(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年2月28日11時35分
千葉県犬吠埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船永野丸 |
貨物船サンファルコン |
総トン数 |
16.95トン |
15,163.00トン |
全長 |
18.86メートル |
159.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
522キロワット |
6,001キロワット |
3 事実の経過
永野丸は、金目鯛のはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成14年2月28日01時30分千葉県外川漁港を発し、同県犬吠埼南東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、03時30分ころ漁場に着き、直ちに操業の準備作業を行ったのち、操業にかかり、金目鯛180キログラムを獲て操業を終え、帰港することとし、10時00分犬吠埼灯台から140度(真方位、以下同じ。)24.8海里の漁場を発進し、針路を318度に定め、自動操舵により進行した。
発進後、A受審人は、操業の後片付け作業を甲板員に行わせるため、8ノットの対地速力(以下「速力」という。)として続航し、10時35分甲板員が同作業を終えたので、機関を全速力前進にかけて12.4ノットの速力とし、その後、甲板員を船員室で休息させ、自ら単独の船橋当直に当たって帰途に就いた。
ところで、A受審人は、当時、好天の日が続いて日帰り操業が連日にわたり、幾分疲労が蓄積した体調となっていたが、まさか航行中に居眠りすることはあるまいと思い、休息中の甲板員と2人で船橋当直を行うなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵室の窓や出入口を閉め切った状態で、操舵室後部のいす代わりとした板に座布団を敷き、これに腰をかけ、周囲の見張りを行いながら進行中、いつしか居眠りに陥った。
11時27分A受審人は、犬吠埼灯台から143度9.4海里の地点に達したとき、左舷船首50度2.0海里のところに、前路を右方に横切る態勢のサンファルコン(以下「サ号」という。)を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものの、居眠りをしていてこのことに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作もとらないで続航中、11時35分永野丸は、犬吠埼灯台から144度7.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首部がサ号の右舷前部外板に後方から77度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、視界は良好であった。
また、サ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長Bほか19人が乗り組み、鋼材約6,098トンを積載し、船首5.52メートル船尾6.56メートルの喫水をもって、同月27日15時15分名古屋港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
B船長は、三等航海士Cに対し、船橋当直中、他船と著しく接近する状況となれば早めに警告信号を行い、早期に避航するなどの操船についての指示を十分に行っていなかった。
翌28日08時43分C三等航海士は、船橋当直中、勝浦灯台から091度11.6海里の地点に達したとき、針路を035度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
11時27分C三等航海士は、犬吠埼灯台から154.5度8.4海里の地点に達したとき、右舷船首53度2.0海里のところに、前路を左方に横切る態勢の永野丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航し、同時29分同方位1.5海里のところに永野丸を初めて視認し、同船を見守るうち、その方位に変化のないまま、同船が自船に著しく接近する態勢となっていることを知り、同時30分右舵10度をとって進行した。
11時31分C三等航海士は、船首が20度ばかり回頭したとき、永野丸が針路を右に転じたように見えたので、針路を原針路に戻し、その動静を監視していたところ、依然として同船の方位に変化なく、初認時と同様の針路で航行しているのを認めたものの、そのまま続航し、同時33分永野丸を同方位930メートルに見る状況となったとき、長音1回を吹鳴して注意を喚起したうえ、同船が右転して自船の進路を避けることを期待し、針路、速力を保ったまま進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、永野丸は、船首部を圧壊し、サ号は、右舷前部外板に凹損を生じ、のち永野丸は修理された。また、A受審人が頸髄損傷等を、永野丸の甲板員が頭部打撲傷等をそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、千葉県犬吠埼南東方沖合において、北東進するサンファルコンが、前路を左方に横切る永野丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北西進する永野丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、千葉県犬吠埼南東方沖合において、操業を終えて帰港する場合、好天の日が続いて日帰り操業が連日にわたり、幾分疲労が蓄積した体調となっていたから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員と2人で船橋当直を行うなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、疲労感はあったものの、まさか航行中に居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、左方からサンファルコンが自船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行してサンファルコンとの衝突を招き、自船の船首部を圧壊し、サンファルコンの右舷前部外板に凹損を生じさせ、また、自らは頸髄損傷等を負い、永野丸甲板員に頭部打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。