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 東京財団研究推進部は、社会、経済、政治、国際関係等の分野における国や社会の根本に係る諸課題について問題の本質に迫り、その解決のための方策を提示するために研究プロジェクトを実施しています。
 
 「東京財団研究報告書」は、そうした研究活動の成果をとりまとめ周知・広報(ディセミネート)することにより、広く国民や政策担当者に問いかけ、政策論議を喚起して、日本の政策研究の深化・発展に寄与するために発表するものです。
 
 本報告書は、「国際協力NGO活性化の方策研究プロジェクト」(2003年7月〜2004年1月)の研究成果をまとめたものです。ただし、報告書の内容や意見は、すべて執筆者個人に属し、東京財団の公式見解を示すものではありません。報告書に対するご意見・ご質問は、執筆者までお寄せください。
 
2004年7月
東京財団 研究推進部
 
研究経緯と分担
 本研究に当たってプロジェクトリーダー及びプロジェクトメンバーは、研究事業開始後、ほぼ月一回の割合で研究会を開催し、すべての研究会に全員が出席した。またこの研究会にはプロジェクトメンバー以外に、NGOの活動実態を知るためにシャンティ国際ボランティア会(SVA)の三宅隆史氏およびパレスチナ子どものキャンペーンの田中好子氏を招いたほか、NPOとの財政面での比較を行うために、パブリックリソースセンターの岸本幸子氏を招いて、ともに議論を行った。
 報告書の執筆に当たってはNGOの現状、課題等に関して毛受敏浩がドラフトを作り、伊藤道雄氏らの意見を元に再構成した。NGOのマーケティングについては主として本城愼之介氏が担当し、NGOと地域社会との連携に関しては佐渡友哲氏が担当した。また提言とまとめについてはプロジェクトメンバー全員がそれぞれの立場、経験をもとに、具体的な提言と執筆を行った。そのなかでACTを活用した新たな財源については石井達郎氏と伊藤道雄氏がとりまとめた。また全般にわたるNGOについてのデータの集積及びNGOの現状のドラフトは森田慈子が行った。
 
第1章 本研究の意義と目的
 国際協力活動を行う市民組織(以下NGO)は、戦後1960年代から誕生し、1980年代から1990年代前半にかけて非常な勢いで増加してきた。しかし、1990年代の後半になると、日本経済の悪化の影響を受けて新たに設立されるNGOは激減するとともに、既存のNGOも厳しい状況に立たされている。
 長引く不況によって多くのNGOは財政面での課題を抱えている。NGOへの重要な資金源であった郵貯のボランティア貯金の交付金額は超低金利のために9割以上も減少しており、また不景気のために一般市民や企業、民間財団からの資金支援も先細り状態にある。
 他方、日本赤十字社、共同募金会等、政府に近い組織や(財)日本ユニセフ協会、そして海外から日本に進出した(特活)ワールドビジョンジャパンや(財)日本フォスタープラン協会などのNGOに資金が集中しがちで、日本の市民の間で生まれたNGOの大多数は零細または小規模なままである。これらのNGOは、国際協力を行う上で十分な組織基盤があるとは言えない状態である。
 また、NGOに対する一般市民の関心や認職も必ずしも高いとはいえない。NGOの認知度の低さは、NGOを支える個人会員の数にも反映されている。国内の主要NGO230団体の総会員数は35万人程度に過ぎず、欧米では一団体で100万人を超えるサポーターを持つNGOの存在を考えると、日本のNGOを支える市民の基盤が極めて脆弱であるといえる。しかも、会員数はここ数年減少傾向にあるといわれている。
 本研究ではこれら、日本の国際協力に関わるNGOが抱える課題に対して、日本のNGOセクターをいかにすれば強化できるかとの視点から、NGOセクターの現状、NGOの課題について分析を行う。
 さらに、その分析に基づき、個々のNGOとしての組織強化についての方法論を提示するとともに、NGOセクター全体の底上げのためにNGOセクターとして共通して取り組むべき方策について検討し、提言を行うものである。
 
第2章 提言とまとめ
 日本の国際協力NGOを取り巻く環境は順風満帆という状況からはほど遠い。他の先進国では、一般にNGOの活動が社会的に高く評価され、政府や市民から支援を得るとともに、そのスタッフは専門性を持つプロフェッショナルとして活動している。これに比して、日本のNGOの現在の状況は大きな格差がある。
 6章で国際協力NGOが果たす多様な役割を詳述するが、NGOの活動は途上国における個々の支援活動を行うことに意義があるばかりでなく、多面的な役割を持つものである。NGOの活動は途上国での支援活動における重要性とともに、閉塞した日本社会に新しい可能性をもたらすものとしての価値を含んでいる。
 従って、NGOの果たす多様な意義を積極的に社会にアピールすることで、NGOに対する市民の理解につなげる努力が必要である。例えば、NGOは一般の人々に資源の浪費を戒め、新たなライフスタイルを提言することがあるが、NGOが主張する省資源やスローライフなどの提言は徐々に市民の間で共感を得つつある。世界の人々との共生の理念や地球環境に対するNGOの視点は、経済成長志向に対するアンチテーゼを含んでいるが、より洗練されたメッセージ性の高い広報戦略を採用することで、新たなライフスタイル、価値観の提言として受け入れられる可能性がある。またそのことによって、その活動を行うNGOの存在をアピールできよう。
 さらにNGO、つまり「非政府組織」ということばの持つあいまい性がNGOの活動の足かせになる場合がある。NGOを名乗ることについての制約がないので、自称NGOと称して不適切な活動を行う組織が存在しかねないことは憂慮すべき点である。国際協力NGOセンターではその正会員のNGOには、(1)国際協力活動設立の経緯・目的の市民主導性、(2)明確な意思決定・責任体制(3)意思決定及び運営への市民参加、(4)情報公開、(5)一定の自己財源の保持、等の要件を求めている。一般社会に対して、NGOへの信頼性を確保するため、国際協力NGOセンターの正会員制度を社会に積極的に紹介し、これらの要件を満たすNGOについては、一部の市民がNGOに対して持つ「あやしげ」「うさんくささ」とは明らかに一線を画したNGOであることをアピールすることが求められる。
 一般の人々が個別のNGOに対して積極的に寄付を行うことを妨げている心理的な要因として、3つのハードルが考えられる。一つは、個々のNGOの行う活動目的についての共感が得られるかどうかである。例えば、イラクの戦争孤児についての支援を行うというような活動目的に共感できるかどうかが最初のハードルとなる。次に、そのNGOのガバナンスがしっかりしたものであるかどうかについて納得できるかどうかということが問題となる。「いかがわしい」NGOが多いと考える人々にとってNGOが掲げる目標に共感できたとしても、そのNGO自体が信頼できるものかどうかが二番目の関門になる。三番目の関門は、NGOのパーフォーマンスである。イラクの戦争孤児についての支援を行うことへの共感と、その組織の運営のあり方について納得がいったとしても、その実施する活動自体がどれだけ効果的であり、効率的なものであるかについての説得力がNGOに求められる。その3つの関門を突破して初めて一般の人々のNGOに対する財政支援、寄付に結びつくと考えられる。
 ただし、その3つの関門の前提となる条件がクリアされていなければ、三つの関門を突破してもNGOに対する寄付は自動的には行われない。すなわち、一般市民はなぜ「自分」がそのことにお金を出さなければならないのかについて通常、納得できないからである。つまり、そうした活動は政府の仕事であり、自分は税金を納めており、新たにそのことに「個人的」にお金を出すことの必要性に疑問を感じる傾向が日本では根強い。すなわち、公的な活動の必要性やその事業の効果を認めたとしても、自分自身がそれに自腹を切ってまで関わる必然性を個々人が持たなければ寄付をするという行動には至らない。
 その意味で、多くの日本人には、公的な活動に対して個人として資金面で支援をするという発想自体が薄いといえる。こうした考えの根底には、社会に対して積極的に個人として働きかける、つまり自分自身が社会運営(ガバナンス)の主体であるという考え自体が弱いと考えられる。すなわち、個人は社会にとっての客体でしかなく、社会の主人公が自分であり、個人として責任を持ったコミットを行うという意識が弱いと考えられる。
 シビル・ソサエティの発展には個人が積極的に社会に参加し、社会を変えていくということの意識が必要となるが、その意識が日本では希薄である。その意味で市民意識の転換を迫るような新しい試みが求められるが、現在、NPO特区で行われているNPO支援のあり方に対して、新たな視点から提言ができる。すなわち、ハンガリーで行われている1%法*を構造改革特区の中で提案されている各地のNPO活動推進特区に適用し、所得税(住民税)の1%を自分の選ぶNPOへの寄付に回せるシステムを導入することである。そのことによって、個人の意志で公的な活動を支援すると経験によって、個人の社会への積極的な参加意識の転換を図る契機になると考えられる。またそのことは「納税」の意味や政府の役割についての基本的な意味を考える契機ともなり得る。
 一方、7章で見るようにNGOの活動を潜在的に促進する追い風の要因も存在する。途上国や国際関係に対する一般市民の関心の増大や、地域社会におけるNGOとの連携の可能性や教育分野におけるNGOと教育機関とのつながりも広がっている。このようなプラスの要因を最大限に活用しながら、NGOが日本国内でより活発に活動できる基盤を作るためには、従来の枠組みを超えた抜本的な取り組みが必要である。NGOセクター強化のために取り組むべきテーマとして以下の4点に焦点を絞って提言する。
 最初にとりあげるのは個別のNGOのマネジメントのあり方である。従来、途上国での活動のみに目がいきがちで、多くのNGOはマネジメントやマーケティングについて専門的な取り組みを必ずしも行ってこなかった。市民からの幅広い支援を得るとともに、一定の活動資金を得ることで組織の基盤強化を図るためにはマネジメントの視点は欠かせない。NGOのマネジメントの強化について最後に具体的な提言を行う。
 二番目はNGOと地域社会との連携の強化である。大都市ばかりでなく中小の都市でも国際協力を行うNGOが活動を始めている。また従来、地域社会で国際化を担ってきた自治体や国際交流協会も国際協力に携わり始めている。地域社会に根ざすことが今後のNGOの発展の一方向と考えられ、そのための方策を提言する。
 三番目はNGOへの政府の支援のあり方である。政府および政府関連機関とNGOとのダイアローグが行われ、次第に政府からNGOに対する支援のメニューも増加している。しかし、NGOが持てる十分な力を発揮するにはより一層の改善が必要である。
 最後に、NGOへの市民からの資金の流入についての提言である。日本のNGOの脆弱さのひとつは、NGOに対して一般市民の寄付や財政的な支援の基盤が極めて弱いことがある。その解決策として、公益信託制度を活用し、既存の公益信託であるアジアコミュニティトラストを拡大、発展させ、NGOへの活動資金の包括的なリソースとしようというものである。
 NGOの抱える課題の背景には、日本社会のシビル・ソサエティの基盤の脆弱さが根底に潜んでいる。NGOの強化は一長一短にできるものではないが、NGOの役割、可能性を探求し、社会に根づかせるたゆまない継続的な努力が必要である。
 

* ハンガリーの1%法とは
 1996年にハンガリーで成立した法で、納税者は前年に収めた所得税の1%を自らが選ぶ非営利組織に振り向けることが可能となる。個人の所得を減らすことなく、すでに納めた税金から一定割合を自己の意思によって選択的に支出先を決められる点で極めてユニークな法である。
 所得税の1%を供与されることが可能な組織は(1)非政府の組織(NGO)、(2)政府の組織、(3)政府もしくは自治体によって設立された公的財団、(4)政府による事業、(5)地域協議会によって運営されるローカルな文化機関、である。またそれぞれの組織は、3年以上にわたって登録された組織であること、公益活動(文化、教育、環境、社会福祉など)を行うこと、非政治団体であること等が要件となっている。納税者はこれに加え、さらにもう1%分を教会もしくは特定の政府事業の資金に指定することができる。







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