(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年8月5日15時00分
愛知県幡豆郡一色町沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船義栄丸 |
漁船第二平栄丸 |
総トン数 |
0.9トン |
0.5トン |
全長 |
8.21メートル |
6.90メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
60 |
30 |
3 事実の経過
義栄丸は、採貝藻漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あさり漁の目的で、船首0.0メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成13年8月5日09時00分愛知県幡豆郡一色町の矢作古川(やはぎふるかわ)河口から1,300メートルばかり上流右岸の係留地を発し、同河口から3キロメートル西方の漁場で09時30分から14時00分の間操業を行い、その後、同町千生新田(せんしょうしんでん)の四等三角点(以下「三角点」という。)から250度(真方位、以下同じ。)950メートルの地点に移動してあさりの選別作業を行ったのち、同時57分30秒同地点を発進して水揚げのため同県衣崎(ころもざき)漁港千間(せんげん)地区に向かった。
ところで、同県吉田港から一色港にかけての沿岸は、沖合1,000メートルばかりのところまで干出浜が拡延し、一帯があさり漁場となっていた。また、沖合から漁港や河口の係留地に至る幅約60メートル水深約1.5メートルの澪筋(みおすじ)が干出浜に掘られており、その目印として澪筋の片側に40ないし50メートルの間隔で竹竿(たけさお)が突き刺してあった。
近年、沖合から矢作古川河口の衣崎漁港千間地区に至る澪筋の一部が、土砂の堆積で水深が浅くなり、漁船等の航行の障害となっていたため、同年7月12日から浚渫工事が行われており、同工事を施工する浚渫船が、三角点から171度360メートルの地点において、北東方を向首し、澪筋東縁に右舷側を沿わせるようにスパッドと称する係船杭を打ち込んで停泊し、ときおり同船に土砂運搬船(以下「土運船」という。)が接舷して浚渫土砂の積載に当たっていた。
また、浚渫船は、全長25.0メートル幅10メートル深さ1.8メートルの台船上に、パワーショベルや高さ約2メートルの船員室を設置しており、土運船は、全長43メートル幅11メートル深さ3.5メートルで、後部に高さ約4メートルの船橋を備えていた。
当時、土運船が浚渫船の左舷側に北東方を向首して接舷し、両船が澪筋の東側半分を占有して付近の可航幅が30メートルばかりに狭まっていたうえ、両船の形状が一般的な澪筋通航船や周辺で操業する漁船等に比べてかなり大きく、土運船等の周辺を澪筋に沿って走る通航船や、その近くの干出浜で操業する漁船は、互いに見通しを妨げられることがあり、澪筋通航船は、土運船等の陰となった干出浜から澪筋に進出する漁船に対処できるよう、十分に減速して航行することが求められ、一方、土運船等の脇から澪筋に進出しようとする漁船は、澪筋通航船の有無について十分な確認が必要な状況となっていた。
発進後、A受審人は、船尾甲板に設置した操舵スタンド後部に立って舵輪を握り、機関を半速力前進にかけ、21.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で干出浜を大きく迂回し、14時59分11秒三角点から197度770メートルの地点に達したとき、針路を矢作古川の河口に向く澪筋に沿う033度に定め、同速力のまま進行した。
14時59分49秒A受審人は、三角点から181度420メートルの地点に達し、土運船の船尾を右舷船首13度70メートルばかりに認めるようになったとき、同船と浚渫船の陰となった範囲が見通せず、あさり漁を終えた漁船が土運船等の陰から澪筋に進出することも十分に考えられる状況であったが、今までそのような漁船に遭遇したことはなかったので大丈夫と思い、澪筋に進出する漁船に対処できるよう、十分に減速することなく続航した。
14時59分57秒A受審人は、土運船の船体中央を右舷側に10メートル離して航過したとき、右舷船首至近に同船の陰から現れた第二平栄丸(以下「平栄丸」という。)を認め、直ちに左舵一杯、機関中立としたが及ばず、15時00分義栄丸は、三角点から170度320メートルの地点において、028度を向首し、10.8ノットの速力となったその船首が、平栄丸の左舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
また、平栄丸は、採貝藻漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、あさり漁の目的で、船首0.05メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同日10時00分衣崎漁港千間地区を発し、矢作古川河口付近の漁場で操業したのち、三角点から166度340メートルの、浚渫船の北東側20メートルの地点であさりの選別作業を行い、14時59分水揚げのため同地点を発進して衣崎漁港生田地区に向かうこととした。
B受審人は、澪筋に進出してから同筋を南西進することにしており、南西方に向いていた船首を90度ばかり右回頭させて澪筋に向けたところ、土運船等が妨げになって澪筋を見通すことができなかったが、減速して澪筋に出れば大丈夫と思い、船首に甲板員を見張りに立たせ、クラッチの嵌脱(かんだつ)を繰り返しながら船首を澪筋が見通せるところまで進出させるなどして、澪筋通航船の有無について十分に確認することなく、14時59分49秒針路を308度に定め、機関を極微速力前進にかけ、手動操舵により5.4ノットの速力で発進し、澪筋中央部に出た途端、平栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、義栄丸は、船首部に擦過傷を生じ、平栄丸は、左舷側中央部舷縁を破損するとともに転覆し、のち廃船とされた。また、B受審人が2箇月の入院及び3箇月半の通院加療を伴う右上腕骨骨折、肺水腫及び脳挫傷を負い、平栄丸甲板員平井すず子が5箇月間の通院加療を伴う左肩鎖関節脱臼を負った。
(原因)
本件衝突は、愛知県幡豆郡一色町沖合において、干出浜に掘られた澪筋を航行する義栄丸と、干出浜から澪筋に進出しようとした平栄丸の両船が、澪筋脇に停泊中の土運船等により互いに見通しが妨げられる状況下、義栄丸が、十分に減速しないまま航行したことと、平栄丸が、澪筋通航船の確認が不十分のまま澪筋に進出したこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、愛知県幡豆郡一色町沖合において、あさり漁場である干出浜に掘られた澪筋を航行中、澪筋の脇に停泊する土運船等によりその陰となる干出浜の見通しが妨げられる状況にあった場合、同干出浜での操業を終えて澪筋に進出する漁船に対処できるよう、十分に減速して航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、今まで土運船等の陰から澪筋に進出した漁船がいなかったので大丈夫と思い、十分に減速して航行しなかった職務上の過失により、土運船等の陰から澪筋に進出した平栄丸との衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、平栄丸の左舷側中央部舷縁を破損させるとともに同船を転覆せしめ、B受審人に2箇月の入院及び3箇月半の通院加療を伴う右上腕骨骨折、肺水腫及び脳挫傷を、平栄丸甲板員に5箇月間の通院加療を伴う左肩鎖関節脱臼をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、愛知県幡豆郡一色町沖合において、あさり漁場である干出浜で操業を終えて澪筋に進出する際、澪筋の脇に停泊する土運船等により澪筋の見通しが妨げられる状況にあった場合、船首に甲板員を見張りに立たせ、クラッチの嵌脱を繰り返しながら船首を澪筋が見通せるところまで進出させるなどして、澪筋通航船の有無について十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、減速して澪筋に出れば大丈夫と思い、澪筋通航船の有無について十分に確認しなかった職務上の過失により、澪筋を航行する義栄丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も負傷し、平栄丸甲板員を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。