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平成14年門審第113号
件名

漁船豊福丸貨物船クムジュン スピリット衝突事件
二審請求者〔理事官畑中美秀〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、橋本 學、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

損害
豊福丸・・・操舵室付近で2つに切断、後部が沈没
船長が行方不明
ク 号・・・船首に擦過傷

原因
ク 号・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
豊福丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、クムジュン スピリットが、見張り不十分で、錨泊中の豊福丸を避けなかったことによって発生したが、豊福丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月6日17時25分
 玄界灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船豊福丸 貨物船クムジュン スピリット
総トン数 4.9トン 499トン
全長 15.40メートル 65.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   735キロワット
漁船法馬力数 90  

3 事実の経過
 豊福丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、Aが船長として1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年8月6日13時00分福岡県博多漁港を発し、玄界灘の漁場に向かった。
 15時00分ごろA船長は、筑前大島灯台から301度(真方位、以下同じ。)9.5海里の漁場に至り、右舷船首から重さ約60キログラムの錨を水深約65メートルの海底に投じ、直径18ミリメートルの合成繊維製錨索を約100メートル延出し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、夜間操業に備えて操業場所を確保するために錨泊を開始した。
 17時21分半わずか過ぎA船長は、折からの南風を受けて船首が184度を向いたとき、左舷船首89度1,000メートルのところに西行するクムジュン スピリット(以下「ク号」という。)を視認することができ、その後、同船が錨泊中の自船に向けて衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、避航の気配がないまま接近するク号に対して注意喚起信号を行うことも、更に接近したとき、錨索を切断して機関をかけ、衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続け、17時25分筑前大島灯台から301度9.5海里の地点において、豊福丸は184度を向いて錨泊したまま、その左舷側後部にク号の船首が直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、ク号は、船尾船橋型の鋼製ケミカルタンカーで、船長K、一等航海士Rほか6人が乗り組み、パラフィン ワックス878.247トンを積載し、船首3.20メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、同月5日14時20分和歌山下津港を発し、瀬戸内海及び関門海峡を経由して大韓民国仁川港に向かった。
 翌6日15時45分R一等航海士は、筑前大島灯台の北東8海里付近で昇橋して甲板長と2人で船橋当直につき、16時45分筑前大島灯台から335度4.9海里の地点において、針路を274度に定め、折からの南風により1度ほど右方に圧流されながら、機関を全速力前進にかけ、9.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 定針したのち、R一等航海士は、食事交替のため昇橋した二等航海士に船橋当直を任せて一旦降橋し、17時05分夕食を終え再び昇橋して同人と交替し、甲板長に食事をするよう命じて降橋させ、以降、単独で船橋当直にあたった。
 17時21分半わずか過ぎR一等航海士は、筑前大島灯台から303度9.0海里の地点に達したとき、正船首わずか右1,000メートルのところに、船首を風上に向けた豊福丸を視認することができ、その後、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、行きあしのないことや船首から錨索を伸ばしていることから錨泊中であることがわかる同船に向け、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、操舵スタンド後方の配電盤に背をもたせ冷房の冷気にあたりながら考え事をしていて、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航した。
 17時24分わずか過ぎR一等航海士は、同方位間近に豊福丸を初めて視認し、同船に避航してもらうつもりで、汽笛により長音1回を吹鳴し、国際VHF無線電話の16チャンネルで同船に呼びかけをしたのち、右舵一杯、機関を微速力前進に減じたものの、効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、豊福丸は操舵室付近で2つに切断されて後部が沈没し、ク号は船首に擦過傷を生じた。また、A船長(昭和22年3月31日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が、行方不明となった。

(原因)
 本件衝突は、玄界灘において、西行中のク号が、見張り不十分で、前路で錨泊中の豊福丸を避けなかったことによって発生したが、豊福丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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