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平成14年広審第101号
件名

漁船南成丸プレジャーボート宗一郎衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、勝又三郎、佐野映一)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:南成丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:宗一郎船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
南成丸・・・船首部に擦過傷
宗一郎・・・船尾部外板を大破、のち船体新替、船外機に損傷及び濡れ損

原因
南成丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
宗一郎・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、南成丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の宗一郎を避けなかったことによって発生したが、宗一郎が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年11月24日12時00分
島根県浜田港

2 船舶の要目
船種船名 漁船南成丸 プレジャーボート宗一郎
総トン数 4.2トン  
全長 13.00メートル 4.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 264キロワット 3キロワット

3 事実の経過
 南成丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首1.4メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成13年11月24日07時00分島根県浜田港を発し、同港内の馬島防波堤南東の水域を経て、馬島の北北西約20海里沖合の漁場に至って1時間ほど操業し、しいら約20キログラムを漁獲したところで南西の風が強くなったので帰航することとし、10時00分過ぎ漁場を発進して帰途に就いた。
 ところで、浜田港内の馬島防波堤南東水域は、馬島と瀬戸ヶ島とに囲まれたところで、同港の北東方に通じる主要な通航路(以下「北東通航路」という。)となっており、当時、その瀬戸ヶ島側では港湾工事のため潜水作業が行われ、直径2メートルの黄色球形浮標灯7個を設置して示された作業区域によって、北東通航路が最狭部で約220メートルに狭められていた。
 また、南成丸は、操舵室が船体中央部やや船尾寄りに設けられており、速力が12.0ノットを超えると船首が浮上し、操舵室で立って操舵に当たると、正船首方の各舷約10度の範囲に死角を生じる状態であり、更に、舷側の窓から顔を出して見張りに当たると、前部甲板に装備されたいか釣りの設備によって正船首方を見通しにくい状態であったので、A受審人は、平素、船首を左右に振ったりレーダーを使用するなどして、船首方の死角を補う見張りを行っていた。
 漁場を発進後、A受審人は、機関をほぼ半速力前進にかけて12.0ノットの速力で航行し、浜田港港界まで3海里に近づいたころ、海面が穏やかになったので機関を増速した。そして、馬島北東方1,000メートルの港界に達した辺りで右転して北東通航路に向けたところ、左舷前方に数個のレーダー映像を認め、左舷側の窓から顔を出して港湾工事作業区域の北西角を示す黄色球形浮標灯付近に出航時にも見かけた数隻の潜水作業船を視認した。
 11時58分半A受審人は、馬島灯台から052度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点で、潜水作業船を十分に離して替わすよう、針路を北東通航路の馬島防波堤寄りに向く214度に定め、引き続き機関を港内全速力前進より少し減じた回転数毎分2,450にかけ、15.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
 ところが、定針したとき、A受審人は、ほぼ正船首670メートルに漂泊している宗一郎を認めることができ、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、レーダーで前路には他船の映像を認められなかったので、ときどき左舷側の窓から顔を出して転針方向にあたる左舷方で工事中の潜水作業船との航過距離を確認することに気をとられ、12ノット以下の速力に減速するなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、宗一郎を避けることなく続航中、12時00分馬島灯台から066度810メートルの地点において、南成丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、206度に向首して漂泊中の宗一郎の船尾に後方から8度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、宗一郎は、船外機を付けたポリプロピレン製の折りたたみ式プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、釣り仲間1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日07時00分浜田港を発し、入道鼻及び馬島北東方沖合で魚釣りを行ったが釣果が芳しくなかったので、馬島防波堤の南側に移動し、11時50分馬島灯台から077度670メートルの地点に至って、船外機を止め、直径1.8メートルのビニル製パラシュート型シーアンカーに直径5ミリメートルのロープを連結し、そのロープの一端を船首部のクリートに固縛して海中に投じ、赤島に向首した状態で漂泊を開始した。その後、折からの南西寄りの風潮の影響を受けて船首が206度に向いた状態で北北東方に圧流されながら、同乗者とともに右舷方を向いて釣りを始めた。
 ところが、B受審人は、それまで数回馬島周辺で釣りをした経験があったことから、北東通航路の瀬戸ヶ島側に港湾工事の作業区域が設けられていることを見知っていたものの、馬島及び馬島防波堤寄りに漂泊していたので、付近を航行する船舶は自船より東側を通航するものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく漂泊しながら釣りを続けた。11時58分半圧流されて馬島灯台から067度800メートルの地点に達したとき、左舷船尾方670メートルに南成丸を視認することができ、その後、同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、周囲の見張りを十分に行わないまま釣りを続けていたので、これに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関を使って移動するなどして衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 12時00分少し前B受審人は、左舷船尾方100メートルに自船に向首して接近する南成丸の船首部を認め、立ち上がって大声で叫んで手を振って合図したものの、同船に避航動作をとる様子がないことから危険を感じ、同乗者とともに右舷側から海中に飛び込んだところ、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、南成丸は船首部に擦過傷を生じ、宗一郎は船尾部外板を大破し、船外機に損傷及び濡れ損を生じたが、のち船体は新替され、船外機は修理された。

(原因)
 本件衝突は、浜田港において、南成丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の宗一郎を避けなかったことによって発生したが、宗一郎が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、浜田港において、沖合漁場から帰航する際、馬島防波堤と港湾工事作業区域との間の狭められた北東通航路を南下する場合、船首浮上により船首方に死角を生じた状況であったから、前路で漂泊している宗一郎を見落とすことのないよう、減速するなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーで前路には他船を認められなかったことから、その後、転針方向にあたる左舷方で港湾工事中の潜水作業船を十分に離して航過することに気をとられ、減速するなどして船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊している宗一郎に気付かず、これを避けないまま進行して、同船との衝突を招き、南成丸の船首部に擦過傷を生じさせ、また、宗一郎の船尾部外板を大破並びに船外機に損傷及び濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、浜田港内の馬島防波堤と港湾工事作業区域との間の狭められた北東通航路において、漂泊しながら魚釣りを行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する南成丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、馬島及び馬島防波堤寄りに漂泊していたので、付近を航行する船舶は自船より東側を通航するものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首して接近する南成丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関を使って移動するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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