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2000/05/23 毎日新聞夕刊
44年目の初夏に・徳山ダム本体着工/下 補償交渉、野鳥保護など課題山積
◇議論、始まったばかり
 「いまさら反対運動なんて、と言われることもあるんです」。市民グループ「徳山ダム建設中止を求める会」の近藤ゆり子さん(50)=岐阜県大垣市=が語気を強める。「でも『みんなが賛成した』とは、歴史に記録してほしくない」
 
 貯水量で日本最大。徳山ダムの水没予定地は1425ヘクタールにも達する。事業主体の水資源開発公団は約99%の用地買収を終えた。一方で、求める会は土地トラスト運動を展開。未買収地のうち約0.5ヘクタールを会員ら約120人が共有している。
 今月17日、求める会の共有地を対象に、岐阜県収用委員会の審理が開かれた。水資源開発公団の職員12人と会員15人が出席。冒頭から怒号が飛び交い、両者の議論はかみ合わなかった。
 求める会は昨年3月、建設省に徳山ダムの事業認定の取り消しを求める行政訴訟と、岐阜県が支出している建設負担金の差し止めを求める住民訴訟を岐阜地裁に起こした。
 建設省はダムの治水、利水、発電の多機能の意義を強調する。県は、事業の決定権はなく訴訟の対象外と主張する。求める会の代理人で、長良川河口堰(ぜき)の裁判も手がけた名古屋弁護士会所属の在間正史弁護士は「長良川のように無駄な事業を繰り返されてはたまらない。完成前の早期判決を」と主張する。裁判の場での建設省、県との議論は入り口に立ったばかりだ。
 
 希少猛きん類のクマタカ、イヌワシの生息が確認されている。ダムの予定地周辺は動植物の宝庫だ。公団は今年4月、「徳山ダム環境保全対策委員会」を発足させた。学識経験者8人が、ダム建設に伴う環境保全策について助言する。
 環境保全対策委の発足には前段がある。公団は従来「徳山ダムワシタカ類研究会」から保護について提言を受けてきた。しかし昨年8月、日本野鳥の会岐阜県支部のメンバー3人が研究会の委員を辞任した。「関連工事を全面中止して、猛きん類の調査をするよう公団に提言したが、受け入れられなかった」という理由からだ。研究会は機能を失った。
 研究会の役割を継承するはずの環境保全対策委に、野鳥の会メンバーは含まれなかった。公団は「野鳥の会の力を借りて行う調査はもう終わった」と説明する。それに対し、野鳥の会は「鳥類の保護が弱まるのではないか」と懸念を示す。
 ほかの問題もある。揖斐川流域の6漁協でつくる揖斐川水系ダム対策協議会は、ダム建設に伴う漁業補償を公団に求めている。水没予定地には鉱業権を持つ人もいるが、補償交渉はまとまっていない。
 
 徳山ダム計画は23日、本体工事がスタートした。だが、課題は依然として残されたままだ。2007年度には村がダムに沈み、半世紀をかけた国家的巨大プロジェクトが完成する。
【五味香織】
 
 
 
 
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