(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月2日14時20分
和歌山県湯浅湾西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十一オーバルエルピー |
総トン数 |
749トン |
全長 |
67.49メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
船種船名 |
漁船住吉丸 |
総トン数 |
12トン |
登録長 |
14.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
3 事実の経過
第十一オーバルエルピー(以下「オーバルエルピー」という。)は、船尾船橋型の鋼製液化ガスばら積船で、A受審人ほか6人が乗り組み、プロパンガス565トンを載せ、船首3.0メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成13年9月1日12時40分千葉港を発し、大阪港に向かった。
翌2日14時00分A受審人は、単独で船橋当直に当たり、紀伊海鹿島灯標(以下「海鹿島灯標」という。)から219度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点において、針路を355度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.5ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、周囲に底びき網漁をしている漁船が散在しているのを認めたので、しばらく手動操舵により北上し、14時15分海鹿島灯標から296度2.2海里の地点に達したとき、左舷船首方に数隻の漁船が存在する外、近距離には漁船が見当たらなくなったので、積荷書類などの整理作業を行うこととし、自動操舵とした。
このとき、A受審人は、ほぼ正船首方1,930メートルのところに、船首を北東方に向け、ほとんど静止している住吉丸を視認できる状況であったが、前方の漁船は左舷船首方に見える数隻のみと思い、正船首方の住吉丸を見落とさないよう、見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、操舵室左舷側にある海図台に赴いた。
その後A受審人は、積荷書類などの整理作業に夢中となり、所定の形象物を表示し、ほとんど静止して漁ろうに従事している住吉丸に衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船を避けることなく続航した。
14時20分少し前A受審人は、ふと前方を見たところ、至近に住吉丸を初めて視認し、手動操舵に切り替えて右舵一杯を取り、機関を停止したが及ばず、14時20分海鹿島灯標から314度2.9海里の地点において、オーバルエルピーは、原針路原速力のまま、その左舷船首が、住吉丸の右舷後部に後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はなく、視界は良好であった。
また、住吉丸は、底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、たちうお漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日03時00分和歌山県箕島漁港を発し、同県湯浅湾西方沖合の漁場に至り、同漁場において繰り返し操業を行った。
B受審人は、14時11分水深約65メートルの衝突地点付近で、船首を北東方に向け、主機の回転数を毎分500の中立運転として漂泊したのち、漁ろうに従事している船舶が表示する所定の形象物を船尾マスト上に掲げ、船尾甲板上に備えた揚網機により揚網作業を開始した。
底びき網漁業は、長さ約25メートルの袋網の両端に長さ約80メートルのたちうお網と称する袖網を付し、この両端から各1個の開口板を取り付けた太さ40ミリメートル長さ約40メートルの合成繊維製ロープと太さ11ミリメートル長さ約400メートルのワイヤーロープを繋いだ2本の曳綱を延出した漁具で行うものであった。
14時15分B受審人は、船首を035度に向け、底びき網の荷重が掛かったとき船体がわずかに後退するものの、ほとんど静止した状態で、船尾甲板上において甲板員と揚網作業を行っていたとき、右舷船尾40度1,930メートルのところに、自船に向首接近するオーバルエルピーを初めて視認し、その後同作業を行いながら監視していたところ、同船が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを知った。
しかしながら、B受審人は、所定の形象物を掲げているから、そのうちにオーバルエルピーの方が避けるものと思い、同船に対してエアーホーンによる警告信号を行うことなく、揚網作業を続けた。
B受審人は、14時20分少し前オーバルエルピーが右舷船尾至近に迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じたがどうする暇もなく、住吉丸は、船首を035度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、オーバルエルピーは船首材下部に擦過傷を生じ、住吉丸は右舷側後部外板に破損、プロペラ及び同軸にそれぞれ曲損を生じたが、のち修理され、また、B受審人が腰部挫傷などを、住吉丸甲板員が顔面外傷などをそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、和歌山県湯浅湾西方沖合において、オーバルエルピーが、見張り不十分で、ほとんど静止して漁ろうに従事している住吉丸を避けなかったことによって発生したが、住吉丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に当たり、和歌山県湯浅湾西方沖合を北上する場合、正船首方の住吉丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の漁船は左舷船首方に見える数隻のみと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方でほとんど静止して漁ろうに従事している住吉丸の存在に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首材下部に擦過傷を、住吉丸の右舷側後部外板に破損、プロペラ及び同軸にそれぞれ曲損を生じさせ、また、B受審人に腰部挫傷などを、住吉丸甲板員に顔面外傷などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、和歌山県湯浅湾西方沖合において、ほとんど静止して底びき網による漁ろうに従事しているとき、オーバルエルピーが避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを知った場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、所定の形象物を掲げているから、そのうちにオーバルエルピーの方で避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、そのまま揚網作業を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。