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欧米と日本、その人間観の違い
 次に、人間に対する見方、考え方、つまり人間観を採り上げます。欧米では「人間は神の栄光を現す存在であり、人間の活動結果は最終的に神によって審判される」という理想主義的、第三者評価主義的な人間観です。一方、日本は人間本位の考え方です。その上、人間は変わりやすくはかないものという無常観、生死は繰り返される中で人為はむなしいものであるという輪廻観、現実を肯定して他人を許して生きようという共生観があります。
 その結果、日本のマンガは次の三点がアメリカと大きく異なっています。
(1)自由な着想で始まって、自由な着想で終わることができる。ハッピーエンドとは限らないし、成功や勝利がハッピーとは限らない。
(2)老病苦死という、文明がコントロールできない人間の醜いありさまを排除しない。むしろ、ありのままに描くことができる。
(3)肉体的な勝利、物質的な達成感よりも、精神世界における深化や向上が結論になることが多い。
 特に、集団行動の成果が採り上げられる。ちなみに、日本で一番売れているマンガ週刊誌『少年ジャンプ』の編集精神は、友情・努力・勝利です(六五〇万部/週を記録した。二〇〇三年からアメリカでも発売開始)。
 日本マンガとアメリカマンガの違いは、日本とアメリカの精神の違いから生まれてきたものです。日本社会は、過去五十年間どこの国とも戦争をしていない唯一の大国であることからもわかるように、極めて平和な社会です。日本は今まで外国の侵略を受けていませんから、日本人は外国からの強制を受けずに、自分の好きな外国文化を自分の意思で取り入れて咀嚼し、日本文化を内生的にかつ創造的に育んできました。
 こうした文化創造の結果、日本精神は人間にとっての現実をそのまま素直に受け入れ、言葉による争いを防ぐため言葉にすべき部分とすべきでない部分を分別し、すべての人々を「共生する人間」として認め合うことを特徴としています。日本のマンガ・アニメには日本精神の特徴がよく表れていますから、それで世界の人々に刺激を与えているのでしょう。
 マンガ・アニメと日本精神の特徴を総括するとこう言えると思います。
(1)歴史が古い。そして千四百年前から絵を描いてきた。
(2)主体的摂取。そして自己の興味と意思で、誰でも絵を描いてきた。
(3)世界の最先端文明・文化、世界中のあらゆる文明・文化の良いところを偏ることなく採り入れて、何のタブーもなく何でも自由に絵を描いてきた。
(4)共存原理への到達と実行。自己と他人のそれぞれを絶対的存在と認めた究極の個人主義で、自分のために自分の印象を絵に描いてきた。
 
 今日現在、日本のマンガ・アニメが急速に世界中に広がっています。それに込められている日本精神が国境の外にどんどん広がっています。
 一八二二年から一八三一年までの間に、へーゲルはベルリン大学で歴史について名講義を五回行いました。のちに『歴史哲学講義』という本にまとめられましたが、その内容は精神から観た世界です。「ギリシャ、ローマは、法律、思想、生活文化を輸出することで、国境の外に“ギリシャ・ローマ圏”を持っていた」というものですが、それと同じことを日本のマンガ・アニメに感じています。
 アメリカも国境の外に精神文化圏を持ち、それをさらに発展させたいと思っていると思いますが、日本のマンガ・アニメを吸収することはその大きな助けになるはずです。







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