(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年7月21日05時40分
静岡県清水港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船柴丸 |
プレジャーボートのらり |
総トン数 |
2.23トン |
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全長 |
9.20メートル |
5.83メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
25 |
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出力 |
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44キロワット |
3 事実の経過
柴丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、おにかさご漁の目的で、船首尾とも0.3メートルの等喫水をもって、平成13年7月21日03時30分静岡県清水港三保船だまりの定係地を発し、同港三保防波堤東方沖合約150メートルの漁場に向かった。
A受審人は、04時20分ごろオニカサゴ15尾を得て前示漁場での操業を終了し、風波の穏やかな同港第3区にある三保埼観光船のりば南西側の海域に移動して漁獲物などの整理を終えたのち、清水港江尻船だまりにある魚市場に向かうこととし、05時35分清水真埼灯台から166度(真方位、以下同じ。)550メートルの地点を発進し、針路を275度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で、後方が開放されて天幕が設けられた操舵室に立ち、舵柄を操作しながら進行した。
05時37分A受審人は、清水真埼灯台から210度570メートルの地点に差しかかったとき、正船首650メートルにのらりを視認でき、この海域には平素からプレジャーボート等が錨泊して魚釣りを行っていることを承知していたので、船首を西方に向けたまま移動する様子のないことなどから、同船が錨泊していることが分かり、その後、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、定針した際、周囲を一瞥(いちべつ)したところ、船影を認めなかったので、他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、同船を避けないまま続航した。
05時39分A受審人は、清水真埼灯台から238度880メートルの地点に至ったとき、のらりの方位が変わらず、200メートルに接近したが、依然、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、B受審人らが避航を促す叫び声も機関の騒音で聴こえず、同船を避けないまま進行中、05時40分清水真埼灯台から245度1,040メートルの地点において、柴丸は、原針路、原速力のまま、その船首がのらりの左舷船尾に後方から18度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
A受審人は、のらりとの衝突に気付かないまま続航中、付近を通航するプレジャーボートに衝突したことを知らされ、のらりまで引き返して事後の措置に当たった。
また、のらりは、船体中央部に操舵スタンドを有し、セルモーター始動式船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日02時30分清水市巴(ともえ)川に架けられた千歳(ちとせ)橋のたもとの定係地を発し、同川河口の鉄道岸壁で親戚2人を同乗させたのち、それぞれ救命胴衣を着用しないまま、三保防波堤東方沖合約200メートルの釣り場に向かった。
B受審人は、03時00分ごろ前示釣り場に至り、タチウオ釣りを行ったが、釣果が芳しく(かんばしく)なかったので、04時00分ごろ清水港内に移動し、適宜釣り場を変更して釣りを続けた。
04時50分B受審人は、水深約24メートルの前示衝突地点付近において、船首から重さ10キログラムのダンフォース型錨を投入し、錨索として直径18ミリメートルの合成繊維索を約40メートル延出し、船首を西方に向けて錨泊を開始し、釣りを続けたが、05時30分ごろ釣りを終えることとし、自らは操舵スタンドの後方に立ち、同乗者2人は同スタンド前方の甲板上に座ってそれぞれ釣り竿(さお)などの片づけを始めた。
05時37分B受審人は、前示衝突地点で船首を257度に向けて錨泊しているとき、左舷船尾18度650メートルのところに、自船に向首した柴丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、自船は本船航路を外れた場所に錨泊しているので接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、錨泊したまま片づけを続けた。
05時39分B受審人は、同乗者の1人から注意を促がされて後方を見たとき、同方位200メートルに接近した柴丸を初めて視認し、衝突のおそれを感じ、同乗者とともに手を振って避航を促がすための叫び声を発したものの、直ちにセルモーターで船外機を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとらずに錨泊中、のらりは、船首が257度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、柴丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、のらりは、船外機を破損し、トランサム左舷上部にV字型凹損及び亀裂を生じたが、のち修理された。また、B受審人が衝突の衝撃で海中に投げ出されて約2週間の通院加療を要する頚椎捻挫等を、同乗者Cが転倒して全治10日間の通院加療を要する頭部打撲等を、また、同乗者Tが転倒して約4週間の通院加療を要する腰椎横突起骨折等をそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、静岡県清水港第3区において、西行中の柴丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中ののらりを避けなかったことによって発生したが、のらりが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、静岡県清水港第3区において、三保埼観光船のりば南西側の海域から同港の江尻船だまりにある魚市場に西行する場合、前路で錨泊中ののらりを見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、定針時に、周囲を一瞥したところ、船影を認めなかったので、他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、のらりに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、のらりのトランサム左舷上部にV字型凹損及び亀裂等をそれぞれ生じさせ、B受審人及びのらり同乗者2人に骨折や打撲傷等をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、静岡県清水港第3区において、錨泊して魚釣りを行う場合、衝突のおそれのある態勢で接近する柴丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船は本船航路を外れた場所に錨泊しているので接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、柴丸が衝突のおそれのある態勢で接近することに気付くのが遅れ、船外機を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて柴丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。