(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月12日17時25分
九州西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船禧勝丸 |
漁船新陽丸 |
総トン数 |
498トン |
4.1トン |
全長 |
74.90メートル |
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登録長 |
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10.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
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漁船法馬力数 |
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70 |
3 事実の経過
禧勝丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、プラント2個97トンを積載し、船首2.75メートル船尾3.75メートルの喫水をもって、平成14年3月12日16時25分長崎県長崎港第4区を発し、京都府舞鶴港に向かった。
A受審人は、船首の出港部署を終え、16時50分ころ伊王島に並航した付近で昇橋し、船長から針路315度(真方位、以下同じ。)で自動操舵、機関は全速力前進である旨を受けて当直を引き継ぎ、17時05分伊王島灯台から360度2.4海里の地点で船位を確認したところ予定針路より少し東方に偏していたことから、針路を310度とし、11.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、操舵室のほぼ中央の窓際に立って見張りを行い、途中、船位を求めながら続航し、17時19分左舷船首13度2海里に東行する新陽丸を初めて視認したものの、同船に留意することなく、同時22分ころ船位を確認したところ、予定針路より西方に出たことから、同針路にのせるため右に転ずることとした。
このとき、A受審人は、左舷船首6度1,750メートルに見る新陽丸が無難に前路を航過する態勢であり、右に転ずる針路によっては同船と衝突のおそれが生じる状況にあったが、新陽丸が右方へ十分に航過するまで針路を保持することなく、大きく転針すれば同船の前路を航過できるものと思い330度に転じ、新陽丸と新たな衝突の危険を生じさせて進行した。
A受審人は、17時24分半新陽丸を左舷船首6度260メートルばかりに見る態勢になったとき、初めて衝突の危険を感じたが、直ちに機関を後進にかけるなど衝突を避けるための適切な措置をとることなく、右舵一杯をとり、船首が北方に向いたころ右回頭を止めて機関を中立、引き続き後進にかけ、衝突の危険がある状態のまま続航し、17時25分ノ瀬灯標から255度1.2海里の地点において、360度に向首した禧勝丸の左舷前部に新陽丸の船首が前方から87度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、新陽丸は、船体のほぼ中央部に船橋を有するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、延縄漁の目的で、同月11日04時30分長崎県三重式見港を発し、五島列島付近の漁場に向かった。
B受審人は、08時ごろ五島列島奈良尾沖合に至って操業を開始し、同日夕方前奈良尾漁港に寄せて仮泊し、翌12日07時30分同港を発航し、前日とほぼ同じ海域で操業を続け、14時ごろ操業を切り上げて帰途に就き、甲板上の清掃や漁獲物の整理を行うため、機関を6ノットの微速力前進にかけ、針路をほぼ90度に定めて自動操舵として進行し、15時ごろ作業を終えたところで、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、操舵室の少し右舷寄りに立って見張りに当たり、途中、針路を修正しながら東行を続け、17時10分ノ瀬灯標から267度3.9海里の地点に達したとき、自動操舵のまま針路を093度に定めて続航し、同時19分右舷船首24度2海里に北上する禧勝丸を視認できる状況にあったが、右舷方の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かずに続航し、同時22分右舷船首31度1,750メートルに見る態勢となった禧勝丸が針路を右に転じて衝突の危険が生じ、同時24分半両船が260メートルに接近したとき、禧勝丸が避航措置をとらず、右転して衝突の危険が続いていたが、依然として右舷方の見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで続航中、物を落してこれを拾おうとかがんだとき、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、禧勝丸は、左舷船首外板に擦過傷を生じ、新陽丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が鼻部挫創を負った。
(原因)
本件衝突は、長崎県三重式見港沖合において、北上中の禧勝丸が、右転して新たな衝突の危険を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置が適切でなかったことによって発生したが、新陽丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこともその一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、三重式見港沖合を予定針路から少し偏位して北上中、左舷船首方に前路を無難に右方へ航過する態勢の新陽丸を視認した場合、針路を保持するなど同船と衝突の危険が生じないように措置すべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針する積もりでいたことから、大きく右転すれば同船の前路を航過できるものと思い、2度にわたって右転した職務上の過失により、新陽丸との衝突を招き、禧勝丸の左舷前部外板に擦過傷を生じ、新陽丸の船首部を圧壊させ、B受審人に鼻部挫創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、漁場から三重式見港に向け帰港中、単独で操船を行う場合、同港沖合は航行船が多い海域であったから、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、禧勝丸に気付かず同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。