日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第102号
件名

漁船宝成丸漁船明安丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、上野延之、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:宝成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
宝成丸・・・船首船底部に擦過傷
明安丸・・・船尾部を大破、のち廃船
船長が溺死

原因
宝成丸・・・動静監視不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守

主文

 本件衝突は、宝成丸が、動静監視不十分で、無難に通過する態勢の明安丸の至近に針路を転じたことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月14日06時15分
 長崎県壱岐島海豚埼沖合 

2 船舶の要目
船種船名 漁船宝成丸 漁船明安丸
総トン数 6.3トン 0.2トン
全長 14.55メートル 5.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 250キロワット  
漁船法馬力数   11

3 事実の経過
 宝成丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、餌料用のかますを釣る目的で、船首0.62メートル船尾1.07メートルの喫水をもって、平成13年9月14日06時13分長崎県壱岐島初瀬漁港を発し、同島南部の郷ノ瀬付近の漁場に向かった。
 A受審人は、操舵室右舷側で立って操船に当たり、初瀬漁港を出たところで機関を回転数毎分2,000の全速力前進にかけ、17.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、海豚埼(いるかざき)東岸に沿って南下した。
 ところで、宝成丸は、船体の中央部に操舵室があり、同室中央に操舵装置が、その右舷側にマグネットコンパス、レーダー及び機関遠隔操縦装置の各レバーが、左舷側にGPSプロッタ及び魚群探知機がそれぞれ備え付けられており、天井には長さ39センチメートル幅46センチメートルの見張り用の開口部が設けられていた。
 A受審人は、機関を全速力前進にかけて航行すると船首が浮上し、操舵装置の後方で立って見張りを行うと、正船首から両舷側にそれぞれ約20度の範囲にわたって死角(以下「船首死角」という。)を生じることから、日ごろから定係地の初瀬漁港と漁場との間を往復するときにはレーダーを活用し、操業中に漁場を移動するときなどには、必要に応じ、いすの上に立って開口部から上半身を出して、それぞれ船首死角を補う見張りを行っていた。
 06時14分わずか過ぎA受審人は、海豚埼灯台から070度(真方位、以下同じ。)180メートルの地点に差し掛かって、海豚埼南方沖合を見通すことができるようになり、0.5海里レンジとしたレーダーで、海豚埼南方に2隻(以下「僚船」という。)と、その南側少し離れたところに明安丸の映像をそれぞれ探知し、そのころ、日出直後で明るくなっていたので目視で確認したところ、明安丸を視認することができなかったものの、竿を立ててひき縄漁を操業中の僚船を右舷前方に視認することができたので、僚船のひき縄の後方を通過して郷ノ瀬に向かうことにした。
 06時14分26秒A受審人は、海豚埼灯台から124度185メートルの地点に達し、船首が198度に向いていたとき、右舷船首19度250メートルのところに、僚船のひき縄の後端付近で船首を北西方に向けてひき縄を引いていた明安丸を視認し得る状況で、同船とは無難に通過する態勢であったが、レーダーで明安丸を初認したとき、明安丸と僚船とは距離が少し離れていたので、僚船のひき縄の後方を通過すれば、明安丸には接近することはないものと思い、船首死角を補うためにいすの上に立って見張り用の開口部から、明安丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、僚船のひき縄の長さを考慮して、僚船の後方約150メートル隔てたところに向けて徐々に右転を始めた。
 A受審人は、操舵室右舷側に立って左手で舵輪の把手を握り、右舷側中央の窓を開け、右舷前方の僚船の動静を監視しながら大きく右回頭を続け、06時14分49秒海豚埼灯台から178度260メートルの地点において、針路を郷ノ瀬に向く285度に定めたとき、左舷船首10度80メートルのところで船首を325度に向けた明安丸の右舷側に著しく接近することになり、同船に対して衝突の危険を生じさせたが、右舷前方の僚船のひき縄後端を示す浮き玉(以下「ボンデン」という。)を探すことに気を取られ、依然として動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、行きあしを止めるなどして明安丸を避けずに進行した。
 こうして、A受審人は、06時14分54秒海豚埼灯台から178度260メートルの地点に至って、ボンデンが見つからなかったことから、これを探すため機関回転数を毎分800に減じたものの、ほぼ同方位40メートルのところの明安丸の船尾に急接近し、05時15分海豚埼灯台から189度250メートルの地点において、宝成丸は、原針路のまま、9.5ノットとなった速力で、その船首が、明安丸の船尾右舷側に後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候は高潮時に当たり、視界は良好で、日出時刻は06時03分であった。
 また、明安丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、船長Y(一級小型船舶操縦士免状受有)が1人で乗り組み、やずひき縄漁の目的で、船首0.20メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日05時30分長崎県壱岐島久喜漁港を発し、海豚埼沖合の漁場に向かった。
 Y船長は、法定の灯火を表示し、壱岐島黒埼から海豚埼にかけての陸岸沿いに南下して、05時50分ごろ海豚埼南方の漁場に至り、擬餌針(ぎじばり)を付けた長さ約80メートルのひき縄を、左舷側に出した長さ約5メートルの竿の先端と船尾端とからそれぞれ流してひき縄漁を始め、やずが掛かればそのままの速力で航行しながらひき縄を手繰り寄せてこれを取り込んでいた。
 Y船長は、操舵室の後方で操船に当たり、06時14分わずか過ぎ海豚埼灯台から176.5度330メートルの地点において、針路を325度に定め、4.0ノットの速力とし、操縦性能を制限しない状態でひき縄を引いた。
 06時14分26秒Y船長は、海豚埼灯台から180度300メートルの地点に達したとき、右舷船首72度250メートルのところを南下していた宝成丸が右に回頭を始め、同時14分49秒同灯台から186度265メートルの地点に至ったとき、右舷正横後40度80メートルのところで、宝成丸が自船の右舷側に著しく接近する針路に転じて衝突の危険を生じさせたが、後方から急接近する同船との衝突を避けるための措置をとる暇もなく、明安丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突し、その衝撃でY船長が海中に投げ出された。
 A受審人は、機関が前進にかかったままの明安丸に接近したところ、Y船長が見当たらなかったので、木片が浮遊していた前示衝突地点に戻って海中に沈んでいた同船長を発見し、長さ3.8メートルの手鉤付きの竹竿により同船長を海面まで引き揚げ、付近を航行していた漁船の支援を得て約30分後に船内に収容し、久喜漁港に搬送した。
 衝突の結果、宝成丸は、船首船底部に擦過傷を生じたが、のち修理され、明安丸は、船尾部を大破するなどの損傷を生じ、のち廃船とされ、Y船長(昭和2年2月5日生)が溺死した。

(原因)
 本件衝突は、日出直後の長崎県壱岐島海豚埼沖合において、漁場に向かう宝成丸が、動静監視不十分で、無難に通過する態勢の明安丸の至近に針路を転じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出直後の長崎県壱岐島海豚埼沖合において、漁場に向けて航行中、レーダーにより明安丸ほか2隻の映像を探知し、ひき縄漁を操業する2隻を視認することができたものの、その少し離れたところで操業する明安丸を視認することができないまま、明安丸と2隻の漁船の間を通過する場合、船首が浮上して船首方向に死角を生じていたのであるから、船首死角を解消して明安丸と衝突のおそれの有無について判断できるよう、いすの上に立って見張り用の開口部から、明安丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、明安丸と2隻の漁船の間は少し距離が離れているので、2隻の漁船のひき縄の後方を通過すれば、明安丸には接近することはないものと思い、ひき縄の後端を示すボンデンを探すことに気を取られ、明安丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、死角に入っていた明安丸に気付かず、同船の至近に針路を転じて衝突の危険を生じさせ、後方から急接近して同船との衝突を招き、宝成丸の船首船底部に擦過傷を、明安丸の船尾部を大破するなどの損傷をそれぞれ生じさせ、明安丸船長を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
(拡大画面:38KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION