(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年6月22日04時20分
福島県小名浜港南南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十二清幸丸 |
遊漁船第三隆栄丸 |
総トン数 |
47.57トン |
19.00トン |
全長 |
28.00メートル |
24.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
467キロワット |
3 事実の経過
第十二清幸丸(以下「清幸丸」という。)は、FRP製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、底曳網漁の目的で、船首1.0メートル船尾3.0メートルの喫水で、平成13年6月21日02時20分福島県久之浜漁港を発し、同県小名浜港南南東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、04時頃漁場に至って操業を開始し、その後何度となく投網、曳網、揚網を繰り返し、終日操業に従事した。
A受審人は、翌22日03時50分全長700メートルの網を投網し、トロールにより漁ろうに従事している船舶が表示する成規の灯火のほか薄明時でかなり明るくなってきたので鼓形形象物を掲げ、04時00分大津岬灯台から124度(真方位、以下同じ。)12.2海里の地点で曳網を開始し、針路を216度に定めて自動操舵とし、機関を微速力前進にかけ、3.3ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、04時09分レーダーを見て右舷船首89度3.0海里に第三隆栄丸(以下「隆栄丸」という。)の映像を認め、同時13分大津岬灯台から128度12.1海里の地点に達したとき、右舷正横2.0海里に同船がほぼ自船に向首してかなりの高速力で接近するのを視認した。
04時17分A受審人は、隆栄丸が右舷正横後3度0.8海里に接近したとき右転して衝突のおそれがある態勢となって接近するので、操舵室前面の作業灯を点滅させるとともに警告信号の意味でモーターサイレンにより長音1回を吹鳴した。
A受審人は、隆栄丸が自船の信号を聞いて更に右転し前路を替わしていくものと思い、同船に避航の様子がなかったのに警告信号を続けず、同船の避航動作を期待しながら進行し、やがて同船と間近に接近したがどうすることもできず、04時20分大津岬灯台から129度12.1海里の地点において、清幸丸の右舷前部が、隆栄丸の船首部に、原針路、原速力のまま、後方から76度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で日出時刻は04時20分であった。
また、隆栄丸は、FRP製遊漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、一本釣漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.9メートルの喫水で、同月22日03時27分茨城県平潟漁港を発し、小名浜港南南東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、航行中の動力船が表示する灯火を掲げ自身で操船して離岸し、03時33分大津岬灯台から000度1.8海里の地点で、針路を135度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、17.0ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、04時09分レーダーで左舷船首10度3.0海里に清幸丸の映像を認め、同時13分大津岬灯台から128度10.1海里の地点に達したとき、左舷船首9度2.0海里に同船を視認し、南西方に向かっており、低速力なので曳網中の漁ろうに従事している漁船であることを知った。
B受審人は、その後腹痛を感じるようになり、04時17分大津岬灯台から129度11.1海里の地点に達したとき、清幸丸が左舷船首6度0.8海里に接近していたが、腹痛が進んで注意力が散漫となり、少し右転すれば同船の前路を替わせるものと思い、自動操舵のまま5度右転して140度としたため清幸丸と衝突のおそれがある態勢で接近することとなったが、このことに気付かず、他の乗組員を呼ぶことなく船尾のトイレに行き、船橋を無人とした。
B受審人は、腹痛が限界に達していて、清幸丸が行った作業灯の点滅にも警告信号にも気付かず、更に右転するなど同船の進路を避けないまま進行し、04時20分少し前用足しを終えて右舷側甲板を船橋に戻っていたとき、至近に迫った清幸丸を認めたがどうすることもできずに前示のとおり衝突した。
衝突の結果、清幸丸は右舷前部を圧壊し、隆栄丸は船首部に亀裂を伴う凹損を生じた。
(原因)
本件衝突は、福島県小名浜港南南東方沖合において、隆栄丸が、船橋無人のまま航行し、漁ろうに従事している清幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清幸丸が、警告信号を続けなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、小名浜港南南東方沖合を航行中、漁ろうに従事している清幸丸を左舷前方に認めた場合、衝突のおそれがあるときには同船の進路を避けることができるよう、船橋当直を維持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、5度右転したので清幸丸の前路を替わっていくものと思い、船橋を無人とした職務上の過失により、同船との衝突を招き、清幸丸の右舷前部を圧壊させ、隆栄丸の船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
A受審人は、小名浜港南南東方沖合において漁ろうに従事中、衝突のおそれがある態勢で接近する隆栄丸に対し警告信号を行っても同船に避航の様子が認められない場合、警告信号を続けて行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に接近すれば自船を避けるものと思い、警告信号を続けて行わなかった職務上の過失により衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。