日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年神審第86号
件名

貨物船第三十五住吉丸押船マリン31外1隻被押バージマリン21衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(村松雅史、黒田 均、小金沢重充)

理事官
西山烝一

受審人
A 職名:第三十五住吉丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:マリン31船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
住吉丸・・・右舷船首部外板に破口等
マリン21・・・左舷船尾部に凹損

原因
住吉丸・・・居眠り運航防止措置不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
マリン31・・・動静監視不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、マリン31外1隻被押バージマリン21を追い越す第三十五住吉丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、マリン31外1隻被押バージマリン21が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月22日02時15分
 明石海峡西方

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三十五住吉丸  
総トン数 497トン  
全長 67.36メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 押船マリン31 押船マリン32
総トン数 19トン 19トン
全長 13.00メートル 13.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 1,323キロワット
船種船名 バージマリン21  
垂線間長 70.00メートル  
21.00メートル  
深さ 6.50メートル  

3 事実の経過
 第三十五住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長I、A受審人ほか3人が乗り組み、砕石1,500トンを積載し、船首4.0メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成14年3月21日12時00分山口県岩国港を発し、愛知県衣浦港に向かった。
 I船長は、船橋当直を08時から12時までと20時から24時までを自らが、00時から04時までと12時から16時までをA受審人が、04時から08時までと16時から20時までを甲板員が、それぞれ単独で行う4時間3直制とし、同当直の30分前に交替するようにしていた。
 A受審人は、23時30分香川県小豆島大角鼻南東方沖合で単独の船橋当直に就いて、所定の灯火を表示し、操舵輪後方の背もたれ付きのいすに腰掛けて当直に当たり、翌22日01時56分少し前江埼灯台から253度(真方位、以下同じ。)4.4海里の地点で、針路を068度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの西南西流に抗して9.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 A受審人は、定針後、同じ姿勢で当直に当たっていたところ、海上平穏で視界も良く、周囲に他船が見当たらなかったことから、眠気を催したが、あと1時間半ばかりで当直交替なので、まさか居眠りすることはないと思い、立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとらずに続航しているうち、02時04分ごろ居眠りに陥った。
 02時05分A受審人は、江埼灯台から255度3.0海里の地点に達したとき、右舷船首7度1,400メートルのところに、マリン31外1隻被押バージマリン21(以下「マリン31押船列」という。)の船尾灯を視認できる状況で、その後、同押船列に衝突のおそれがある追い越し態勢で接近したが、居眠りしていてこのことに気付かなかった。
 こうして、A受審人は、マリン31押船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行し、02時14分半ふと目覚めたとき、右舷船首至近に迫ったマリン31押船列の船尾灯を初めて視認し、機関中立としたが効なく、02時15分江埼灯台から263度1.4海里の地点において、住吉丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部が、マリン21の左舷船尾部に後方から6度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、付近海域には西南西方へ流れる約1.0ノットの潮流があった。
 I船長は、衝突の衝撃を感じ、昇橋して事後の措置に当たった。
 また、マリン31押船列は、砕石4,200トンを積載して船首5.0メートル船尾5.6メートルの喫水となった、非自航式鋼製バージマリン21の左舷船尾凹部にマリン31の船首を、右舷船尾凹部にマリン32の船首を嵌合し、それぞれピンで結合して全長約73メートルとし、マリン31には、B受審人ほか1人が乗り組み、船首1.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、一方、マリン32には、船長Hほか2人が乗り組み、船首1.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、同月20日22時00分大分県津久見港を発し、大阪港に向かった。
 ところで、マリン21の船橋には、マリン31及びマリン32の操舵及び機関の遠隔操縦装置、レーダーのほか汽笛等が装備され、同船橋でマリン31押船列の船橋当直を行い、H船長は、マリン31押船列の船長として、船橋当直を自らとB受審人及び甲板員の3人による単独4時間交替の3直制としていた。
 B受審人は、翌々22日00時00分播磨灘航路第5号灯浮標の西方で、単独の船橋当直に就いて、各船の所定の灯火を表示し、立って当直に当たり、02時03分江埼灯台から254度2.4海里の地点において、針路を明石海峡航路中央第2号灯浮標に向く062度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけて、折からの西南西流に抗して5.0ノットの速力で進行した。
 02時05分B受審人は、江埼灯台から255度2.2海里の地点に達したとき、左舷船尾13度1,400メートルのところに、住吉丸の白、白、緑3灯を初めて視認したが、一べつしただけで、同船が、左舷側を無難に追い越すものと思い、住吉丸に対する動静監視を十分に行わなかった。
 こうして、B受審人は、住吉丸が自船に衝突のおそれがある追い越し態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、さらに間近に接近したとき、右転するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中、マリン31押船列は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、住吉丸は、右舷船首部外板に破口等を、マリン21は、左舷船尾部に凹損等をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、両船が明石海峡西方を東行中、マリン31押船列を追い越す住吉丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、同押船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、マリン31押船列が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就いて明石海峡西方を東行中、眠気を催した場合、立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、あと1時間半ばかりで当直交替なので、まさか居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、マリン31押船列に衝突のおそれがある追い越し態勢で接近していることに気付かず、同押船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き、住吉丸の右舷船首部外板に破口等を、マリン21の左舷船尾部に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、明石海峡西方を東行中、左舷後方から接近する住吉丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、住吉丸が左舷側を無難に追い越すものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、住吉丸が自船に衝突のおそれがある追い越し態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、さらに間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して住吉丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION