(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年1月17日12時30分
長崎県福江島北方
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第8正徳丸 |
漁船幸栄丸 |
総トン数 |
8.5トン |
3.02トン |
登録長 |
14.55メートル |
8.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
50 |
3 事実の経過
第8正徳丸(以下「正徳丸」という。)は、FRP製活魚運搬船で、A及びB両受審人が2人で乗り組み、活魚0.8トンを載せ、水揚げの目的で、船首1.0メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成14年1月17日11時20分長崎県三井楽町丑ノ浦を発し、同県三重式見港に向かった。
ところでA受審人は、活魚運搬の航海のときだけにはB受審人を乗り組ませ、同人に専ら魚倉内の活魚の状況確認及び管理に当たらせていた。
A受審人は、途中、三井楽町高崎漁港に寄港して漁業用の資材を積み込み、12時00分同港を発航し、同時01分五島柏埼灯台から122度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点において、針路を077度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で、船橋右舷側で見張りに当たりながら進行した。
12時26分A受審人は、糸串埼灯台から265度2,930メートルの地点に達したとき、左舷船首13度1,300メートルのところに南下する幸栄丸を視認できる状況であり、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、B受審人が船橋左舷側にいたことから、同人が見張っているものと思って左方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず続航した。
B受審人は、高崎漁港を発航してから北寄りの波浪が高く、左舷側から波しぶきがかかり、窓枠などの死角もあったことから、幸栄丸に気付かず、A受審人に同船についての報告ができなかった。
12時29分A受審人は、幸栄丸が同方位300メートルばかりに接近し、同船に避航の気配がなかったが、依然としてこのことに気付かないで、有効な音響による信号を行わず、その後右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航中、12時30分糸串埼灯台から273度1,520メートルの地点において、正徳丸の船首が、原針路、原速力のまま、幸栄丸の右舷船首部に後方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、幸栄丸は、FRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、引き縄漁の目的で、船首0.43メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、17日07時40分長崎県戸岐漁港を発し、同県福江島北方漁場に向かった。
10時10分C受審人は、漁場に至って操業を開始したが漁獲がなく、12時過ぎ操業を切り上げることとし、同時22分糸串埼灯台から292度1,930メートルの地点において、針路を167度に定め、3.0ノットの対地速力で、約170メートルの縄を引いて漁を行いながら手動操舵により帰途についた。
12時26分C受審人は、糸串埼灯台から282度1,750メートルの地点に達したとき、右舷船首77度1,300メートルのところを正徳丸が東行し、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたところ、同時27分半同方位800メートルに接近した正徳丸を初めて視認した。
ところが、C受審人は、一べつしただけで正徳丸は速いので前方を替わるものと思い、そのころ引き縄漁の好漁場であるホゲ島の浅瀬に寄せる状況になっていたところから、その動静監視を十分に行わず、12時28分左舷側のホゲ島の浅瀬を見ながらこれに接近するよう徐々に左転を始めたので、その後も同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど正徳丸の進路を避けることなく続航中、12時30分少し前右舷至近に迫った同船に気付いて減速したが及ばず、127度に向首して1.5ノットの対地速力となったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、正徳丸は幸栄丸に乗り揚がり、船首部に亀裂を生じたほか推進器翼などを曲損したが修理され、幸栄丸は船首部両舷外板に破口を生じ、水船となって廃船とされた。
(原因)
本件衝突は、長崎県福江島北方において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、南下中の幸栄丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る正徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行中の正徳丸が、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
C受審人は、長崎県福江島北方を南下中、右舷船首方向に東行中の正徳丸を視認した場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、引続きその動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一べつして同船は速いので前方を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、正徳丸と衝突のおそれのある態勢であることに気付かず、右転するなど同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船は船首部両舷外板に破口を生じ、水船となって廃船となり、正徳丸の船首部に亀裂を生じさせたほか推進器翼などを曲損させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、長崎県福江島北方を東行する場合、左舷船首方の幸栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板員が船橋左舷側にいたことから甲板員が左方の見張りを行っているものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する幸栄丸に気付かず、有効な音響による信号を行わず、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。