海難審判法は、同法第46条第1項において、「理事官又は受審人は、地方海難審判庁の裁決に対して、命令の定めるところにより、高等海難審判庁に第二審の請求をすることができる。」、及び同条第2項において、「補佐人は、受審人のため、独立して第二審の請求をすることができる。但し、受審人の明示した意思に反してこれをすることはできない。」旨を規定している。
一件書類によれば、本件は、平成14年3月29日神戸地方海難審判庁において第一審の裁決言渡があり、受審人A及び同受審人選任の補佐人君島通夫、同小川洋一、同中村哲郎、同秋葉隆行(以下、君島補佐人等という。)並びに受審人B選任の補佐人赤地茂及び同松井孝之からそれぞれ第二審の請求がなされたこと、その後、A受審人が、平成14年9月30日大阪湾水先区水先免状を国土交通大臣に返納し、同水先区水先人の資格を有しなくなったこと、並びにB受審人、松井補佐人及び赤地補佐人が、平成14年11月19日第二審の請求を取り消したことが認められる。
第二審請求は、第一審の裁決で懲戒を受けた者が、同人の権利または法律上受けた不利益に対してその変更を求めて行い得るものであり、原因解明裁決に不服があったとしても、それだけではなし得ないことは、最高裁判所の昭和52年(行ツ)第42号同53年3月10日第二小法廷判決、及び同裁判所の昭和57年(行ツ)第118号同58年7月15日第二小法廷判決の判示するところである。
A受審人は、第一審で懲戒裁決を受けたものの、大阪湾水先区水先免状を返納した時点で、海難審判法第34条の受審人としての適格性を喪失することになり、当海難審判庁は、同受審人が第一審で受けた懲戒裁決の当否を審理することはできない。このように、同受審人が第二審の請求を維持する適格、所謂第二審請求権を喪失することとなった以上、同受審人選任の君島補佐人等の第二審請求権も補佐人の性格上喪失するものと解される。
したがって、A受審人及び君島補佐人等がなした本件第二審の請求は、その手続が海難審判法の規定に違反することとなるので、同法第48条を適用し、これを棄却する。
よって主文のとおり裁決する。
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