(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月2日09時10分
和歌山県江須埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十五浜幸丸 |
漁船久美丸 |
総トン数 |
187トン |
7.3トン |
全長 |
|
15.31メートル |
登録長 |
51.03メートル |
12.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
426キロワット |
3 事実の経過
第十五浜幸丸(以下「浜幸丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.9メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成14年5月1日06時00分京浜港横浜区を発し、山口県宇部港に向かった。
A受審人は、翌2日07時40分和歌山県樫野埼沖合で単独の船橋当直に就いて西行し、08時20分潮岬灯台から187度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点において、針路を290度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの黒潮に抗し7.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
09時00分A受審人は、前路に漁船を見かけなくなったので、船橋左舷後部の海図台に赴き、船尾方を向いた姿勢で船舶書類の作成を始めたところ、同時05分江須埼灯台から140度4.1海里の地点に達したとき、左舷船首24度1.1海里のところに、北上中の久美丸を視認することができる状況となったが、船舶書類の作成に気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
A受審人は、その後、久美丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、警告信号を行わず、更に間近に接近しても、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、09時10分わずか前ふと船首方を見たとき、至近のところに久美丸を初めて視認し、手動操舵に切り替え、機関を中立とした直後、09時10分江須埼灯台から145度3.5海里の地点において、浜幸丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、久美丸の右舷側後部に、前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には東南東方に流れる2.5ノットの黒潮があった。
また、久美丸は、船体後部に操舵室を備えたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、かつおひき縄漁の目的で、同月2日04時50分和歌山県安指(あざし)漁港を発し、同港南方4海里付近の漁場に至り、操業を開始した。
ところで、B受審人が行うひき縄漁は、両舷に出した各1本の竿などから、合計11本のひき縄を最長で35メートルの長さで流し、6ないし7ノットの速力で航走し、かつおが釣れると船尾部で引き揚げる作業を繰り返すものであった。
B受審人は、針路が陸岸とほぼ直角になるように航走して操業を続け、09時05分江須埼灯台から154度3.5海里の地点に達したとき、針路を040度に定め、機関を微速力前進にかけ、折からの黒潮の影響で右方に20度圧流され、7.1ノットの速力となり、後部甲板で後方を向いた姿勢で釣れたかつおを引き揚げながら、自動操舵により進行した。
定針したときB受審人は、右舷船首46度1.1海里のところに、浜幸丸を視認することができる状況であったが、かつおを引き揚げることに気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
B受審人は、その後、浜幸丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、右転するなど同船の進路を避けずに続航中、09時10分わずか前引き揚げ作業を終えて操舵室に戻ろうとしたとき、右舷方至近に迫った浜幸丸を初めて認めたものの、どうすることもできず、久美丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、浜幸丸は、右舷側外板に擦過傷を生じただけであったが、久美丸は、右舷船尾部外板に破口を伴う損傷を生じ、のち修理された。また、B受審人が左上顎骨を骨折した。
(原因)
本件衝突は、和歌山県江須埼南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上する久美丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る浜幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行する浜幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、和歌山県江須埼南東方沖合において、ひき縄漁に従事しながら北上する場合、浜幸丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣れたかつおを引き揚げることに気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する浜幸丸に気付かず、右転するなど同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、浜幸丸の右舷側外板に擦過傷を、久美丸の右舷船尾部外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、自らが左上顎骨を骨折するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、和歌山県江須埼南東方沖合を西行する場合、久美丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船舶書類の作成に気を取られ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する久美丸に気付かず、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。