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平成14年門審第92号
件名

漁船松竹丸プレジャーボート恒幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、長浜義昭、河本和夫)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:松竹丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:恒幸丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
松竹丸・・・船首部に擦過傷
恒幸丸・・・右舷中央部を大破、転覆、のち沈没

原因
松竹丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守

主文

 本件衝突は、松竹丸が、見張り不十分で、無難に通過する態勢であった漂泊中の恒幸丸に対し、その至近のところで針路を転じたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月5日06時00分
 大分県関埼沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船松竹丸 プレジャーボート恒幸丸
総トン数 2.52トン  
登録長 7.20メートル 6.4メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 66キロワット 29キロワット

3 事実の経過
 松竹丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成13年9月5日05時30分大分県佐賀関漁港を発し、同県関埼沖合に向かった。
 A受審人は、関埼灯台の東方約1,000メートルのところで漂泊し、船尾にスパンカを展帆するなど釣りの準備を行った後、漁場に向けて北上し、関埼灯台と豊後平瀬灯標が設置された平瀬との間の漁場に到着したところ、すでに漁船やプレジャーボートなど十数隻(以下「漁船群」という。)が20ないし30メートルの間隔で漂泊し、密集状態で潮流に乗って一本釣りを行っているのを認めた。
 05時50分A受審人は、関埼灯台北東方約3,900メートルの牛島とその後方の佐田岬先端との見通し線、関埼灯台西北西方約1,000メートルの松ケ鼻とその後方の坂ノ市にある石油タンク群との見通し線(以下「A線」という。)及び関埼灯台南南西方約1,300メートルの小黒沖の瀬とその後方の蔦島西端との見通し線(以下「B線」という。)をそれぞれ確認(以下「山立て」という。)し、その交点となる関埼灯台から038度(真方位、以下同じ。)780メートルの地点に至り、魚群探知機で目的の瀬(以下「ポイント」という。)であることを確認したうえで、機関をかけたままクラッチを中立にして漂泊し、北へ流れる潮流に乗って船尾甲板で手釣りによるはまちの一本釣りを始めた。
 A受審人は、1回目は1匹も釣れないまま、北方に圧流されて平瀬に約100メートルまで接近したので、元のポイントへ移動(以下「潮のぼり」という。)するため釣糸を上げ、05時58分半関埼灯台から025度1,280メートルの地点を発進し、機関を回転数毎分2,400の全速力前進にかけ、15.5ノットの対水速力で、急いで平瀬から離れようとして漁船群を一見しただけで、船首が向いていた約160度方向に潮のぼりを始めた。
 ところで、松竹丸は、機関回転数毎分2,100までは船首があまり浮上せず、水平線を視認することができるが、同回転数を超えると船首が浮上して船首方向の見通しが妨げられ、水平線を視認することができなくなり、機関を全速力前進にかけ、操舵室右舷側で立って見張りを行うと、正船首から右舷側に約5度及び左舷側に約10度の範囲にわたって死角(以下「船首死角」という。)を生じるので、高さ約20センチメートルの踏み台を備えており、その上に立ち、操舵室の屋根越しに見張りを行うことによって、船首死角を解消することができるようになっていた。
 ところが、A受審人は、はまちが釣れる潮時(しおどき)が短いうえ、1回の釣り時間が実質3ないし4分しかなく、潮のぼりに約2分を要することから、機関を全速力前進にかけ、船首死角が生じた状態のままで潮のぼりをしていたが、ポイントに正確に戻るためには、山立てしながら小刻みに舵柄を操作する必要があり、踏み台の上に立つと、山立てしながらの舵柄操作が難しくなることから、日ごろから踏み台の上に立って船首死角を補う見張りを行っておらず、専ら、漁場となっていない漁船群の西側海域をこれから十分に距離を隔てて南下することにしていた。
 A受審人は、操舵室右舷側に立って左手で舵柄を、右手でクラッチ及び燃料ハンドルを握って操船に当たり、北流に抗して14.0ノットの対地速力で、いつもとは逆の漁船群の東側をこれから遠ざかるように南下し、05時59分わずか過ぎ関埼灯台から034.5度1,020メートルの地点において、当日は出漁船が比較的少なかったことから、転針しても漁船群に接近することはないものと軽く考え、漁船群の状況を十分に確認しないまま、右転して針路を204度に定め、同じ速力でほぼB線に乗せて進行した。
 定針したとき、A受審人は、ほぼ正船首390メートルのところに、漁船群の東端でスパンカを展帆して漂泊中の恒幸丸が存在し、その後、潮流により北方に圧流されて正船首わずか右方に替わった同船を視認し得る状況であったが、前路に他船はいないものと思い、速力を減じて船首死角を解消するなどして、前路の見張りを十分に行っていなかったので、死角に入っていた恒幸丸に気付かず、右舷前方のA線及び船首方のB線により山立てしながら続航した。
 こうして、A受審人は、山立てしながらポイントに向けて進行し、05時59分半関埼灯台から036度950メートルの地点に差し掛かったとき、正船首わずか右方220メートルのところで漂泊中の恒幸丸の船尾方を、約10メートル隔てて無難に通過する態勢となっていたが、山立てすることに気を取られ、依然として、船首死角を生じたまま、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同時00分少し前同灯台から037度870メートルの地点に達し、恒幸丸が右舷船首3度100メートルのところとなったとき、舵柄を左に2ないし3度押して右舵をとり、針路を210度に転じたところ、恒幸丸に向首することになって衝突の危険を生じさせ、06時00分わずか前ポイントに到着して機関の回転数を下げたものの、06時00分関埼灯台から038度780メートルの地点において、松竹丸は、原針路のまま、速力が約4ノットになったとき、その船首が、恒幸丸の右舷中央部に後方から30度の角度で衝突し、恒幸丸の船体に乗り揚げて停止した。
 当時、天候は晴で風力1の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に当たり、関埼沖合では1.5ノットの北流があり、視界は良好であった。
 A受審人は、B受審人の大声を聞いて衝突したことに気付き、事後の措置に当たった。
 また、恒幸丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時25分大分県佐賀関港を発し、関埼北方の釣場に向かった。
 B受審人は、関埼灯台北西方約1,300メートルのところで減速し、船尾にスパンカを展帆するなど釣りの準備を行った後、釣場に向けて東行し、05時55分関埼灯台から042度740メートルの地点の釣場に至り、機関をかけたままクラッチを中立にして漂泊し、船首を西南西風に立て、船尾甲板で手釣りによるはまちの一本釣りを始めた。
 B受審人は、船首を240度に向けた恒幸丸の船尾甲板右舷側で、右舷前方を向いて箱の上に腰を掛け、周囲の見張りを行いながら、擬餌針を付けた釣糸を右手に持って手釣りをしていたところ、05時59分半関埼灯台から039度760メートルの地点において、右舷船尾35度220メートルのところに、松竹丸が右舷側を見せて南下しているのを初めて視認し、同船が自船の船尾方を無難に通過する態勢であったので、そのまま釣りを続けた。
 こうして、B受審人は、潮流により北方に圧流されながら釣りを続けていたところ、06時00分少し前、松竹丸が右舷船尾33度100メートルのところで針路を右に転じ、自船に向首して衝突の危険を生じさせ、同時00分わずか前至近に迫った同船を認めたが、衝突を避けるための措置をとる暇もなく、恒幸丸は、船首を240度に向けて漂泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、松竹丸は、船首部に擦過傷を生じたが、のち修理され、恒幸丸は、右舷中央部を大破して転覆し、地元漁船が曳航中に浮力を喪失して沈没した。

(原因)
 本件衝突は、大分県関埼沖合において、多数の漁船などが漂泊して一本釣りを行っている状況下、潮のぼりのため移動中の松竹丸が、見張り不十分で、無難に通過する態勢であった漂泊中の恒幸丸に対し、その至近のところで針路を転じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大分県関埼沖合において、多数の漁船などが漂泊して一本釣りを行っている状況下、潮のぼりのため移動する場合、前路に存在する他船を見落とすことのないよう、速力を減じて船首の浮上による死角を解消し、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、死角に入っていた漂泊中の恒幸丸に気付かず、無難に通過する態勢であった同船に対し、その至近のところで針路を転じて衝突を招き、松竹丸の船首部に擦過傷を生じさせ、恒幸丸の右舷中央部を大破させて転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同受審人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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