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6. 考察―船舶保守管理のポイント―
 中小型造船業が、船体・機関の保守を中心とした管理代行業務に進出するにあたり、検討すべき事項を抽出した結果、以下の項目について各社毎の対応が必要となるものと考えられる。
 
(1)船舶管理の経済評価
(1)管理経費の算定
 船舶管理を請け負う場合、提供する役務を事前に特定しておくことが後々のトラブルを回避する重要である。また提供する役務内容に伴い管理経費は変動する。従って丸抱えの契約による年間管理経費の算定は困難であり、次に示すような管理の作業が発生する都度タリフ化した経費を請求する形態が望ましく思われる。従って個々の造船所において適正なタリフの作成が重要になる。
○1年目・建造ヤードにおける保証工事への立ち会い
○2〜3年目・最初の中間検査実施
○5年目・最初の定期検査実施
○以下、中間・定期検査、その間の塗装入渠他
 
(2)経年変化に伴う経費の増加
 管理にコストを割いてこなかった船舶は経年変化による劣化が大きくなり、結果として大きな経費が発生しがちである。適正な管理コストとして、5年間で建造費の20%という数字を挙げる管理会社があるが、これを1つの目安として考えて良いと思われる。管理契約を締結しようとする船舶についてあらかじめ現状を把握しておくことが重要であり、既存の管理会社では船舶管理の契約締結前に1ヶ月程度、対象船舶の乗船調査を行ったうえで見極めを図るケースもある。
 いずれにしても、船舶は老朽化に伴い管理コストが増大するのは避けられず、またコスト上昇の度合いは船舶毎の諸事情により異なるので、年間契約の更新時には現状確認のうえで双方の合意が必要である。また、定期検査の行われる5年を1つの区切りととらえ、新造時から廃船までのライフサイクルも考慮しながら保守管理を行うのが今後の方向であると考えられる。
 
(2)リニューアル工事の提案
 船舶を良好な状態で長く使用するためには、定期的なリニューアルが有効と考えられる。より効率的な船舶運用を可能とする改造仕様案を提示することも今後管理会社に求められるものと思われる。船体の維持復旧、老朽化した部品・機器類の換装、新たな自動化推進等を含め、適切な仕様の策定は重要な課題である。
 
(3)資材等の手配・支給
 洋上の船舶とは常に緊密な情報交換を行う体制を整えることが必要であり、そのためのツールとして船舶搭載機関診断プログラムを用意した。これにより主機関、補機類の状況を把握し、必要に応じたメンテナンス内容の検討、必要資材・部品等の手配が行えるものと考える。また、資材の購入にあたっては、管理船舶の隻数増加に伴い価格交渉力が増すことが期待できる。
 資材等の支給については、最短の寄港地に配送する必要があるが、これには舶用機器メーカーとの連携が不可欠である。また、発注時点で配送先を特定できるよう運行計画との調整、本船現在位置の確認等が確実に行われるよう体制を整備する必要がある。
 また、従来からの船主支給品等も含め、部品類の在庫管理も重要である。ただし、管理する部品の点数が増えれば管理工数や在庫スペースが増大しコスト増加につながるので、前項のリニューアル時点で管理船舶の搭載機器類の標準化を図るなどして部品点数を減らすことも検討すべきである。
 
(4)船主・造船所へのメリット
 船主に対しては年間一括契約による安定した運航の確保、デイリーの管理により大規模なトラブルの回避、ひいてはオフハイヤの回避による生産性の向上と社内管理経費の削減、外注化による管理要員の運航部門への転用等が効果として考えられる。
 また、造船所にとっては、計画的な入渠による自社仕事量の確保と平準化が期待できる。ただし、年間契約といっても継続性のある契約でなければ、造船側にメリットはないのではないか。単年度契約のみでは年度ごとに発生する経費の山谷を補填することができないと考えられる。1例として、前述の5年間を1区切りとして、その間年度ごとにタリフを交渉決定するなどの方策が現実的と思われる。また、これらのメリットをいかにして船主にアピールするか、プレゼンテーションの重要性が増すことと思われる。
 
(2)管理手法(技能・ノウハウ)
 これらについては、宇部興産海運(株)による船舶管理テキストに詳述されているので、ここでは項目を列挙し、一部について考察する。
(1)洋上海務
 洋上における運航・保守の実態、必要となる技能
(2)陸上支援
 船舶との情報交換体制、必要資材把握、自社または入港先への配送手配
 管理記録整備保管
(3)情報通信
 船−陸間通信体制確立・運用、遠隔診断カルテ標準フォーム
(4)日常メンテ
 日常における管理業務の中心は、各機器類の運転記録・整備記録の収集保管であるが、これらをルーチン化して工数を低減することが望ましい。
 主機関の管理ツールとして次のようなものがあるが、主機関情報以外に船用品請求等の管理情報を含めて船−陸間で通信・記録を行う機能等も付加されている。内航船の場合はアブストラクトログレポート、船からの航海プラン及び主機データレポート並びに船用品請求情報、位置・航跡地図表示、ISM管理文書やりとり等の機能が必要と思われる。
○(株)エス・イー・工一創研
○三菱重工業(株)神戸造船所ディーゼル部「DOCTORDIESEL」
○三井造船(株)機械・システム事業本部
○(株)アイ・エイチ・アイ・マリン等3社「ADMAX」
(5)遠隔診断カルテ標準フォーム
 部会において、船舶の運航に特に重要な主機関・補機類の不具合時に状況を診断把握し・陸上の造船所や管理会社に情報を伝達し・初期対応の迅速化・保守管理の効率化を図るための簡単なツールとして、「遠隔診断カルテ標準フォーム」を作成した。
 これは、過去のケーススタディを基に機関不具合時の複数の症状から故障原因を推定するマトリクスを作成し、それに当てはめることにより緊急診断を行うとともに、それに関係する機関の諸数値、運転状況等を記録し、簡単な書式で出力するものであり、電子メールの添付ファイルまたはファクス送信により簡易かつ安価に陸上との必要充分な情報交換を行うことを可能にしている。
 ディーゼル機関の変遷は、大正8年に国産ディーゼルエンジン第1号が試運転され、その後、過給機,高強度材料及び高軸受け材の開発により目覚ましい進歩を遂げてきた。
 高出力、高性能、軽量化に至っており開発当初と比較すると1馬力あたり67kgであったものが現在は2.32kgとなっている。また、シリンダ内最高圧力も、200Kgf/cm2を超えてきており更にこの傾向は進むものと思われる。
機関の故障
 機関の故障は出力のアップとともに同じ部位の故障、改善の繰り返しにより進化をとげてきている。さすがに今日は有限要素法技術のとり入れによる計算技術の向上で初期の設計的な問題による故障は少なくなってきている。
 故障の部位からは下記の4項の廻りに発生が多く、磨耗、腐食及び振動等が引き金になっていることが多い。
○シリンダヘッド廻り
○ピストン廻り
○ライナ廻り
○軸受け廻り
予防診断
 機関の故障に至る前に早い時期での診断が重要であることはいうまでもなく、できることなら今回完成された「機関診断カルテ」を必要としない維持管理ができていることが最も望ましいことであるが、ディーゼル機関については機関を構成する部品点数及び故障に至る形態や要素も極めて多種類となるため、経験的な判断が求められることも多い。
 その中で比較的初歩的な管理が行われていなく故障の誘発になっているものがある。
 下記の項目について注意することにより故障の予防に大きく役立つものと思われる。
○潤滑油の管理:機関の摺動部の磨耗、腐食防止のために定期分析を行い劣化度の確認
○冷却水の管理:海水、清水があるがラインの詰まりや異物の堆積の確認、清水では冷却水質及び腐食処理剤の維持管理。
○燃料油管理:購入、補給時の性状入手及び確認。
着火性(セタン価、CCAI)、硫黄、バナジュウム、ナトリウム、残炭、灰分、アスファルテン、アルミニュウム(Al)、シリコン(Si)確認。
 それぞれの許容値については各機関メーカーの提示によるが、上記の成分が混入することにより確実に機関側に影響をおよぼす。
 粗悪油の場合は最適燃焼に必要な機関入り口温度を燃料油の粘度により決定し管理。
○温度、圧力、音の管理:通常の機関状態との比較管理。
○腐食、磨耗管理:機関の解放整備時は開放の状況をよく見て記録、写真を残し前回と比較管理。
 以上の管理がうまく回転することになれば故障に至る前に予防保全が確実に実施できるものと思われる。
 「遠隔診断カルテ標準フォーム」は上記管理の補助として開発したものであり、このツールの活用によりより早く適切な診断に役立てていただき、大事に至る前に処置が下されることを期待する。
 「遠隔診断カルテ標準フォーム」は、当会ホームページから無償でダウンロードし、パソコンで活用できる体制を整備して、内航海運、機関メーカー、機関整備事業者等、各社に広く普及しているところである。
 
当会ホームページURL:http://www.cajs.or.jp/index.htm/







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