第3章 新マイクロ波標識の開発理念
3.1 開発理念
新しいレーダー方式に対応したマイクロ波標識を開発するにあたって考慮すべき条件を、開発理念として以下に示す。
(1)対応するレーダー方式の範囲
厳しいスプリアス規制に対処するために新しい方式のレーダーが検討されているが、現時点ではどのような方式となるか予測は難しい。また、統一された規格とならない場合や、過渡期には様々なレーダー方式が共存する場合も十分考えられる。従って、可能な限りどのような方式のレーダーにも柔軟に対応できるビーコン方式とするべきである。
また、レーダー側で特別な装置を必要としない方式とすべきである。
(2)識別符号の挿入
従来のビーコン同様、ビーコン局であることを示す識別符号を挿入できる方式とすべきである。このために、パルス圧縮やFM-CWで用いられる長いパルスに符号を挿入する技術を検討する必要がある。
(3)対応する周波数の範囲
従来のビーコンと同様、Xバンドレーダー周波数帯の全ての範囲を極力カバーできるような方式とすべきである。
(4)スプリアス、干渉問題への配慮
ビーコン局自身が極力スプリアス等の妨害波を出さない方式とすべきである。
(5)機能・性能
現状のビーコンが有する機能・性能を極力具備した方式とすべきである。
(6)その他
レーマークビーコンは検討の対象としない。
3.2 技術要件
(1)方式
従来のように、応答信号をビーコン自身が発生する方式の場合、相手のレーダー方式が既知でないとそれに見合う応答信号を発生することができない。また、存在するレーダー方式および変調方法等の数だけ、応答信号の種類を具備する必要が生じ、このような方法は現実的でない。従って、新マイクロ波標識はレーダーから発せられた電波を受信し、これを応答波として極力利用するような方式が望ましい。
また、スプリアスの発生に配慮して、符号挿入などの為に受信したレーダー波に加工を加える場合にも必要最小限とし、かつ高い周波数での変調等を避ける方式とする。
どのようなレーダー波にも対応できるという意味で、概念的には反射板的作用のビーコン方式が望ましい。
(2)機能・性能
新マイクロ波標識の機能・性能は、従来のマイクロ波標識が有していた機能、性能を極力踏襲できることが望ましい。考えられる理想的な機能・性能要件を表3-1に示す。
(3)識別符号の挿入
前述のように、方式としては反射板的作用のビーコンが望ましいが、これに識別符号を挿入する技術が必要となる。ひとつの手法として、遅延を組み合わせて識別符号を生成するような方式の検討も必要である。
表3-1 新マイクロ波標識の機能性能要件
番号 |
項目 |
現状(周波数アジャイル型) |
新マイクロ波標識 |
1 |
送信周波数範囲 |
9300〜9500MHz |
同左 |
2 |
送信周波数安定度 |
±4.5MHz以下 |
不要な周波数を放射しないこと |
3 |
周波数アジャイル精度 |
±1.5MHz以下 |
不要な周波数を放射しないこと |
4 |
送信電力 |
400mW±20% |
以下の有効範囲を確保できる送信電力
・灯台灯標用:9NM
・灯浮標用:5NM |
5 |
送信応答遅れ |
0.6μs以下 |
距離誤差90m以内 |
6 |
空中線利得 |
8dB以上:灯台・灯標用
3dB以上:灯浮標用 |
同左を前提とする
〃 |
7 |
最小トリガ感度 |
-40dBm以下 |
以下の有効範囲を確保できる感度
・灯台灯標用:9NM
・灯浮標用:5NM |
8 |
最大許容入力レベル |
1Wピーク |
同左 |
9 |
最小受信パルス幅 |
0.08μs |
チャープ波およびFM-CW波にも対応出来る事 |
10 |
最大応答周波数(注1) |
2.5kHz |
同左 |
11 |
遠近判別機能 |
有り |
同左 |
12 |
送信単位パルス幅 |
近:1μs
遠:2μs |
同左
同左 |
13 |
パルス符号 |
任意のモールス符号が単位パルス幅に対応する16ビットの符号(注2) |
同左 |
14 |
サイドローブ応答抑圧 |
有り |
同左 |
15 |
受信阻止ゲート幅 |
有り |
必要に応じて |
16 |
動作/休止シーケンス |
有り |
同左 |
17 |
イルミネーション/スタンバイ時間 |
有り |
必要に応じて |
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注1)対応可能なレーダーの最大パルス繰り返し周波数を意味する。
注2)1ビット=単位パルス幅。
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