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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年横審第60号
件名

貨物船第十八邦友丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、森田秀彦、小須田 敏)

理事官
酒井直樹、釜谷奬一

受審人
A 職名:第十八邦友丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
球状船首部を圧壊、船首楼左舷側外板に凹損等

原因
見張り不十分

主文

 本件防波堤衝突は、見張りを十分に行わなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月15日17時45分
 愛知県三河港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八邦友丸
総トン数 460トン
全長 71.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第十八邦友丸(以下「邦友丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鋼材1,272トンを積載し、船首3.25メートル船尾4.45メートルの喫水をもって、平成12年11月15日17時30分愛知県三河港豊橋地区のトピー北ふ頭岸壁を発し、法定灯火を掲げて千葉県千葉港に向かった。
 離岸後A受審人は、自ら操舵操船に当たり、機関を徐々に増速させながら対岸の神野(じんの)東ふ頭との中間点付近まで北進し、17時32分半三河港大崎防波堤灯台から290度(真方位、以下同じ。)640メートルの地点に達したとき、針路を掘り下げ水路に沿って三河港豊橋第5号灯浮標(以下、灯浮標名については「三河港豊橋」を省略する。)の灯光に向首する284度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
 ところで、邦友丸の操舵スタンドは、船橋前面窓際に並ぶコントロールコンソール中央部にあり、そこから船尾方1.2メートル離れた位置に横幅1.2メートル船首尾方向の長さ0.8メートルのテーブルが置かれ、同テーブルの下部にパソコンの本体が、その上部に船首方を向いた同ディスプレーがそれぞれ置かれていた。
 A受審人は、平素、航海毎のデータ収集のため、前示パソコンにGPS信号を入力させており、いつもは出航前にパソコンを起動させてデータ収集の準備を終えるようにしていたところ、当日、荷役の手仕舞いが長引き、パソコンの起動を含む同準備ができないまま離岸したことから、そのことが気になり、同準備が港内航行中に行うような重要な作業ではないことを自覚していたが、三河港の入出港に慣れていたこともあり、また、パソコンの電源を入れて簡単な設定をするだけであったことから、定針後、パソコンの起動設定に取りかかることとした。
 まもなくA受審人は、操舵スタンドとテーブルとの間に置かれた椅子に左舷側を向く体勢で腰を掛け、腰を屈めて左手でパソコン本体の電源を入れたところ、通常通り起動せず、ときどき顔を上げて周囲の見張りをしながら、同じ体勢のままパソコン本体の点検を始め、17時39分少し前第7号灯浮標の灯光を右舷側50メートルに航過したことを認めたが、その後、次第にパソコンの点検に気を奪われるようになるとともに、周囲の見張りが疎かになっていった。
 17時41分少し前A受審人は、三河港神野北防波堤南灯台(以下「北防波堤南灯台」という。)から098度1.0海里の地点に達したとき、港口に向ける転針の用意のため、同じ体勢でパソコンの点検を続けたまま、右手で操舵スタンド上面パネルを探り、作動切替スイッチを手動操舵に切り替えた。
 しかしながら、A受審人は、手動操舵に切り替えてもしばらくの間は直進するからと、直ちに立ち上がって舵輪に手を添えるなど、手動操舵の体勢に入ろうとしなかったばかりか、依然、パソコンの点検に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったことから、作動切替スイッチを操作したとき、右舵3度ばかりとられた状態で切り替わり、わずかに右回頭しながら続航していることに気付かず、やがて時の経つのも忘れてパソコンの点検に没頭し、邦友丸は、17時43分北防波堤南灯台から088度1,240メートルの地点で掘り下げ水路から外れ、700メートルばかりに迫った神野北防波堤に向かってわずかずつ右転しながら進行した。
 17時44分半A受審人は、ふと顔を上げ左舷方を見たところ、船首方に見えるはずの第5号灯浮標を左舷正横よりわずか後方350メートル余りに認めるとともに、正船首170メートルに迫った神野北防波堤にようやく気付き、混乱状態に陥ったまま操舵装置を各種操作したが効なく、17時45分北防波堤南灯台から056度850メートルの地点において、邦友丸は、原速力のまま320度を向首したその船首が、神野北防波堤に対し84度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 衝突の結果、球状船首部が圧壊したほか、船首楼左舷側外板に凹損を生じ、積荷の鋼材数本が曲損した。また、神野北防波堤上部の長さ8メートルのL字形コンクリートブロックに、約2メートル移動するなどの損傷を生じた。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、三河港を出航する際、見張り不十分で、神野北防波堤に向け右転していることに気付かないまま進行したことによって発生したものである。 

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、三河港を出航する場合、掘り下げ水路を外れて神野北防波堤に衝突することのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、GPS信号を入力させるパソコンの点検に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、わずかずつ神野北防波堤に向け右転していることに気付かないまま進行して同防波堤との衝突を招き、球形船首部圧壊等の損傷を生じさせ、積荷に損傷を与えたほか、同防波堤にコンクリートブロックの移動などの損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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