(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月9日20時53分
山口県萩港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
交通船第七まつむら丸 |
総トン数 |
4.8トン |
全長 |
13.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
3 事実の経過
第七まつむら丸(以下「まつむら丸」という。)は、M建設株式会社が所有し、専ら山口県萩港周辺で行われる土木工事現場等への作業員の送迎に従事する、最大搭載人員14人のFRP製交通船兼作業船で、A受審人が1人で乗り組み、同県大島での下水道工事打合せを終えた同社社員1名ほか萩市職員など8名を同乗させ、法定の灯火を表示し、船首0.1メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成13年10月9日20時43分大島漁港を発し、萩港浜崎商港地区(以下「浜崎地区」という。)に向かった。
発航後A受審人は、船体中央部の操舵室で手動操舵に当たり、越ケ浜半島北端の虎ケ埼灯台の沖合300メートルばかりを航過し、同半島の西岸に沿って南下して、越ケ浜半島とその南西に位置する九島との間の水道(以下「九島瀬戸」という。)に向け進行した。
ところで、九島瀬戸は、幅約250メートルで北西から南東方向に延び、中央にある可航水深約6メートル同幅約60メートルの水路には、その左右両側端を示す標識灯が、北東側及び南西側に、約80メートルの間隔でそれぞれ2基設置され、北東側の2基が約30メートル萩港寄りに位置して平行四辺形を形成し、同港に入出港する漁船等の小型船の通航路となっていた。
各標識灯は、縦横5.4メートル高さ0.9メートルのコンクリート製基礎の中央に高さ3.6メートルのコンクリート製柱を立て、その頂部が海面上高さ約1.5メートルになるように海底に固定され、同頂部に高さ1.5メートルのアルミニウム合金製支柱を固定し、同支柱の上に株式会社ゼニライト製小型簡易太陽電池式標体が備えられ、各灯色は北東側の2基が緑色、南西側の沖寄りの1基が赤色、萩港寄りの1基が黄色で、各灯質は萩港寄りの緑色灯が約4秒に1閃光、他はすべて約3秒に1閃光で同期点滅ではなかった。
A受審人は、平素、沖側から浜崎地区へ航行するときは、九島瀬戸のほぼ中央を進行し、操船目標として、萩港寄りの緑色標識灯を左舷船首約50度方向に、黄色標識灯を右舷正横より少し前方に、それぞれ見る地点に達したとき同地区に向け右転しており、また、同受審人は同瀬戸の昼間における通航経験は豊富であったが、夜間の通航経験は少なく、年間2回程度であった。
20時51分半わずか過ぎA受審人は、虎ケ埼灯台から221度(真方位、以下同じ。)1,180メートルの地点で、針路を九島瀬戸に向く131度に定め、機関を全速力前進より少し遅い毎分回転数1,800に掛け、18.0ノットの対地速力として、引き続き手動操舵により進行した。
A受審人は、点滅する2個の緑色の灯光を左舷船首に、赤色及び黄色の各灯光を右舷船首に見るようにして九島瀬戸に向け、同じ速力のまま進行し、20時53分わずか前虎ケ埼灯台から189.5度1,390メートルの地点に達したとき、左舷船首約50度に、各標識灯の点灯周期の違いにより、1基のみ点灯した沖寄りの緑色標識灯の灯光を認めたが、速力を減じて点滅する他の標識灯の灯光を確かめるなどして、船位の確認を十分に行わなかったので、これを萩港寄りの緑色標識灯と誤認し、転針予定地点に達したものと思い、同地点に達する前に右転を開始した。
こうして、A受審人は、右回頭しながら赤色標識灯に向け進行中、20時53分虎ケ埼灯台から189.5度1,430メートルの地点において、まつむら丸は、170度を向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部が、赤色標識灯に衝突した。
当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
衝突の結果、まつむら丸は船首部を圧壊し、右舷船底外板に破口などを生じ、自力で浜崎地区に到着して係留したものの、機関室に浸水して水船となり、赤色標識灯はアルミニウム合金製支柱及び標体に損傷を生じたが、のち、それぞれ修理された。また、A受審人が、頭部裂創及び胸部打撲などを、同乗の萩市職員阿武敏ほか5人が打撲傷などをそれぞれ負った。
(原因)
本件標識灯衝突は、夜間、山口県萩港沖合の九島瀬戸を航行中、同港浜崎地区に向けて針路を転じる際、船位の確認が不十分で、転針予定地点に達する前に針路を転じ、赤色標識灯に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、山口県萩港沖合の九島瀬戸を航行中、同港浜崎地区に向けて針路を転じる場合、速力を減じて、点滅する4基の標識灯の灯光を確かめるなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、左舷船首約50度に、各標識灯の点灯周期の違いにより、1基のみ点灯した沖寄りの緑色標識灯の灯光を認めたとき、速力を減じて点滅する他の標識灯の灯光を確かめるなどして、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、これを萩港寄りの緑色標識灯の灯光と誤認し、転針予定地点に達したものと思い、同地点に達する前に針路を転じ、赤色標識灯に向け進行して同標識灯との衝突を招き、まつむら丸に船首部の圧壊及び右舷船底外板の破口などを、赤色標識灯のアルミニウム合金製支柱及び標体に損傷をそれぞれ生じさせ、また、自らが頭部裂創及び胸部打撲などを負い、同乗の萩市職員Cほか5人に打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。