保育時評 もう一つの保育時間
斎藤由佳里
「わあ、いいにおいだね。今日はカレーライスかな」夕方六時になるころ、延長保育のために部屋を移動してくる子どもたちは作りたての食事のかおりにわくわくして会話が弾みます。
本園が「特別保育事業」として午後八時までの延長保育に取り組んだのは平成八年の四月でした。当時はまだ内容が理解されなかったこともあり、午後七時以降は子どもが一人しかいない日が続きました。通勤に時間がかかることや核家族化でベビーシッターさんに預ける二重保育を考慮して始めたのですが、職員も「本当に子どもにとって良いことをしているのだろうか」と疑問に思う毎日でした。「一家庭でも必要に迫られて目の前にいるのだから」と話し合い、寂しさを感じさせない内容を試行錯誤しました。
時代の流れとともに、延長保育を利用する家庭も増えてきました。「家族の団欒」を保育園が奪ってしまうのではなく、できない家庭のかわりに、また、育児の楽しさや大切なことを家庭に返してあげられるよう一つ一つの家庭とも向き合っていかなくてはいけないといつも感じています。時折、子どもの中に、普段は反抗的でもなぜか延長保育の時間になると心を開いて甘えてくる姿や「ぼく、延長保育のほうが好きなんだ」とつぶやく姿が見られます。日中の保育を反省しながらも「もう一つの保育時間」の意味を感じる瞬間です。一歳から六歳までの異年齢児の集団がいつのまにか絆を作り、兄弟のようにいたわったり時にはけんかをしたり、くつろぎながら過ごす時間を子どもたちは昼間と別に楽しんでいるようです。
長時間保育をすることで、子どもの育ちにどのような影響が出るのか、どのように工夫すればよいのか、今後の大きな課題ですが、延長保育の時間がかけがえのない経験やきっかけになるよう一人一人の子ども、一つ一つの家庭に目をかけ、手をかけていきたいと考えています。
さあ、四月。もうひとつの保育時間の中でも新しいメンバーが絆を作り始めます。
(札幌市・札幌北野保育園主任保育士)
――厚生労働省・会議――
平成十五年三月三日、雇用均等・児童家庭局の全国児童福祉主管課長会議が同省講堂で開催された。
少子化対策、総合的な母子家庭等自立支援対策の展開について、児童虐待防止対策についての重点事項や平成十五年度雇用均等・児童家庭局予算(案)についてなどのほか、各課より説明が行われた。ここでは、局長の挨拶と保育関係(本誌とじ込み付録に掲載)を中心にお知らせする。
全国児童福祉主管課長会議 岩田雇用均等・児童家庭局長挨拶(要旨)
平成十五年度は特に三つのことが重要と考えている。第一は保育所の待機児童の解消問題で、保育所だけでなくて、放課後児童クラブの問題と合わせてご検討いただくことが必要になる。これは少子化対策の柱であると同時に男女共同参画社会を作るうえで大変重要な課題であり、厚労省では本年度から毎年五万人の定員増を、平成十六年度までの三年間にわたって取り組んでいる。十六年度が終わったときに全国の待機児童が完全に解消できなくても、すべての地域でこの待機児童問題が大きく進展したと住民から評価をしていただけるような、そういう取り組みを各自治体にお願いしたい。
また、十五年度は保育所を巡る議論が大きくなりそうだ。一つは幼保一元化の問題で、これは規制改革の観点や地方分権の観点などから、またもう一つは運営費の国庫補助の一般財源化の問題である。厚労省としてもしっかり対応したいと考えている。
二点目は母子家庭対策になる。昨年関係の法律改正があり、従来の児童扶養手当等が中心の対策から、思い切って政策転換を図った。母子家庭の母の就労支援や子育てと仕事の両立への支援、養育費の確保対策を総合的に支援したい。国では基本方針を策定中で、三月中にはその基本方針がでるので、それを参考にして各都道府県、福祉事務所を設置しているすべての自治体で早い時期に母子家庭の自立促進のための総合的な計画をお作りいただきたい。
三点目は児童虐待防止対策で、児童虐待防止法は施行後三年後に法の見直しをすることになっており、今年の秋に三年目を迎えることになる。国会でも議論が始まっており、厚労省でも社会保障審議会の児童部会に昨年、児童虐待防止に関する専門委員会を設けて議論に入っている。児童虐待対策は、まず育児の密室化を防いだり、育児不安を取り除いて、ハイリスクの家庭についてどのような支援ができるか、そういった予防の段階から、早期発見、早期対応、そして問題が起こった後の子どものケアや親に対する指導、そういったものに一貫して取り組まなければ児童虐待対策にはならない。また、児童福祉が中心になるが、医療、保健、教育、警察などの関係機関や地域と連携できるかがポイントとなると思っている。地域のネットワークや連携のためのマニュアルも作っていただくようお願いしたい。
厚労省ではこの通常国会に「次世代育成支援対策推進法」と「児童福祉法改正」法案を提出する予定としている。三つの最重要点課題とあわせて、今後のご協力をお願いしたい。
岩田局長
中村総務課長
高井保育課長
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