(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月8日07時35分
酒田港第1区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十一幸運丸 |
漁船幸福丸 |
総トン数 |
4.9トン |
2.99トン |
登録長 |
10.5メートル |
9.9メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
250キロワット |
3 事実の経過
第十一幸運丸(以下「幸運丸」という。)は、船体後部寄りに操舵室を有するFRP製のいか一本釣り漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、平成14年7月8日07時ごろ酒田港第2区東ふ頭水産岸壁に入港して漁獲物の水揚げを行ったのち、次の漁に備えて魚箱を積み込むため、船首0.7メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日07時33分同岸壁を離岸し、新井田川を挟んで対岸に位置する同区山居町物揚場岸壁に向かった。
離岸の際、A受審人は、船尾甲板の左舷側寄りに立ってリモコン操縦装置を使用して操船に当たっているうち、その場所からは操舵室や前部甲板上の構造物により正船首から右舷前方にかけての見通しが妨げられ、見張りを十分に行えないのを認めたが、離岸中に前方を一瞥(いちべつ)して、船首方向に動いている船舶を見かけなかったことから、移動中に自船に接近する船舶はいないものと思い、そのまま船尾甲板にとどまり、前方を見通すことのできる操舵室で操船しなかった。
07時34分A受審人は、酒田港第6号灯浮標(以下「第6号灯浮標」という。)から134度(真方位、以下同じ。)680メートルの地点で、針路を前示物揚場岸壁に向首する145度に定め、機関を4.0ノットの微速力前進にかけて進行した。
定針したとき、A受審人は、右舷船首30度200メートルのところに幸福丸を視認することができ、間もなく同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めることができたが、前路の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かなかった。
A受審人は、その後も船尾甲板で操船に従事し、幸福丸の接近に気付かないままその進路を避けずに続航し、07時35分わずか前正船首方向に同船の船体を認めたもののどうすることもできず、07時35分第6号灯浮標から135度800メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が幸福丸の左舷側中央部に前方から62度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の東南東風が吹き、視界は良好であった。
また、幸福丸は、船体後部寄りに操舵室を有するFRP製のいか一本釣り漁船で、B受審人が1人で乗り組み、同日06時45分ごろ前示水産岸壁に入港して漁獲物の水揚げを行ったのち、山居町物揚場岸壁に移動して魚箱を積み込み、更に同岸壁南側に係留中の給油船ちとせ丸に左舷側を接舷係留して燃料補給を受けたあと、新井田川右岸の係留場所に向かうため、船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同日07時32分係留索を離して移動を開始した。
B受審人は、当初は船尾甲板左舷側に立ってリモコン操縦装置を使用して操船に当たり、船首をほぼ南に向けた係留状態から機関を種々使用しながら右回頭によって反転し、船首が北北東を向き新井田川にほぼ向首したところで操舵室の前の甲板に移動し、以後はその場所で操船することとした。
操船場所を移動したとき、B受審人は、操舵室の前の甲板からでも前部甲板の漁労機械が邪魔になって左舷前方の見通しが妨げられる状況であったが、右舷前方の物揚場岸壁の角や目的の係留場所を見ることに気を奪われ、左舷舷側から身体を乗り出すなどして左舷側の死角を補う見張りを行わなかった。
07時34分B受審人は、第6号灯浮標から143度840メートルの地点で、針路を新井田川右岸の係留場所に向首する027度に定め、機関を4.0ノットの微速力前進にかけて進行した。
定針したとき、B受審人は、左舷船首32度200メートルのところに幸運丸を視認することができ、間もなく同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めることができたが、左舷前方の見張りを十分に行わなかったので、そのことに気付かなかった。
B受審人は、その後も幸運丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための最善の協力動作をとることもしないまま続航し、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸運丸は球状船首及び船首材に亀裂を伴う損傷を生じ、幸福丸は左舷側外板に破口を生じて浸水したので山形造船所前の浅瀬に任意座礁したが、燃料油の一部が流出し、ほかに機関の濡れ損及びいか釣り機3台の損傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、酒田港内において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、幸運丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る幸福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸福丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、酒田港内において、船尾甲板で操船にあたりながら移動中、操舵室や前部甲板の構造物に前方の見通しが妨げられている場合、自船に接近する船舶を見落とさないよう、操船場所を前方を見通すことのできる操舵室に移して見張りにあたるべき注意義務があった。しかるに、同人は、離岸中に前方を一瞥しただけで自船に接近する船舶はいないものと思い、操船場所を前方を見通すことのできる操舵室に移して見張りにあたらなかった職務上の過失により、前路を左方に横切る態勢で接近する幸福丸に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、自船の球状船首及び船首材に亀裂を伴う損傷を生じ、幸福丸の左舷側外板に破口を伴う損傷を生じさせ、浸水及び燃料油の一部流出、いか釣り機3台の損傷、機関の濡れ損などを生じさせるに至った。
B受審人は、酒田港内において、操舵室の前の甲板で操船にあたりながら移動中、前部甲板の漁労機械が邪魔になって前方左舷側の見通しが妨げられている場合、自船に接近する船舶を見落とさないよう、舷側から身体を乗り出すなどして同方向の死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方の物揚場岸壁の角や目的の係留場所を見ることに気を奪われ、前方左舷側の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切る態勢で接近する幸運丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための最善の協力動作をとることもないまま衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。