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平成14年門審第95号
件名

油送船栄信丸貨物船キング エイス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(島 友二郎、米原健一、橋本 學)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:栄信丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
栄信丸・・・右舷船首部を圧壊
キ 号・・・左舷中央部外板に凹損及び擦過傷

原因
栄信丸・・・見張り不十分、港則法の航法(避航動作)不遵守(主因)
キ 号・・・見張り不十分、警告信号不履行、港則法の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、関門港において、航路外から関門航路に入る栄信丸が、見張り不十分で、同航路を航行するキング エイスの進路を避けなかったことによって発生したが、キング エイスが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月2日01時05分
 関門港関門航路

2 船舶の要目
船種船名 油送船栄信丸 貨物船キングエイス
総トン数 199トン 6,049.00トン
全長 48.02メートル 100.48メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 3,089キロワット

3 事実の経過
 栄信丸は、専ら瀬戸内海及び九州各港間のA重油輸送に従事する船尾船橋型油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉で、船首0.60メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成13年10月2日00時55分関門港下関区の岬之町船だまりを発し、大分県大分港に向かった。
 A受審人は、岬之町防波堤を替わったのち、出港操船に引き続き単独で船橋当直に当たり、01時02分少し過ぎ下関岬ノ町防波堤灯台から137度(真方位、以下同じ。)320メートルの地点で、針路を119度に定め、機関を対水速力7.7ノットの半速力前進に掛け、折からの北東流に圧流されながら、109度の実効針路及び8.0ノットの対地速力で、法定の灯火を表示して、手動操舵により進行した。
 ところで、A受審人は、出港操船の際、停泊中に新替えした操舵室右舷前部に設置してあるGPS装置の表示画面の輝度が明る過ぎたことから、出港配置を終えた機関長を操舵室に呼んで、同装置の輝度調整に当たらせていた。
 定針したときA受審人は、右舷船首44度1,160メートルのところに、関門航路を、これに沿って北上するキング エイス(以下「キ号」という。)の白、白、紅3灯を視認でき、その後、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、GPS装置の輝度調整を行っていた機関長の様子に気をとられ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、門司側の街灯やネオンサインの光に紛れた同船の灯火を見落とし、このことに気付かず、同航路に入航してキ号の進路を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、キ号の進路を避けないまま進行中、01時04分半ふと右舷前方を見たところ、ほとんど方位の変化がないまま200メートルばかりに接近した同船の紅灯と船影を初めて視認し、衝突の危険を感じ、左舵一杯として機関を全速力後進に掛けたが、及ばず、01時05分下関岬ノ町防波堤灯台から116度950メートルの地点において、栄信丸は、090度を向いたとき、2.0ノットの対地速力で、その船首がキ号の左舷中央部に後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期で、衝突地点付近には1.3ノットの北東流があった。
 また、キ号は、専ら日本及びアジア各港間の鋼材輸送などに従事する船尾船橋型貨物船で、船長Pほか15人が乗り組み、合板7,800立方メートルを積載し、船首6.45メートル船尾7.05メートルの喫水をもって、同月1日17時00分佐賀県伊万里港を発し、関門海峡経由で大阪港に向かった。
 21時00分P船長は、昇橋して操船指揮に就き、当直航海士を補佐に、同甲板手を操舵にそれぞれ当たらせ、翌2日00時53分半少し前門司大里防波堤灯台から276度320メートルの地点で、針路を018度に定め、機関を全速力前進より少し減じた回転数毎分185に掛け、9.7ノットの対水速力とし、折からの北北東流に乗じて11.0ノットの対地速力で、法定の灯火を表示し、関門航路の右側をこれに沿って、手動操舵により進行した。
 01時02分少し過ぎP船長は、下関岬ノ町防波堤灯台から158度1,420メートルの地点に達したとき、左舷船首35度1,160メートルのところに、航路外から関門航路に入る態勢の栄信丸の白、白、緑3灯を視認でき、その後、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、前路の見張りを十分に行っていなかったので、下関側の街の灯りに紛れた栄信丸の灯火を見落とし、このことに気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 01時04分半P船長は、下関岬ノ町防波堤灯台から126度960メートルの地点で、航路に沿って針路を少し右に転じて022度としたとき、ほとんど方位の変化がないまま200メートルばかりに接近した栄信丸の緑灯を初めて視認し、衝突の危険を感じ、右舵20度をとったが、及ばず、キ号は、船首が030度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、栄信丸は右舷船首部を圧壊し、キ号は左舷中央部外板に凹損及び擦過傷を生じたが、のち、それぞれ修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門港において、航路外から関門航路に入る栄信丸が、見張り不十分で、同航路を航行するキ号の進路を避けなかったことによって発生したが、キ号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、関門港において、航路外から関門航路に入る場合、同航路を航行する船舶を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、GPS装置の表示画面の輝度調整を行っていた機関長の様子に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同航路を航行するキ号の灯火を見落とし、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、栄信丸の右舷船首部に圧壊を、キ号の左舷中央部外板に凹損及び擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:29KB)





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