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(2)大学
1. 教育職員免許法における義務内容の遵守
−「発達・学習の過程」の担当者の調整の必要性−
 まず第一に、大学は教職科目の「発達・学習の過程」において障害児教育関連科目を必修として設定しなければならないという義務規定があることを認識しなければならない。今回の調査結果では、法令を遵守している大学は4分の1に留まっていた。
 理想的には、単独で必修化することが望まれるが、今回の結果をみると、早急にこのことを実現するのは難しいようである。事実、法令上も、「発達・学習の過程」の一部で障害児教育関係の内容を必修として扱えばよいことになっている。そこで、現実的には、いかにして「発達・学習の過程」において障害に関する内容を含めるようにするのかという点が問題となる。
 「発達・学習の過程」には、「発達心理学」、「児童心理学」、「学習心理学」等に代表されるような子どもの発達や学習や心理学関係の科目が多く設定されている。人間の発達・学習・心理を専門とする大学の教官・教員が、「障害」に関する知識を全く持っていないということは考えにくい。教育職員養成審議会が、教職科目の科目数が過多にならないように、「発達・学習の過程」の中に障害に関する内容を含めるように提言したのも、「発達・学習の過程」での対応が最も適切であるとの判断に基づいていると考えられる。「発達・学習の過程」の担当教官が、健常児と障害児との関係を踏まえながら、かつ、シラバスに明示するようにして、講義を行えば、障害に関する内容を扱うことは可能であろう。そのためには、「発達・学習の過程」の科目の担当教官の間で、誰が障害児教育関連の内容を重点的に取扱うのかを話し合っておくことが重要となる。
 まず、「発達・学習の過程」に必修科目が設定されている場合は、その担当者が障害児教育に関する内容を含めるように見直し行うことが最も現実的な対応策となろう。
 一方、すべての科目が選択である場合は、学生がどのような選択を行っても、必ず、障害に関する内容を学習できるようにしなければならない。たとえば、3科目の中から2科目を選択する場合は少なくとも2科目、4科目の中から2科目を選択する場合は少なくとも3科目は、障害に関する内容を含んでいなければならないことになる。このように、どの科目で障害児教育に関する内容を取り扱うかを担当教員の間で調整する必要がある。
 
2. 1年次における障害児教育関連科目の設定
 今回の調査結果では、障害児教育関連科目の対象学年は、2年→3年→1年→4年の順に多かった。しかし、第4章の受講生の調査結果では、学生の多くは1年次の履修を適当と考えていた。また、その理由としては「早くから学習したいから」を挙げていた。確かに、広い知識を得た上で障害に関する科目を受講するのが良いとの見解もあるが、学生のニーズとしては早期の設定にあるといえる。特に、介護等体験を1年次で実施する学生も多いことを考えると、障害児関連科目の設定を1年次とすることが望ましいといえよう。
 また、大学側の障害児教育関連科目を設定できない理由として、「専門科目を重視すると時間がない」とする回答がみられた。学年が進むと、専門的な科目への比重が高まると思われるが、教養的な内容の科目が多い1年次で、障害児教育関連科目の設定を検討すれば、時間割上の困難さが減じることが考えられる。障害児教育関連科目の低学年での設定を提言したい。
 
3. 介護等体験の事前指導と教職科目における障害児教育関連科目の連接
 文部科学省に対する提言でも指摘したが、大学側も主体的に事前指導の質的・量的な充実、特に、カリキュラム上への明確な位置づけを検討する必要がある。今回の調査でも、独自に介護等体験の事前指導に関わる授業を必修として設定している、又は設定する予定であるとする大学もみられた。介護等体験では、実際に障害児・者と関わる場面も多いことが想定されるので、この種の科目ではこの点を踏まえた指導内容が必要となろう。点字、アイマスク、車椅子、松葉杖等の疑似体験を取り入れた講義の有効性が、学生から指摘されており、これらの内容を取り入れることが効果があると思われる。
 各々の教官が自分の専門とする科目の必要性を考えていると思うが、「介護等体験を実施しなければ、教員免許状が取得できない」という事実を明確に認識し、大学全体として、介護等体験の事前指導と障害児教育関連科目の設定を関連づけて検討すべきである。
 
4. 卒業要件単位としての教職科目の認定
 障害児教育関連科目を設定していない大学の理由として、「カリキュラム上設定が困難である」とする回答が多かった。この点をさらに詳しく調べたところ「教職科目が卒業単位として認定されていないので、科目数が過多になってしまう」とするものがみられた。教職科目の単位を卒業要件に含めるか否かについては大学側に委ねられている事項である。時間的に障害児教育関連科目の設定が困難であるという大学は、教職科目と卒業要件単位との関連を見直し、教職科目を卒業要件単位として認める方向で、障害児教育関連科目の設定を検討してみる必要もあろう。
 
5. 単位互換制度の活用
 障害児教育関連科目を設定できない理由として、「担当教官がいない」、「非常勤講師を雇用する予算がない」を挙げる大学がみられた。
 大学設置基準第28条は、「大学は、教育上有益と認めるときは、学生が大学の定めるところにより他の大学又は短期大学において履修した授業科目について修得した単位を、60単位を越えない範囲で当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことができる」とし、大学間の単位互換について規定している。実施に際しては、大学間で、授業科目、単位数、単位認定方法、等の取扱いなどを定めた単位互換協定を結ぶ必要がある。予算も含めた人的な問題や、カリキュラムの時間上の制約のために、障害児教育関連科目を設定できていない大学は、「発達・学習の過程」の中に障害児教育関連科目を必修として設定している大学(できれば近接する大学)との間で、単位互換制度の活用を検討してみるのもよいと思われる。今回の調査でも、他大学と協定していたり、平成16年度より導入するという大学もみられている。大学の姿勢次第で、十分可能な方策であると思われる。
 
4. 今後の課題
 今回の研究で、各大学の教職科目における障害児教育関連科目の設定状況は十分ではないことが明らかにされた。おそらく、今回回答のなかった大学は、回答のあった大学と同様か、叉はそれ以上に取り組みが遅れていることが予想される。回答のなかった大学を抽出して、追跡調査を行うなどの追加の研究が必要であろう。
 また、文部科学省と大学の双方に対して、介護等体験と教職科目における障害児教育関連科目を関連づけることが有効であることを提言した。しかし、本研究では、介護等体験を各大学がどのようなかたちで実施しているのかについては明らかにしていない。今後は、介護等体験の実施状況、中でも事前指導の実態を把握し、その結果と本研究の成果を総合して、大学カリキュラムにおける障害児者教育関連科目の設定のあり方を検討する必要があろう。







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