ミャンマー(Union of Myanmar)
(1)一般事情
1. 面積:68万km2(日本の約1.8倍)
2. 人口:48.1百万人(1999年度推定)
3. 首都:ヤンゴン
4. 人種:ビルマ族(約70%)、その他多くの少数民族
5. 言語:ミャンマー語
6. 宗教:仏教(90%)、キリスト教、回教等
7. 国祭日:1月4日独立記念日
8. 略史:諸部族割拠時代を経て11世紀半ば頃に最初のビルマ族による統一王朝(パガン王朝、1044年〜1287年)が成立。その後タウングー王朝、コンバウン王朝等を経て、1886年に英領インドに編入され1948年1月4日に独立。
9. 内政
(1)1988年、全国的な民主化要求デモにより26年間続いた社会主義政権が崩壊したが、国軍がデモを鎮圧するとともに国家法秩序回復評議会(SLORC)を組織し政権を掌握した(97年、SLORCは国家平和開発評議会(SPDC)に改組)。90年には総選挙が実施され、アウン・サン・スー・チー女史率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝。政府は民政移管のためには堅固な憲法が必要であるとして今日まで政権移譲を行っていない。
(2)政府は、89年から95年まで、スー・チー女史に対し国家防御法違反により自宅軟禁措置を課した。95年の自宅軟禁解除後、同女史と政府の対立が高まっていたが、2000年10月より、政府とスー・チー女史との間で直接対話が開始され、右対話開始後、政府は、拘束していた政治犯を本年8月までに350余名釈放するとともに、NLD支部38箇所の活動再開を認めたほか、本年5月にはスー・チー女史に対する行動制限措置を解除した。
10. 経済
1)主要産業:農業
2)実質GDP: 113億米ドル(2000年度推定)
3)一人当たりGDP: 300米ドル(99年推定)
4)経済成長率:5.0%(2000年度)
5)物価上昇率:4.3%(2000年推定)
6)失業率:約5.8%(2000年)
7)総貿易額(2000年):
(1)輸出:1,309百万米ドル
(2)輸入:2,355百万米ドル
8)主要貿易品目:
(1)輸出:農産物、林産物、水産物、鉱産物
(2)輸入:機械類、輸送・建築資材、工業原材料
9)主要貿易相手国(1999/2000年度):
(1)輸出:インド、中国、シンガポール、米国、タイ、香港、日本
(2)輸入:シンガポール、タイ、日本、中国、韓国、マレイシア
10)通貨:チャット(Kyat)
11)為替レート:1米ドル=6.6チャット(公定レート)
11. 経済概況
1962年以来農業を除く主要産業の国有化等社会主義経済政策を推進してきた。しかし閉鎖的経済政策等により外貨準備の枯渇、生産の停滞、対外債務の累積等経済困難が増大し、1987年12月には国連より後発開発途上国(LLDC)の認定を受けるに至った。88年9月に国軍が全権を掌握後、現政権は社会主義政策を放棄する旨発表すると共に、外資法の制定等経済開放政策を推進している。92年から95年まで経済は高い成長率で伸びてきたが、最近は非現実的な為替レートや硬直的な経済構造等が発展の障害となり、外貨不足が顕著となってきている。
12. わが国の政府開発援助
(1)ミャンマーは1948年に英連邦外の共和国として独立した。1962年に国軍がクーデターで全権を掌握したが、1988年ネ・ウィン体制下の一党支配による政治的開鎖性及び経済困難に対する不満を背景とした全国規模での民主化要求デモが勃発した。軍はこれを鎮圧するとともに、国家法秩序回復評議会(SLORC)を設置し、自らを暫定政権と位置付け、総選挙実施後の政権委譲を公約した。1990年5月に行われた総選挙の結果、スーチー女史率いる国民民主連盟(NLD)が8割以上の議席を獲得したが、SLORCは、選挙結果を無視して政権委譲を行わず、政権委譲までの手続きとして新憲法に盛り込む基本原案決定のための国民会議を断続的に開催している。スーチー女史は、1989年に国家防御法違反で自宅軟禁措置となったが、1995年の自宅軟禁解除後、支持者に対し政府批判の演説等を行ったため、政権側は1996年9月以降、自宅敷地外での政治活動を制限した。NLDは1995年11月国民会議をボイコットして以降、政府との対決的姿勢を次第に強め、1998年8月にNLDが1990年の総選挙の結果に基づく国会を独自に召集することを示唆したことを受け、政権側は国会議員を含むNLD関係者を大量に拘束し、両者の対立が強まった。その間、SLORCは1997年11月、汚職閣僚の排除、国軍人事の若返り、対外イメージ改善等を狙い国家平和開発評議会(SPOC)に改組し大幅な国軍幹部の人事異動を実施した。
外交面では、現政権成立後ASEAN諸国、中国等、近隣諸国との関係緊密化に努めており、これら諸国との間で要人交流及び経済交流が活発化してきている。ASEAN等の地域協力にも積極的であり、1996年7月にはASEAN地域フォーラム(ARF)に新規参加したのに続き、1997年7月には正式にASEANへの加盟を果たした。ASEAN各国は、ミャンマーに対し、内政不干渉を原則としつつも、経済面を中心とした交流を進めながら同国のミャンマーの人権状況改善や民主化を促していく「建設的関与政策」を推進している、1998年ASEAN外相会議の際に、内政事項であっても率直な意見交換を行うべきとする「柔軟関与政策」の是非が議論されたが、結局ASEANとしてこうした方針をとることは見送られた。
一方、欧米諸国はミャンマーの民主化・人権状況に強い懸念を表明し、米国はミャンマーへの自国企業による新規投資禁止措置、欧米諸国は政府高官等に対する査証発給制限等の措置をとっているが、欧州は2000年4月に従来の措置の延長に加え、人道援助拡大の検討といった制裁緩和措置をも盛り込んだ決議を採択した。こうした中、中国は政治、軍事、経済各面に亘り、ミャンマーとの交流を行っている。
国連は、1998年秋以降、ミャンマー情勢の改善に向けた働きかけを強めており、1999年10月にはデ・ソト事務次長補が国連事務総長の特使としてミャンマーを訪問し、キン・ニュン第一書記及びスーチー女史と会談したほか、2000年6月及び10月にはラザリ元国連総会議長が新たな特使としてミャンマーを訪問し、キン・ニュン第一書記及びスーチー女史と会談を行った。
(2)1962年以降、農業を除く主要産業の国有化等社会主義経済政策を急速に進めたが、その閉鎖的経済政策等により外貨準備の枯渇、生産の停滞、対外債務の累積等経済困難が増大し、87年12月には国連より後発開発途上属(LLDC)の認定を受けるまでに至った。
1988年9月に成立した現政権は、四半世紀にわたる社会主義経済政策等を放棄し、外資法の制定、輸出入業務の自由化、タイや中国等との国境貿易の合法化などの市場経済開放政策を推進した。更に、様々な経済関連法や諸制度の整備に努めるとともに、経済インフラの整備、民間活力の導入、外国投資の誘致を図り、特に1995年までの4年間のミャンマー経済は、順調な農業部門を背景に、年平均成長率7.5%を達成した。また、1996年度からの新経済5カ年計画においては年平均6%の成長を目標としている。しかし、1997年以降、主要輸出品である米の不作、インフラの未整備、外国投資の伸び悩み等により、外貨準備高の逼追が表面化した。更に1997年7月以降には、タイ・バーツの変動相場制移行と並行してチャットが短期間に急落したため、また、タイやマレイシアなどで働くミャンマー人労働者からの送金が減少したため、外貨証券(FEC)預金による外貨送金を月5万ドルに制限すると共に、不要不急の輸入に対する規制措置という緊急手段をとらざるを得ない状況にある。その結果1997年及び1998年の経済成長率はそれぞれ4.6%、5.0%となった。なお、ミャンマー政府は1999年の成長率は1.9%であったと発表している。
(3)我が国とミャンマーは、政府間のみならず国民各層における交流を通じ伝統的に友好開係にある。こうした伝統的な二国間関係を基本として、現政権に対し民主化及び人権状況の改善を促すべく粘り強く働きかけてきているが、最近では、1999年11月、マニラにおけるASEAN+日中韓首脳会合の機会に、小渕総理(当時)がタン・シュエ議長との間で15年振りとなる日・ミャンマー首脳会談を行い、民主化及び人権状況の改善につき直接働きかけを行った。我が国との貿易額は、1998年で、我が国からの輸出240百万ドル、我が国への輸入117百万ドルとなっている。ミャンマーにおける我が国企業の投資は、諸外国と比較して低調で1999年10月末時点での対ミャンマー投資の累積認可額は、約2.2億ドルで第9位、全体の3%に過ぎない。
(出典)外務省ホームページ
13. 貿易概況
貿易収支は慢性的な赤字が続いている上、外国投資、外国援助も低調で外貨事情は依然厳しい。外貨獲得・節約のための厳格な外国為替・貿易管理政策が民間輸出の低迷を招いている。2001年度の外国直接投資は91年度以来の低水準にとどまった。2002年5月に民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チー氏が1年7ヵ月ぶりに自宅軟禁から解放され、今後経済にも好影響を与えることが期待されている。
2001年度(2001年4月〜2002年3月)は輸出入ともに増加した。輸出は前年同期比34.5%増の171億3,070万チャット、輸入は21.9%増の183億7,770万チャットとなった。慢性的な外貨不足のため、政府は引き続き厳しい輸入規制を行っているが、恒常的な輸入超過状態に目立った改善はみられなかった。IMFによると、2002年1月の外貨準備高は4億1,860万ドル(輸入の1.8ヵ月分)で、外貨繰りは依然厳しい状況にある。輸出を品目別にみると、天然ガスが前年同期比282.4%増と大幅に増加、輸出全体の24.8%増を占め、外貨の稼ぎ頭となった。コメも豊作により263.2%増と大きく伸びた。ゴマは天候不順が響き、66.4%減と大幅に減少した。エビは数量ベースでは1万5,400トンで前年同期と同じだったが、国際価格の下落により金額ベースで13.3%減となった。輸出の国・地域別では、タイが天然ガス輸出の増加などにより前年同期比194.4%増加、前年度に続き最大の輸出先となった。2位はインドで、材木、豆類など一次産品を中心に36.6%増加した。輸入を品目別に見ると、消費財が前年同期比15.9%減少した半面、資本財、中間財はそれぞれ36.9%増、61.8%増と大幅に伸びた。これは、政府が外貨節約のため消費財輸入を抑制する一方、輸入代替品目の生産拡大に力を入れた事に伴い、機械設備、原料の輸入が増えた事が原因と推測される。
表1-(1)ミャンマーの主要品目別輸出入
(単位:100万チャット、%)
|
2000年度 |
2001年度 |
金額 |
金額 |
構成比 |
伸び率 |
輸出総額 |
12,736.0 |
17,130.7 |
100.0 |
34.5 |
コメ |
207.6 |
754.1 |
4.4 |
263.2 |
メイズ |
91.7 |
58.9 |
0.3 |
△35.8 |
マツペ |
654.9 |
684.0 |
4.0 |
4.4 |
緑豆 |
384.7 |
437.0 |
2.6 |
13.6 |
その他豆類 |
618.4 |
776.9 |
4.5 |
25.6 |
ゴマ |
119.2 |
40.1 |
0.2 |
△66.4 |
ゴム |
66.6 |
75.9 |
0.4 |
14.0 |
皮革 |
26.3 |
37.1 |
0.2 |
41.1 |
エビ |
598.3 |
518.6 |
3.0 |
△13.3 |
魚類 |
291.3 |
309.9 |
1.8 |
6.4 |
チーク |
650.9 |
1,422.5 |
8.3 |
118.5 |
堅木 |
151.8 |
457.6 |
2.7 |
201.4 |
合板 |
98.7 |
106.2 |
0.6 |
7.6 |
鉱物 |
323.8 |
275.9 |
1.6 |
△14.8 |
天然ガス |
1,110.5 |
4.247.1 |
24.8 |
282.4 |
その他 |
7,341.3 |
6,928.9 |
40.4 |
△5.6 |
輸入総額 |
15,073.1 |
18,377.7 |
100.0 |
21.9 |
資本財 |
4,060.6 |
5,557.8 |
30.2 |
36.9 |
中間財 |
4,579.8 |
7,410.0 |
40.3 |
61.8 |
消費財 |
6,432.7 |
5,409.9 |
29.4 |
△15.9 |
|
出典)JETRO投資貿易白書2002年(ミャンマー中央統計局(CSO))
輸入の国・地域別では、シンガポール、マレーシア、日本、韓国、中国の上位5カ国で輸入全体の70%以上を占める。なかでもマレーシアからの輸入が前年同期比206.6%増と大幅に増加したが、これは原油、パーム油などの増加によるものである。
2001年度は、輸出入とも国営セクターの伸びが大きく、民間セクターが伸び悩んだ。厳しい輸入規制の結果、民間セクターの輸入は前年同期比1.0%減となった半面、国営セクターの輸入は同113.8%増と大幅に増加した。このところ外貨獲得・節約を目的とした国営企業による輸入代替品や輸出品の生産強化の動きがあり、国営企業による生産設備、原料の輸入が増加した結果と推測できる。輸出も民間セクターが前年同期とほぼ同水準であった半面、国営セクターが同116.5%増と大幅に増加した。国営セクターの輸出増は、天然ガスや国家管理品目であるチークの輸出増などが寄与している。一方、輸出税(FOB価格の10%)の賦課、外貨送金の制限、有望な輸出産品(チーク、米、ゴマなど)の国営セクター独占など、政府の厳格な輸出入管理政策が民間の輪出を妨げている。近年輸出品として育ってきた縫製品については、政府は2001年夏、縫製品委託加工業者が得た外貨収入のうち、従業員への支払給与分を政府公設両替所で両替するよう義務付けた。公設両替所でのレートは1ドル=450チャットだが、実勢レート(2002年5月現在)は800チャット以上である。この差額が委託加工業者にとってのコスト負担となっており、委託加工業者に与えられている輸出税免除のメリットが相殺されている。2002年2月下旬以降、一部の外資系貿易業者に対する輸出許可遅延問題も発生している。外貨管理を一層強化するため、国営企業または地場企業の輸出を優先しているためではないかという憶測もある。
日本の通関統計によると、2001年の日本の対ミャンマー輸入は前年比14.5%減の1億250万ドルであった。品目別には、輸入全体の約半分を占める食料品が20.4%減の4,770万ドルとなり、このうちエビなどの魚介類が18.8%減少した。一次産品の輸入が減少する一方、繊維製品が48.4%増の830万ドルとなった。ミャンマーへの輸出は前年比4.5%減となった。品目別では、一般機械、輸送用機械、電気機器で全体の80%以上を占める。2001年度の日本からの対内直接投資は2件、470万ドルで、いずれも縫製品の生産案件であった。
〔注〕(1)年度は4月〜翌3月。(2)英国にはバージン諸島、バミューダ島を含む。
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