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パネルディスカッション
アニメが育む人間力
 東京財団は、日本の良さをマンガアニメでわかりやすく世界に伝えたい。そういう願いから、この数年間、多くの事業を手がけてきた。今年度はUCLAでマンガアニメ講座を開き、シンガポールではアジアアニメコンファレンスに日本代表団を送り、日本では大学にマンガアニメ学科を作ろうというマンガアニメ学科設立セミナーを開催した。
 日本の発展のためには、創造力が漲る感性豊かな人材が必要になっていく。そのような視点から今回のシンポジウムのテーマを選択した。
 韓国から韓国アニメーション高校校長金周榮氏、ソウルアニメーションセンター本部長方重氏、韓国マンガアニメ学会会長孫基煥氏、日本からは電子学園理事大久保高文氏、東映アニメーション製作部製作管理室長有迫俊彦氏の5名のパネラーにお越しいただき、それぞれの特徴や目標、そして日韓の今後の発展的な交流をお聞きした。
 
韓国アニメーション高校校長 金 周榮氏
 1990年代にはじめた韓国映像文化産業育成策の成果として、韓国国内初の公立韓国アニメーション高校が2000年に開校した。わが校の特徴は、マンガ制作、アニメーション、映像演出、コンピュータゲームの4専攻にそれぞれ25名の生徒が少数精鋭で能力を磨いている。教員は、産業界からも招き、実践教育をモットーにしている。全寮制のわが校は、韓国国内から多くの志願者が受験し、競争率10倍以上の難関校としても有名。
 生徒の作品は、韓国国内のみならず、海外のアニメーションフェアでも評価され表彰者が数名出ている。卒業生200名の進路は、国内海外への進学、韓国国内での就職で分類され、留学先の希望は、日本、アメリカ、フランス、カナダの順。
 今後も、夢をかなえる高校として、人材育成に邁進していきたい。
 
ソウルアニメーションセンター本部長 方 重
 ソウルアニメーションセンターは、1999年ソウル市がこの産業を支援、育成、そして専門人材養成のために設立した非営利機関である。わが国のマンガアニメ産業は情報社会の核心領域として21世紀を導いていく付加価値の高い基盤産業である。
 設立5年目を迎えた当センターは、国内外のマンガアニメ産業の競争力を高めるため、マンガ図書館、創作活動のための漫画家・アニメーター養成機関、マーケティング支援機関、専門家養成機関、イベント事務局などハード面を充実させ、多種多様な人材育成に力を注いできた。その結果、海外市場も開拓できるようになってきた。
 また、市民が利用できる文化施設として年々利用客も増加している。しかし、現在の施設規模や設備は、利用者の欲求を十分満足できるところまで達していないし、コンテンツ不足も問題視されている。まだまだ、未熟な課題が山積している。
 
 
 ゆえに創作活動への支援、事業助成は、産業界の多様な要求に応えるにも、一層の努力が必要である。
 
韓国マンガアニメ学会会長 孫 基煥氏
 日本の劇場用アニメーション公開を目前にし、技術革新に伴う産業構造の急激な変化などにより、韓国アニメーションは、巨大な変化の波が押し寄せている激動の時期を迎えている。
 アニメーション教育部門は、どの国にも見られないほどのスピードで発展してきた。1990年に国立公州短期大学で韓国初のマンガ芸術科が新設されて以来、14年間でマンガアニメの専攻まで入れると140ヶ所を越えている。韓国の30%の大学で学生(約6600人)が学ぶほど、驚異的な成長をしている。彼らが韓国のアニメーション界のニューゼネレーションとして、国際力を兼ね備えた人材になっていくと信じて疑わない。
 しかし、現在、韓国のアニメーション産業の比重は、映像輸出が70〜80%を占め、国内で制作された劇場用のアニメーション興行はほとんど失敗している。
 創作と企画能力がまだまだ不備であったのも原因だが、それよりもわが国は日本と違いアニメーションに対する社会的認識が低いようにも感じる。人材を活用しきれず、有能な人材が周辺産業に吸収されてしまうことが一因になっている。
 今後はこのような状況を再度認識し、さらに適切かつ熟慮した計画のもとに、自由で独創的な教育風土を醸成できる教育システムの開発は急務である。
 
 
 
電子学園理事 大久保 高文氏
 1974年に、技術者養成をめざして開校した専門学校が当校。テレビ、ラジオ界の技術教育からコンピュータ教育と幅広い通信技術者を育成してきた。
 アニメーション教育をはじめて25年になる。この学科ができた背景は、学生たちが自分たちを表現できるアニメーションを勉強したいといった自主性からであった。そして1980年代は、技術者が不足していることもあり、必然的にアニメーション学科ができた。現在、約10万人に及ぶ卒業生がエンターティメント産業で活躍し、人材を養成できていると自負している。
 アニメには、実写では表現できないことを作り出せる魅力がある。やる気に満ちた学生は、日本国内のみならず多くの留学生が入学している。韓国からはほとんどが大学を卒業し、さらに高度な技術を身に付けようと熱心にがんばっている158人の学生が学んでいる。
 学校にとって一番大切なのは学生の質だ。集まる学生がその学校の風土や文化を形成している。
 
東映アニメーション製作部製作管理室長 有迫 俊彦氏
 日本で初めてアニメ制作会社として設立されたわが社は、いままでテレビ用150本(約8300話)、劇場用で83作品を作ってきた。設立当時、とまっている絵では飽き足らないと感じていた人たちが、動く絵を作りたいといった本当に純心な気持ちでアニメを作りはじめた。そんなわが社も、社員が教師になって、即戦力になる人材育成をめざした学校を8年前に設立し、現在約1000名の卒業生を業界に送り出している。90%がアニメ産業界で活躍している。
 アニメーションは、単純な技術では作れない。第一にこんな作品を作りたい、やりたいという高い志がなければだめだ。作品は、製作する側の命が入り、感性を磨いた映像でなければ、見る側の心に響かない。私たちはこんな思いでアニメを作り、そして技術を磨いてきた。そんな歴史が日本のアニメ界を大きくしてきた。
 韓国のアニメ界も、国の後押しで短時間に急速な成長を遂げてきたが、情熱をもった人たちがいたからこそ、ここまできたことを忘れてはならない。
 日本のアニメと韓国のアニメが育ってきた歴史的背景には違いがあるが、それぞれの特徴が両国の差別化になり、互いに切磋琢磨できる。
 
韓国マンガアニメ学会会長 孫 基煥氏
 韓国が今悩んでいる創作力や企画力を高めるには、自国だけの情報・やり方ではだめだ。だから、東アジアのアニメを学ぶ学生が交流できるようになるようなことをしていきたい。東アジアの学生の作品交流、教育カリキュラムの公開、創作法や理論などの研究成果などを共有できる場をつくり、学生たちが異文化を体験しながら未来について語り合えれば、非常に有意義な結果を生み出すだろう。是非、東アジア学生ネットワークを形成していきたいと考えている。
 
韓国アニメーション高校校長 金 周榮氏
 日本のアニメ界やその人材を育成している高等教育機関に大変興味を持っている。
 日本のアニメが世界をリードできているのは、環境や風土によるところが大きい。日本は、小さいときからマンガやアニメを身近に接することができる。この環境がマンガアニメを巨大な産業に押し上げてきたのではないだろうか。年少時からマンガやアニメに触れることは、創造力や感性を磨きなど、いろいろな意味の教育効果があると感じていた。そんな日本に、アニメーションの専門学校がないのは不思議だし、是非作って欲しい。
 
ソウルアニメーションセンター本部長 方 重
 いま、わが国は現場で生きる即戦力の人材が不可欠だ。そのために、教育を受けてきた人たちの再教育をするシステムを当アニメーションセンターでは実施している。徐々にその効果が上がっている。自信をもって産業界に送り出せる人材を送り出せるようになってきた。
 
 
東映アニメーション製作部製作管理室長 有迫 俊彦氏
 現場で使える人材は、技術力だけがあってもだめ。大学や高校で教える常識や教養は大きな意味を持つし、これがなければ作品に幅がでてこない。さらに、アニメを鑑賞でき、評価できる力がなければ、作品力はつかない。そこに文化が育つのだ。
 韓国も同じはず。韓国のアニメは今後、日本の脅威になっていくだろう。
 
電子学園理事 大久保 高文氏
 韓国の多くの大学にアニメ学科があるが、実は日本にもたくさんの専門学校でアニメやマンガを学べる。そして、最近では、メディアコミュニケーションのような学科が増え、アニメーションを勉強できるようになってきた。アニメーションは文化、言語を越えたコミュニケーションができるすばらしいツールでもある。
 
 
質問1 日本ではヒットしなかった作品が最近アメリカで反響があったが、このようなことが今後もあるか。]
東映アニメーション製作部製作管理室長 有迫 俊彦氏
 当然ある。東映は、特に北米進出に力を入れ始めている。日本用に作る作品だけでなく、ターゲット先の国にあう新しい作品を作ることも重要なマーケティング戦略。そして、アジア圏でもそのような戦略や共同制作があってもいいと思う。
 
質問2 韓国アニメーション高校の入試選抜方法は。チームティーチングとはどのようなシステムか。]
韓国アニメーション高校校長 金 周榮氏
 入試は、中学の成績(40%)と実技(60%)で選択している。マンガ専攻は、一コママンガと四コママンガを描かせ、アニメーション専攻はイメージデッサンが選考科目になっている。チームティーチングは、生徒1人に先生が2人つき、チームで作品を作り、競い合うシステムで非常に効果がある。
 
 韓国のパワーとやる気は凄い。3人のパネリストの情熱に感心した。
 また、日本がなぜアニメ立国になったか、それは大久保氏と有迫氏の発言でよく理解できた。つくり手の自己実現欲求が大きな要素であったこと、見る側の眼が高度な作品を望む背景があったことなど、真摯に受け止めることができた。
 長い歴史で積み上げてきた日本と、国のバックアップのもとにアニメ産業を育成しようとしている韓国。この両国が今後交流していくことで、また新しい文化が形成されていくのではないかという期待でいっぱいになった。
 アニメは不思議に人をピュアな心にしてしまう。
 このシンポジウムがアニメを通じて日韓の真のコミュニケーションの始まりになればと祈りたい。そして来年の日韓交流記念年度に先駆け、このようなシンポジウムを開くことができたことは大変意義深いことと感じた。
 お忙しい中、訪日いただいた金先生、方本部長、孫教授、通訳をご担当いただいた高教授、そして貴重な時間を割いていただいた大久保先生、有迫さんに感謝とお礼を申し上げたい。
 
■ソウルアニメーションセンター
 1999年5月ソウル市中区礼葬洞南山北側のふもとにオープンしたアニメーションセンターはソウル市が国内市場を基準に売り上げ額が1兆5000億ウォンを上回るほど急成長した漫画およびアニメーション分野を育成するため造られた。
 ソウルアニメーションセンターはソウル産業振興財団傘下団体として総面積約8百坪の4階の空間に映像館、展示室、共用機器室、情報室(映像情報室、図書情報室)教育研修室および講義室などを備えた現代式複合建物でソウルを中心としたアニメーション産業の実質的拡張と情報の中心機能を逐行するため設立された。ソウル市が本格的にこの作業に取り組んだのは96年からで、アニメーション関連産業の育成とアニメーション関連各種資料を収集、データーベース化し情報センターとしての機能を遂行している。
 
○センターの主な機能
・国際アニメーション情報の総括的集積
・アニメーション作品の周期的な上映
・差別的な企画展示場運営
・共用機器のレンタルおよび管理
・創業保育室の運営とアニメーション短編映画祭開催
・アニメーション専門教育プログラム開発と適用
・産学協同プロジェクト進行
 
■主なアニメーション関係フェスティバル
・SICAF(International Cartoon & Animation Festival)
・PISAF(Puncheon International Student Animation Festival)
・プーチョンマンガ大会
・YMCA全国マンガ大会







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