーダーで探知した成和丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行脚を停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行脚を停止しなかったばかりか、右転中の成和丸の前方に向けて左転を続けた職務上の過失により、同船との衝突を招き、成和丸の船首部を損壊させ、宝運丸の右舷中央部に大破口を生じさせ、積荷の魚油及び燃料油の流出を招き右舷側に大傾斜を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、霧模様の金華山付近で当直を引き継いで降橋する場合、視界制限状態となったとき等は報告するよう十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、何かあれば知らせてくるものと思い、視界制限状態となったとき等は報告するよう十分に指示しなかった職務上の過失により、成和丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、視界が100メートルに制限された金華山南方沖合を北上中、レーダーで探知した宝運丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行脚を停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行脚を停止しなかった職務上の過失により、宝運丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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