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平成14年広審第104号
件名

油送船第八住幸丸漁船浩栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、勝又三郎、西田克史)

理事官
雲林院信行
副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第八住幸丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:浩栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
住幸丸・・・左舷船首部外板に擦過傷
浩栄丸・・・船首部を大破
船長親子が肩打撲傷及び頸部捻挫

原因
住幸丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
浩栄丸・・・動静監視不十分、注意喚起信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八住幸丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事中の浩栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、汽笛設備不装着の浩栄丸が、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月5日23時30分
 瀬戸内海備後灘

2 船舶の要目
船種船名 油送船第八住幸丸 漁船浩栄丸
総トン数 483トン 4.4トン
全長 60.52メートル 12.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第八住幸丸(以下「住幸丸」という。)は、専ら潤滑油の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか4人が乗り組み、潤滑油740キロリットルを載せ、船首2.80メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成13年10月5日15時00分和歌山県和歌山下津港海南区を発し、関門港新門司区に向かった。
 ところで、本船は、主に関門港新門司区と京浜港間に就航し、途上にあたる和歌山下津港や広島港などにも寄港するなど瀬戸内海を航行することが多く、甲機各3人の定員体制のもとで1人が輪番で休暇を取るようにし、時に5人体制で運航される状況でもあった。その結果、船橋当直は、通常3人による単独4時間3交替制で維持されるところ、休暇下船者によっては甲機の海技免状を受有するA受審人が船長職或いは機関の職務を執るようにしていた。したがって、当時船長が休暇下船中であったので、同受審人が代わって船長職を執り、一等航海士との2人による単独6時間2交替の当直体制で行われていた。
 こうして、瀬戸内海を西行して備讃瀬戸から備後灘に入り、23時00分ころA受審人は、備後灘航路第4号灯浮標付近で休息後の体調にて昇橋し、航海灯の点灯状況を確かめたうえで単独で船橋当直に就き、推薦航路線の北側をこれに沿って、船首尾方に同航船の灯火を認めながら機関を全速力前進にかけて西行した。
 23時25分A受審人は、高井神島灯台から339度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を来島海峡東口に向く236度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけたまま折からの弱い北東流に抗して11.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で進行した。
 ところが、定針したとき、A受審人は、ほぼ正船首1.2海里のところに浩栄丸の白、緑の2灯及び両舷灯のほか作業灯数個を視認し得て、同船がトロールにより漁ろうに従事していることを認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であった。しかし、当時、来島海峡の転流時に通峡する状況であったので、同海峡東口に向けたことでその正確な通峡時刻と潮流模様とを調べて西水道か中水道のいずれの航路を通峡することになるかを確かめようとしたが、それに先立って周囲の他船の動向を確かめようとして1.5マイルレンジにしたレーダー画面をのぞいたものの、一見しただけで前方には自船を追い越した同航船だけと思い、目視などによって前路の見張りを十分に行わなかったので、正船首方の浩栄丸の存在に気付かなかった。
 こうして、A受審人は、海図室に入り一時的に見張りから離れた状態で続航し、引き続き浩栄丸と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったことに気付かず、その進路を避けないまま進行中、23時30分高井神島灯台から300度1.5海里の地点において、住幸丸は、原針路、原速力のまま、その船首部と浩栄丸の船首とがほぼ平行した状態で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、衝突地点付近には弱い北東流があり、視界は良好であった。
 A受審人は、船首部に衝撃を感じて浩栄丸との衝突を知り、事後の措置にあたった。
 また、浩栄丸は、トロールにより漁ろうに従事するFRP製漁船で、B受審人と父親との2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同5日18時30分愛媛県越智郡宮窪港を発し、19時00分ころ高井神島北西方の備後灘推薦航路線付近の漁場に至り、同時30分ころから操業を開始した。
 ところで、本船は、船体ほぼ中央部甲板上に操舵室が配され、その前部に高さ4.50メートルのマストと後部にネットローラー及び船尾甲板上にその垂直の高さ5.50メートルの櫓が設けられていた。そして、夜間操業時の灯火として、マスト頂部に20ワットの緑色全周灯とその下方に白色全周灯及び櫓頂部に30ワットの白色全周灯のほか前後部甲板照明用の傘付き30ワットの作業灯数個の各設備が取り付けられていたが、当時緑色全周灯下の白色全周灯が切れた状態であった。また、音響信号装置として電気ホーンを所持していたものの、遊漁船資格取得のため小型船舶検査機構による受検時の必要設備として積載していただけで、操業時などに使用できように所定の場所には装着していなかった。
 こうして、B受審人は、推薦航路線に沿って航行する他船と行き会いながらその南側及び北側水域を前示灯火を点じて曵網を繰り返し、漁獲物の選別を行いながら操業を続けた。23時00分高井神島灯台から272度2.3海里の地点で、針路を056度に定めて手動操舵のまま、機関を微速力前進にかけて2.4ノットの速力で3回目の曵網に入り、船首部甲板上で父と一緒に漁獲物の選別作業にあたっていた。
 ところが、23時25分B受審人は、ほぼ正船首方1.2海里に住幸丸の白、白、紅及び緑の4灯を初めて認め、その後同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、いずれ同船が曵網中の自船の進路を避けるものと思い、引き続き船首部で漁獲物の選別作業を続け、その動静監視を十分に行わなかったので、住幸丸が自船の進路を避けないまま接近することに気付かず、避航を促すための号鐘など有効な音響による信号もさらに衝突を避けるための協力動作も行わないまま、ほぼ同じ針路速力で曵網を続け、同時30分少し前船首方を振り向いたとき、船首至近に迫った住幸丸の両舷灯などを認め、急いで船橋に戻って機関を全速力後進にかけたが及ばず、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、住幸丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ、浩栄丸は船首部を大破し、またB受審人親子が肩打撲傷及び頸部捻挫を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、備後灘推薦航路線付近において、西行する第八住幸丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事中の浩栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、汽笛設備不装着の浩栄丸が、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直にあたって備後灘を西行中、推薦航路線に沿って転針後、転流時ころ通峡することになる来島海峡の潮汐及び通峡水道を確かめようとする場合、一時的に前方から目を離す状態となるから、その前に前方の他船の有無や特に前路で曵網する小型漁船など概して比較的光力の弱い灯火などを見落とすことのないよう、目視などによって前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、レーダー画面を一見しただけで前方には自船を追い越した同航船のほか他船はいないものと思い、目視などによって前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ほぼ真向かいに行き会う態勢でトロールにより漁ろうに従事する浩栄丸の灯火に気付かずに海図室に入り、その進路を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、第八住幸丸の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、また浩栄丸の船首部を大破させ、更にB受審人親子が肩打撲傷及び頸部捻挫を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、備後灘において、汽笛設備不装着のままトロールにより漁ろうに従事中、ほぼ真向かいに行き会う態勢で接近する第八住幸丸の灯火を視認した場合、必要に応じて避航を促すための有効な音響による信号さらに衝突を避けるための協力動作を行う必要があるから、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、いずれ第八住幸丸が曵網中の自船の進路を避けるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船の進路を避けないまま接近する第八住幸丸に気付かず、避航を促すための号鐘など有効な音響による信号も衝突を避けるための協力動作も行わないまま曵網を続けて、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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