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平成13年第二審第44号
件名

交通船ライオンフィッシュ交通船アリサIII潜水者死傷事件〔原審那覇〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年1月30日

審判庁区分
高等海難審判庁(東 晴二、山崎重勝、佐和 明、吉澤和彦、山本哲也)

理事官
根岸秀幸

受審人
A 職名:ライオンフィッシュ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:アリサIII船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:アリサIII潜水指導者 

損害
ライオンフィッシュ・・・推進器を曲損
潜水者1人が頭蓋骨骨折で死亡、1人が左肩甲骨骨折等

原因
ライオンフィッシュ・・・潜水ポイントを迂回しなかったこと、見張り不十分、浮上中の潜水者を避けなかったこと
アリサIII・・・潜水者に対する安全措置不十分

二審請求者
理事官上原 直

主文

 本件潜水者死傷は、ライオンフィッシュが、潜水ポイントを迂回しなかったばかりか、見張り不十分で、浮上中の潜水者を避けなかったことによって発生したものである。
 アリサIIIが、潜水ポイントで降ろした潜水者に対して十分な安全措置を講じなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月8日15時10分
 沖縄県石垣島御神埼北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 交通船ライオンフィッシュ 交通船アリサIII
全長 10.63メートル  
登録長   11.94メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 80キロワット 117キロワット

3 事実の経過
 ライオンフィッシュは、主としてスキューバダイビングを楽しむ潜水客を対象に、潜水ポイントへの送迎や潜水案内などの目的に使用される旅客定員17人のFRP製ダイビングボートで、A受審人が1人で乗り組み、潜水指導者及び潜水客各1人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成11年9月8日12時30分沖縄県石垣港を発し、石垣島川平石埼北方沖合の石埼マンタスクランブルと称する潜水ポイントで潜水案内を終えたのち、同じく同案内を終えた同業船あつみに続いて14時45分同ポイントを発して帰途に就いた。
 A受審人は、15時00分石垣御神埼灯台(以下「御神埼灯台」という。)から038度(真方位、以下同じ。)5,400メートルの地点に達したとき、針路を御神埼の少し沖合に向く221度に定め、機関をほぼ全速力にかけて17.0ノットの対地速力で、あつみを右舷やや前方に見ながら進行した。
 ところで、御神埼北方約150メートルの沖合には、水深約30メートルの海底から高さ約20メートルに隆起し、直径約20メートルの頂部にテーブル珊瑚が群生する、カスミの根と称する岩礁が存在した。
 そして、カスミの根の周辺水域は、同根から海岸に至るほぼ中間に、海面からの高さ約20メートル直径約40メートルの大岩と、同高さ約4メートル直径約20メートルの小岩(以下「大岩」及び「小岩」という。)とが連なっており、両岩の海岸側には海底洞窟があるなどの珍しい地形となっていて、潜水者は同根の周囲だけではなく、海岸の岩場から洞窟を経て同根に至るコース、あるいはその逆のコースで潜水を楽しむことができ、人気が高い潜水ポイントの一つになっていた。
 また、A及びB両受審人ほか約70人の同業者が加入する、八重山ダイビング協会は、潜水者に対する安全措置として、潜水ポイントで潜水案内を行うときは、国際信号旗A旗を掲げて付近を航行する船舶への注意喚起を行うこと、A旗を掲揚している船舶の周囲100メートル以内は徐行すること、付近の海域を航行するときは、同ポイントを大きく迂回することなどを申し合わせ、「安全対策ガイドライン」と題する小冊子を配布するなどして協会員の指導にあたっていた。
 ライオンフィッシュは、操舵室前面のガラス窓を3分割する幅広の窓枠で前方の見通しがやや妨げられるうえ、滑走状態になると船首が浮上して正船首方向に死角が生じることから、これを補うには同室右舷外側の通路に立ち、左腕を伸ばして舵輪を操作しながら見張りを行う必要があった。
 A受審人は、操舵室右舷側の通路で操舵にあたり、15時06分ごろカスミの根の南東方の浅瀬にA旗を掲げたアリサIIIなど同業船2隻が停泊していることに気付き、同時08分少し過ぎ御神埼灯台から025度1,100メートルの地点に達したとき、そのまま直進すると同根の上を航過する状況であったが、同根の上に船舶を認めなかったことから、同根付近には潜水者はいないものと思い、潜水ポイントを迂回することなく、やがて操舵室に入り、右舷やや前方を先航するあつみに注意しながら操舵席に座って続航した。
 15時09分半わずか過ぎA受審人は、御神埼灯台から351度360メートルの地点に達したとき、あつみが突然減速したことを認めたが、前方の死角を補う十分な見張りを行っていなかったので、正船首方約200メートルの海面上に、ほぼ肩から上を出した状態で浮上している潜水者のグループに気付かず、あつみの左舷正横を30メートルばかり離して航過した。
 こうして、ライオンフィッシュは、原針路、原速力のまま続航し、15時10分御神埼灯台から316度270メートルの地点において、潜水者グループ4人の間を航過し、その際、同船の推進翼がうち2人と接触した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、衝撃を感じて直ちに主機のクラッチを切り、後方を確認したところ、海面に浮いている1人の潜水者と海中から噴出する気泡を認めて潜水者と接触したことを知り、アリサIIIに連絡し、来援したあつみほか同業船の協力を得て潜水者の収容、負傷者の病院への搬送など、事後の措置にあたった。
 また、アリサIIIは、旅客定員27人のFRP製ダイビングボートで、B受審人が1人で乗り組み、潜水指導者のC指定海難関係人、潜水客7人及び幼児1人を乗せ、船首尾とも0.5メートルの等喫水をもって、同日10時20分石垣港を発し、コーラルウェーブと称する潜水ポイント及び石埼マンタスクランブルでの潜水を終えたあと、15時00分カスミの根に到着した。
 C指定海難関係人のほか、H、Yら潜水者3人は、ウェットスーツ、水中マスク、足ヒレ、ジャケットタイプのBCと称する浮力調整装置(以下「エアジャケット」という。)、エアタンクなどスキューバダイビングの装備を装着し、カスミの根に到着後、予め打ち合わせておいたとおり直ちに海中に入り、同根から海底洞窟などを経由し、小岩近くの浅瀬で待機するアリサIIIに約30分後に戻る予定で潜水を開始した。
 B受審人は、潜水者4人が潜水を開始したことを確認したのち、自船が潜水ポイントの水域内でA旗を掲げて停泊していれば、航行する船がカスミの根に近づくことはないものと思い、しばらく同根に留まって潜水者が船舶の航行しない安全な水域に達するまで周囲を監視するなど、潜水者に対して十分な安全措置を講じることなく、15時02分カスミの根から離れた。
 その後、B受審人は、船上に残った5人にシュノーケリングなどをさせる目的で、御神埼灯台から351度150メートルの地点に移動し、先に停泊していた同業船の陸側の浅瀬に、船首から投錨して船尾の係留索を予め投入されていたブイに取り、船尾にA旗を掲げて停泊した。
 ところで、同停泊地点は、カスミの根及び小岩からそれぞれ南東方に約160メートル及び約40メートル離れた位置にあたり、大岩や小岩などに遮られてカスミの根周辺の水域を視認することができず、潜水者の存在を他船に知らせるには適切な地点ではなかった。
 一方、C指定海難関係人は、一旦全員がカスミの根の頂部で集合することとして潜水を開始したところ、潜水者2人が南西方に流され始めたことに気付き、グループが離れ離れになったときの対策である海面合流のため浮上することとし、補佐していた潜水者を同根頂部の岩につかまらせて待機させ、接近する船舶のエンジン音が聞こえないか確かめたうえ浮上し、小岩の近くに停泊している同業船以外に船舶を認めなかったので、待機していた潜水者とともに、同根から南西方約40メートルの海面に浮上していた潜水者2人に向かって水中を移動した。
 こうして、C指定海難関係人は、15時10分少し前、浮上してY潜水者のエアジャケットをつかまえ、海面上で息を整えながら海底の地形を確認し、他の潜水者2人が海底洞窟の入口に向かうため潜水を開始したことを認め、これに続こうとしていたとき、後方から高速で接近したライオンフィッシュが、前示のとおり航過し、Y潜水者の悲鳴で、初めて異常事態が発生したことに気付いた。
 その結果、H潜水者(昭和52年8月7日生)が頭蓋骨骨折で死亡し、Y潜水者が左肩甲骨骨折など全治約6週間の重傷を負った。

(原因)
 本件潜水者死傷は、御神埼北方沖合において、ライオンフィッシュが、潜水案内を終えたのち石垣港に帰航中、前路の潜水ポイントに近づいた際、同ポイントを迂回しなかったばかりか、見張り不十分で、同ポイント近くで浮上中の潜水者を避けなかったことによって発生したものである。
 アリサIIIが、ダイビング目的の潜水者をカスミの根の上で降ろした際、しばらく同所に留まり、潜水者が船舶の航行しない安全な水域に達するまで周囲を監視するなど、潜水者に対して十分な安全措置を講じなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、潜水案内を終えたのち石垣港に帰航中、御神埼北方沖合において、カスミの根の潜水ポイントに近づいた場合、同ポイントを迂回すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同根の上に船舶を認めなかったことから、周辺に潜水者はいないものと思い、同ポイントを迂回しなかった職務上の過失により、浮上中の潜水者2人と自船の推進翼とが接触する事態を招き、潜水者1人が死亡し、1人が重傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、御神埼北方沖合において、ダイビング目的の潜水者をカスミの根の上で降ろした場合、他船が潜水者に接近することがないよう、しばらく同所に留まり、潜水者が船舶の航行しない安全な水域に達するまで周囲を監視するなど、潜水者に対して十分な安全措置を講じるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、潜水ポイント内の水域でA旗を掲げて錨泊していれば、航行する船がカスミの根に近づくことはないものと思い、潜水者に対して十分な安全措置を講じなかった職務上の過失により、前示の事態を招き、死傷者が生じるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成13年12月10日那審言渡
 本件潜水者死傷は、ライオンフィッシュが、見張り不十分で、潜水者を避けなかったことによって発生したが、アリサIIIが、潜水者に対する安全措置が不十分であったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。


参考図





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