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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年長審第53号
件名

漁船庄漁丸漁船壽福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(半間俊士、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:庄漁丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
庄漁丸・・・推進器翼、同軸及び舵柱を曲損
壽福丸・・・船体後部を大破、水船
船長が死亡

原因
庄漁丸・・・見張り不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、庄漁丸が、見張り不十分で、漂泊中の壽福丸に向けて転針したことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月4日08時55分
 熊本県樋島港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船庄漁丸 漁船壽福丸
総トン数 2.33トン 0.47トン
全長 10.31メートル  
登録長   4.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 169キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 庄漁丸は、FRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、刺網漁の目的で、船首0.52メートル船尾0.58メートルの喫水をもって、平成14年3月4日07時15分熊本県下桶川漁港の係留地を離岸し、同港内に前日投入した刺網を揚げたのち新たに投網を終え、水揚げのため、08時50分漁場を発し、同県樋島港東風留泊地に向かった。
 ところで、下桶川漁港北西端部には、樋ノ島灯台南方300メートルばかりの陸岸から、その南方沖合約100メートルにわたって船通瀬と通称される浅瀬が拡延し、船通瀬の南方約50メートルのところに沈み瀬と通称される海底の隆起部があり、沈み瀬付近の海上には平素数隻の一本釣りや刺網漁をする漁船がいた。
 08時52分少し前A受審人は、樋ノ島灯台から157度(真方位、以下同じ。)1,150メートルの地点で、針路を椚島96メートル頂(以下「椚島頂」という。)に向く322度に定め、機関を微速力前進の毎分回転数1,000にかけ、6.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)として、操舵室左舷側のいすに腰掛け、手動操舵で進行した。
 A受審人は、08時54分樋ノ島灯台から165度770メートルの地点に達したとき、機関を全速力前進の毎分回転数2,300に上げ、13.3ノットの速力とし、このとき正船首やや左方約350メートルのところに自船とほぼ同じ大きさの同業船(以下「第三船」という。)を認め、その後同船がゆっくり後退して投網しながら自船の左舷方を航過することを知った。
 08時55分少し前A受審人は、樋ノ島灯台から181度500メートルの地点で第三船が左舷近くを航過したとき、正船首方30メートルのところに刺網の標識ブイを認め、これを避けようとした。このとき壽福丸が右舷船首16度110メートルのところで漂泊していたが、第三船の動向に気を奪われ、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、舵輪を1回転して舵中央に戻したあと、針路338度で同船に向首する態勢となって進行中、08時55分樋ノ島灯台から186度410メートルの地点において、庄漁丸は原速力のまま、その船首が壽福丸の船尾にほぼ真後ろから衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、壽福丸は、木造漁船で、船長Bが1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で、船首尾とも0.3メートルの等喫水をもって、同日07時半過ぎ樋島港を発し、沈み瀬付近の漁場に向かった。
 B船長は、08時ごろ漁場に着き、船首を風に立てて機関を中立運転とし、赤旗を付けた白い竿を立て、救命胴衣を着けないまま漂泊をして操業を始め、その後沈み瀬を離れると潮上りを行っていた。
 B船長は、08時55分少し前前示衝突地点で、船首を338度に向けて漂泊中、正船尾方110メートルのところで、それまで自船の左舷方30メートルのところを無難に航過する態勢で進行していた庄漁丸が、突然針路を転じて向首接近し、何もする間もなく前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、庄漁丸は推進器翼、同軸及び舵柱を曲損したが、のち修理され、壽福丸は船体後部を大破して水船となり、のち下桶川漁港に引き上げられ、B船長(昭和2年11月7日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が海中に投げ出されて死亡した。

(原因)
 本件衝突は、熊本県樋島港南方沖合において、同県樋島港東風留泊地に向けて航行中の庄漁丸が、見張り不十分で、漂泊中の壽福丸に向けて転針したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、熊本県樋島港南方沖合において、同県樋島港東風留泊地に向けて航行中、正船首方30メートルのところに刺網の標識ブイを認め、これを右転して避けようとした場合、右舷船首16度110メートルのところで漂泊している壽福丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、第三船の動向に気を奪われ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、壽福丸に気付かないまま、同船に向けて右転して同船との衝突を招き、庄漁丸の推進器翼、同軸及び舵柱を曲損させ、壽福丸の船体後部を大破させ、海中に投げ出されたB船長が死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。  


参考図
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