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1995/08/01 毎日新聞朝刊
[社説]水資源白書 水の日に反省すべきこと
 
 一九九四(平成六)年度には大きな「水の危機」が二度も発生した。
 第一の危機は六月から八月にかけての降水量が平年の五〇%以下となったため起こった。西日本を中心に大規模渇水に見舞われた。
 とくに福岡市では給水制限が二百九十五日にも及んだ。これは七八年の二百八十七日を上回るワースト記録となってしまった。
 第二の危機は、言うまでもなく九五年一月の阪神大震災時である。この大地震で水道が破壊された。消火用水や生活用水に大きな支障があった。その期間も長期化した。
 九五年版の「水資源白書」(国土庁)は、この二つの危機を契機とした水に関する危機対策をメーンテーマに据えた。これら有事の際の危機管理のあり方を分析した。
 ここで特に問題となるのは、中長期的な対策であるが、白書は渇水対策として第一に水利用の合理化を挙げた。第二に水意識の高揚、第三に安定した水資源の確保である、と指摘した。
 この場合、白書が特に強調したいのは、水資源の確保であろう。日本の都市は大河川の下流部の沖積平野で発達するケースが多い。これは人口と産業の集積を招くから、流域全体の水需要に対して安定的に水を供給することが難しい。
 昨年夏の給水制限に福岡市民はさほど慌てなかった、と聞く。七八年の渇水の経験から、市を挙げて節水運動に取り組んだからだという。
 福岡市民一人当たりの水の使用量は七七年当時より逆に下がっている。水洗トイレの普及などを考慮すると、本来増えてもおかしくないのだが、逆に減ってきた。節水運動のたまものだろう。
 とはいえ、節水には限界がある。
 「福岡都市圏にさらに大きなダムが欲しい」という声があるのも事実だ。だが、これには時間がかかる。十年も十五年もかかる。しかもダム建設に当たって地域住民の十分な意見の反映が不可欠だろう。
 最近、建設省はダム事業などで地域住民の意見を反映させるため、事業ごとに「ダム等事業委員会」の設置を決めた。意味はある。
 ダム建設のような息の長い事業は計画から実施、完成まで極めて長い時間が必要だ。経済、社会情勢の変化もある。
 今度のダム事業の評価システムはそれぞれの段階で住民の意見が事業に反映されることが可能という。
 長良川河口堰(ぜき)の経験が生かされたものだろうが、形式だけではいけない。この「評価システム」が実質的な意味を持つような関係者の努力を望みたい。
 阪神大震災の「水危機」も深刻だった。水道管が破壊され、消火栓からの消火用水の確保がほとんどできなかった。
 被災者が必要とする水は、時間の経過によって量、用途が変わっていく。どこにどのような用途の水がどれだけ必要かという点を把握することができず、混乱した。
 情報管理センターである神戸市水道局本庁部分が損壊した。情報管理システムが使えなくなった。だが、不運で片付けることはできない。
 水源、浄水場、処理場、基幹管路などの重要施設は複数系統化、分散化が必要だったのである。今年の「水の日」(八月一日)は、反省の日にしよう。
 
 
 
 
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