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平成14年広審第96号
件名

漁船吉本丸プレジャーボート有神丸衝突事件
二審請求者〔理事官雲林院信行〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月21日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(勝又三郎、竹内伸二、佐野映一)

理事官
雲林院信行

受審人
A 職名:吉本丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:有神丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
吉本丸・・・右舷船首部外板に破口、左舷船首部外板に亀裂を伴う破口
有神丸・・・船首部甲板に損傷
船長が左前胸部打撲等、友人2人が肋骨骨折、顔面打撲等

原因
吉本丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険・衝突回避措置)不遵守(主因)
有神丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、航路外から航路を横切ろうとする吉本丸が、見張り不十分で、無難に替わる態勢にあった有神丸に対し、増速して新たな衝突のおそれがある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、航路に沿って入航しようとする有神丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月19日23時50分
 境港

2 船舶の要目
船種船名 漁船吉本丸 プレジャーボート有神丸
総トン数 4.4トン  
全長   7.72メートル
登録長 11.47メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   102キロワット
漁船法馬力数 50

3 事実の経過
 吉本丸は、すくい網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、レーダーを準備したのち、平成14年7月19日23時46分島根県境港内の長浜を発し、南方約2海里沖合の美保湾に設置されている生簀付近の漁場に向かった。
 ところで、吉本丸の操舵室は、船体中央よりやや後方に設けられて前部と後部に分かれ、前部にレーダー、GPSプロッタ等の航海計器が設置されており、平素、航行中、A受審人は、舵輪と機関操作レバーを備えた後部操舵室に高さ約50センチメートル(以下「センチ」という。)の踏台を置き、その上に立って操舵操船にあたっていた。
 23時48分A受審人は、長浜沖合の防波堤(以下「防波堤」という。)を航過し、沖合の漁場に向かうため、針路を境港港内航路(以下「境港航路」という。)を横切る167度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を2.0ノットの前進にかけて進行したとき、左舷船首60度1,200メートルに同航路入口に向け西行中の有神丸の航海灯を視認することができたが、左方を一瞥(いちべつ)しただけで深夜に入航する船はいないものと思い、レーダーを活用するなどして左方の見張りを十分に行わなかったので、同方向に認めた多数のいか釣り漁船の明るい集魚灯や底引き網漁船の灯火に紛れた有神丸の航海灯を見落とし、同船が前路を無難に航過する態勢で接近することに気付かず、その後速力を2ノットから徐々に増速した。
 23時49分A受審人は、境港第2防波堤北灯台(以下「第2防波堤北灯台」という。)から064度980メートルの地点に達し、機関を回転数毎分1,400の前進にかけて7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)としたとき、有神丸が左舷船首52度660メートルとなり、その後同船と新たな衝突のおそれがある関係となって互いに接近したが、依然左方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、減速するなどして衝突を避けるための措置をとらずに進行中、同時50分少し前境港第2号灯浮標を左舷側60メートルに航過し境港航路内に入ったとき、至近に迫った同船の灯火を初認して機関を全速力後進にかけたが及ばず、23時50分第2防波堤北灯台から049度910メートルの地点において、吉本丸は、原針路のまま、ほぼ行きあしが止まったとき、その左舷船首部が、有神丸の右舷船首部に前方から72度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は高潮時で、視界は良好であった。
 また、有神丸は、エアーホーンを装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人3人を乗せ、同日18時45分境港を発し、地蔵埼沖合でいか釣りを行ったのち、航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、23時35分釣場を発進し、帰航の途についた。
 B受審人は、定置網や漁船を避けながら地蔵埼を付けまわして南下したのち西行し、23時45分美保関港東防波堤灯台から155度710メートルの地点で、GPSプロッタに記録されていた航跡を辿り、針路を境港航路に向く270度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、18.0ノットの速力で手動操舵として進行した。
 23時47分半B受審人は、境港港内に入り、他の船舶に危険を及ぼさないような速力に減じないまま続航し、同時48分右舷船首17度1,200メートルに防波堤を航過した吉本丸が境港航路を横切る態勢で増速しながら南下を始めたが、同航路内に留意していたので、このことに気付かなかった。
 23時49分B受審人は、第2防波堤北灯台から067度1,360メートルの地点に達したとき、右舷船首25度660メートルのところに、吉本丸の白、紅2灯を視認でき、それまで無難に航過する態勢であった同船が増速したため新たな衝突のおそれがある関係となったが、同航路入口に向くようGPSプロッタを頻繁に見たり、船首方の白岩沖合の境港境水道第2号灯浮標(以下「境水道第2号灯浮標」という。)を探すことに気を奪われ、右方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、境港航路内に認めた出航船を避けるため、針路を276度に転じたものの、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、減速するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく進行した。
 こうして、23時50分わずか前B受審人は、境港第2号灯浮標を右舷正横に航過したとき、境水道第2号灯浮標を正船首に認め、至近に迫った有神丸に気付かないまま、針路を275度に転じた直後、有神丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、吉本丸は、右舷船首部外板に破口を、左舷船首部外板に亀裂を伴う破口を生じたが、のち修理され、有神丸は船首部甲板に損傷を生じた。また、B受審人の友人Tが3週間の入院加療を要する外傷性クモ膜下出血及び左第2、3肋骨々折等の重傷を、同受審人が左前胸部打撲等の、並びに友人Kが左顔面打撲等の軽傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、鳥取及び島根両県にまたがる境港において、航路外から航路を横切ろうとする吉本丸が、見張り不十分で、無難に替わる態勢にあった有神丸に対し、増速して新たな衝突のおそれがある関係を生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、航路に沿って入航しようとする有神丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鳥取及び島根両県にまたがる境港において、長浜から境港航路を横切って漁場に向かう場合、同航路入口に向けて西行中の有神丸の灯火を見落とすことのないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、左方を一瞥しただけで深夜に入航する船はいないものと思い、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、有神丸の接近に気付かず、機関を減速するなどして衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、吉本丸の船首部外板に亀裂を伴う破口を、有神丸の船首部甲板に損傷をそれぞれ生じさせ、また、同船に乗船していたT友人に3週間の入院加療を要する外傷性クモ膜下出血及び左第2、3肋骨々折等の重傷を、B受審人並びにK友人に左前胸部打撲等の軽傷をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、鳥取及び島根両県にまたがる境港において、境港航路入口に向けて西行する場合、同航路外から航路を横切る態勢で航行中の吉本丸の灯火を見落とすことのないよう、右方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、GPSプロッタを頻繁に見たり、船首方の白岩沖合の境水道第2号灯浮標を探すことに気を奪われ、右方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、このことに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を減速するなどして衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自ら軽傷を負うとともに友人2人に重軽傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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