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モーガン邸取得にともなう募金のお願い
 
 
 財団法人日本ナショナルトラストでは、このたび、貴重な歴史・文化遺産であるモーガン邸を皆様からの募金により取得し、保護資産として末永く、保存・活用することを目的に第二次文化財取得保護計画を開始することとなりました。
 モーガン邸は、フラー社の主任技師として旧丸ビル・日本郵船ビルなどの建設に携わったのち日本に永住し、東京や横浜を中心に多くの優れた建造物の設計を手がけたアメリカ人建築家J.H.モーガンの自邸です。遠く相模湾と富士山を望む藤沢市郊外の丘陵に昭和6年頃に建てられました。広大な2000坪に及ぶ敷地内には、スパニッシュ様式の建物や西洋式庭園などが今も当時のまま奇蹟的に残されています。
 今日、全国各地で開発などにより歴史的邸宅等が急激にその姿を消しつつあります。湘南地区でも例外ではなく、近年、特にこのような状況が顕著になっています。モーガン邸も敷地を細分化して宅地として分譲される計画が進行していました。ところが豊かな緑に囲まれ、歴史を育んできたモーガン邸を地域の宝物として何とか残したいとする「旧モーガン邸を守る会」の市民運動が力を発揮し、モーガン邸の大切さを広く周知するとともに多くの賛同を得ました。また、この幅広い活動は、藤沢市や財団法人日本ナショナルトラストが保存に立ち上がる大きな原動力となりました。そしてついに三者はモーガン邸をわが国のかけがえのない歴史的遺産として保存することになりました。
 現在、モーガン邸は株式会社整理回収機構の管理下にありますが、同社から保存に向けての多大なご支援とご協力をいただき、財団法人日本ナショナルトラストでは、かけがえのないわが国の貴重な歴史的遺産として保護対象に認定し、募金による取得保存をめざすことになりました。取得後は、調査や修復事業をおこない、広く一般公開いたします。
 皆様の募金を心よりお待ち申し上げておりますので、よろしくお願いいたします。
 
財団法人日本ナショナルトラスト
会長 杉浦 喬也
 
南立面復元図−J.H.モーガン自邸実測調査報告書より転載
 
守ろう、旧モーガン邸
川村 恒明・元文化庁長官
 多くの人々の熱い思い・地道な努力と、藤沢市の深い理解に支えられて、ようやく旧モーガン邸の保存活用に向けて、大きな一歩が踏み出されることになりました。
 旧モーガン邸を守ることは、単に古い、珍しい建物を残すということだけではありません。自分たちの住む街の歴史と文化を市民の目線で見なおし、豊かな自然と調和した新しい街づくりを目指すことでもあるのです。保存が順調に進めば、この素晴らしい歴史遺産は、市民が憩い、交流し、そして創造活動の場として公開され、新しい生命をもつこととなるでしょう。
 これから始まる募金活動には、旧モーガン邸を本当に市民のものとすることができるための成否がかかっています。できるだけ多くの方々の暖かいご理解とご支援を心からお願いします。
 
いまこそ自分の足跡をふり返ってみよう
小池 滋・英文学者
 世の中がバブルとやらに浮かれて、前途はいつまでも右肩上がりと思い込んでいた頃、文化遺産を守ろうとか、過去の大切なものを捨てないで保存しようとか言われても、一人ひとりの個人には、あまりピンと感じることがなかった。オカミ―つまり国とか自治体とか―とか大会社とかお金のあり余っている人たちにやって貰えばいいんだ、と思っていました。
 いまやバブルははじけてお先真っ暗の時代になってしまった。オカミも大会社もお金のやりくりに四苦八苦。だからわたしたち一人ひとりが大樹に頼りっぱなしの甘い考えを捨てて、僅かな金でもいいから身ゼニを切らなくてはいけない。金が無理なら労力サービスや知恵を絞ることに時間を提供するよう努力しよう。ひとごとではなく。
 過去の遺産を守り、自分たちの足跡をふり返ってみるには、いまこそ絶好のチャンスと言うべきだろう。
 
モーガン邸を残そう
平井 聖・昭和女子大学学長
 モーガンさんは、東京駅の真正面にあった丸ビルを建てるために、アメリカから日本に来ました。大正年間のことです。丸ビルは、日本のオフィスビルの象徴でしたが、数年前に取り壊され、姿を消しました。モーガンさんは丸ビルが完成した後も日本にとどまり、横浜で建築設計の仕事を続けました。そのモーガンさんが自宅として建てたのが、藤沢市大鋸にある旧モーガン邸です。モーガン邸のインテリアは、モーガンさんの日本建築に対する理解の深さを物語る美しいデザインです。建具の一部が後の住人によって取り替えられていますが、写真などで元のデザインがわかりますので、復元することが出来ます。この優れた建築を、皆さんと協力して、残していきたいと思います。
 
 46歳の時来日したJ.H.モーガンは、日本女性石井たまのさんと結婚し、東京・大森の日本家屋に住んでいましたが1931年(昭和6年)ごろ、藤沢市大鋸に洋館を建てて移りました。住み始めたのは1933年(昭和8年)ごろからのようです。
 6,600m2ものモーガン邸の敷地は、藤沢市、横浜市、鎌倉市の境に近く、南斜面の小高い丘のうえにあり、富士山、丹沢山系、江ノ島が浮かぶ相模湾の眺めがすばらしかったようです。
 
創建当時のモーガン自邸
 
 建物は特別に焼かせたオレンジ色の瓦屋根の瀟洒な平屋建てで、日本を愛し、日本の文化・生活様式にも深い関心と認識を持っていたモーガンが、日本建築の特徴を西洋館に取り入れて創ったもので、建築史的にも文化史的にも価値の高いものとなっています。また、創建時の姿や間取り、ディテールがほぼ完全に残っているので、モーガンの建築を伝える文化財的価値も大変高い建物です。
 モーガン邸は、湘南・相模湾一帯に分布する歴史的建造物、保養別荘・住宅群の中で、昭和前期の優れた作品であり、藤沢市内では「旧近藤邸」(遠藤新設計)、「グリーンゴルフクラブハウス」(A.レーモンド設計)と並ぶ歴史的建造物であると専門家によって位置づけられています。
 
■1階平面復元図
―J.H.モーガン自邸実測調査報告書より転載
(拡大画面:105KB)
 
■配置図
―J.H.モーガン自邸実測調査報告書より転載
(拡大画面:140KB)
 
■建築概要
所在地 神奈川県藤沢市大鋸
設計年 昭和6年
構造 木造瓦葺平屋建寄棟造 一部塔屋
(給水塔)付 半地下RC壁構造
規模 敷地面積 6,600m2
建築面積 本棟 201.46m2
延床面積 本棟 284.27m2
設計者 J.H.モーガン
施工者 不明







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