(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月22日03時40分
新潟県直江津港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第二山陽丸 |
被押起重機船第31大和号 |
総トン数 |
176トン |
全長 |
32.5メートル |
55.0メートル |
幅 |
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20.0メートル |
深さ |
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4.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,471キロワット |
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船種船名 |
漁船佐富丸 |
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総トン数 |
9.1トン |
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全長 |
18.5メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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漁船法馬力数 |
90 |
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3 事実の経過
第二山陽丸は、鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉で船首2.2メートル船尾2.6メートルの喫水の鋼製起重機船第31大和号の船尾部に、船首部を嵌合(かんごう)して全長84メートルの押船列(以下「山陽丸押船列」という。)とし、船首2.0メートル船尾3.6メートルの喫水で、平成14年5月17日10時30分広島県三原港を発し、新潟県直江津港に向かった。
A受審人は、船橋当直体制を、0-6時直船長、6-12時直一等航海士の6時間2直体制とし、瀬戸内海、関門海峡を経て日本海を北上し、同月21日能登半島沖に達し、12時00分珠洲岬北方沖合で入港予定時刻調整のため機関を微速力に落とし2.7ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、翌22日00時00分鳥ヶ首岬灯台から327度(真方位、以下同じ。)15.1海里の地点で当直につき、押船列が掲げる成規の灯火のほか、起重機船の前部と後部、押船のマスト頂部に黄色回転灯がそれぞれ点灯されていることを確かめ、針路を120度に定め、自動操舵によって進行した。
A受審人は、03時16分頃前路を左方に航過する他船を認め、03時28分鳥ヶ首岬灯台から359度8.0海里の地点に達したとき、右舷船首65度3.0海里に佐富丸の紅灯1個とぼんやりとした白い灯火を視認した。
A受審人は、03時32分佐富丸の方位が変わらず2.0海里に接近し、同船のマスト灯も認めることができる状況であったが、自船は極低速で航走しているので相手船がそのまま前路を航過していくものと思い、動静監視を十分に行っていなかったので同灯を見落とし、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付くことなく進行した。
A受審人は、機関を後進にかけて停止するなど避航動作をとることなく進行し、03時39分佐富丸との距離が0.25海里となったとき機関を停止して惰力で続航し、同時39分少し前佐富丸との距離が50メートルになったとき、危険を感じ、機関と舵を用いて右転しようとしたが、効なく、03時40分鳥ヶ首岬灯台から002度7.8海里の地点において、佐富丸の船首部が、原針路原速力の第31大和号の右舷後部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、視界は良好であった。
また、佐富丸は、FRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、底曳(そこびき)網漁の目的で、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日02時45分新潟県筒石漁港を発し、鳥ヶ首岬北方約10海里の漁場に向かった。
B受審人は筒石漁業協同組合員で、同組合に所属する漁船は操業の際、一旦港外に集結し、定時に一斉に出漁するようにしていた。
B受審人は、航行中の動力船が掲げる成規の灯火を掲げ、自身で操船して港外に出て僚船16隻が揃う(そろう)のを待ち、03時00分鳥ヶ首岬灯台から241度2.3海里の地点を発進し、針路を015度に定め、機関を徐々に上げながら手動操舵で進行した。
03時10分B受審人は、鳥ヶ首岬灯台から304度1.9海里の地点で全速力前進の14.0ノットの対地速力とし、自動操舵に切り替え、殆ど(ほとんど)の僚船が自船より高速力なのでそれぞれ思い定めた漁場に向かって遠ざかっていくのを視野に入れながら進行した。
B受審人は、03時28分鳥ヶ首岬灯台から355度5.1海里の地点に達したとき、左舷船首10度3.0海里に山陽丸押船列の3個の黄色回転灯の内2個を認めた。
B受審人は、漁場が近くなったので魚群探知器、GPS等を見ながら進行し、03時32分山陽丸押船列の方位が変わらず2.0海里に接近し、同押船列の白灯1個、白灯2個及び緑灯2個を視認でき、同押船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができる状況となったが、魚群探知器等の監視を続けていてその動静監視を行っていなかったのでこの状況に気付くことなく続航した。
B受審人は、03時35分山陽丸押船列との距離が1.3海里となったとき、同押船列の緑灯2個を一瞥(いちべつ)したが、依然として衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行わず、再び魚群探知器等を見つつ網を曳く(ひく)方向等を考えながら進行した。
B受審人は、山陽丸押船列に避航の様子がなかったが、大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作を取ることなく同針路同速力のまま進行し、03時40分少し前自動操舵で針路を000度に転じたとき、ふと前方を見て至近に迫った山陽丸押船列を認めたものの、何をするまもなく前示のとおり衝突した。
衝突の結果、第31大和号は右舷後部のゴム製フェンダーに損傷を生じ、佐富丸は船首部を圧壊し、B受審人と甲板員が打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、新潟県直江津港北西方沖合において、山陽丸押船列が、同港に向かって航行中、動静監視不十分で、前路を左方に横切る佐富丸の進路を避けなかったことによって発生したが、佐富丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、直江津港北西方沖合を同港に向かって航行中、右舷前方に佐富丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は極低速力で航走しているので相手船が前路を航過していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、佐富丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのに同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、第31大和号のゴム製フェンダーに損傷を生じさせたうえ、佐富丸の船首部を圧壊させ、同船乗組員2人に打撲傷を負わせるに至った。
B受審人は、夜間、直江津港北西方沖合を漁場に向かって航行中、左舷前方に山陽丸押船列を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚群探知器、GPS等の監視に気を取られ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、山陽丸押船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。