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九州新幹線試乗記
 
財団法人 九州経済調査協会 情報研究部
大谷友男
 
 
 2月末に鹿児島へ出張した私が見たものは、至る所に「祝 九州新幹線開業」の幟がはためき、開業を間近に控え歓迎ムード一色に染まる街の姿であった。
 これまで在来線特急で博多から西鹿児島へ向かう場合、八代を出ると単線区間に入り、スピードも落ちた。八代から川内にかけては、不知火海や東シナ海の美しい車窓を眺めながらの旅となるが、2時間以上列車に揺られなければ鹿児島には行けなかったわけで、「八代から先が長い」と感じさせられたのも事実であった。それが今度の部分開業で一気の時間短縮をもたらすわけだから、鹿児島の人々が新幹線を待ち焦がれたのも当然だろう。そんな街に身をおいているうちに、子どもの頃に感じた旅行前日の高揚感に似た気持ちが自分の中にも湧いてきた。
 3月4日の試乗会に参加させていただく機会を得た私は、「夢が現実になる瞬間」を一足早く実感させてもらった。熊本を出た試乗会専用の臨時電車は、20分もすると上り線をまたぐようにしてポイントの上を通過し、新幹線乗り場へつながる専用線に入る。進行方向左手に全線開業までの九州新幹線の始発駅である新八代駅が徐々に迫ってくるのを見ながら電車はホームに滑り込む。すでに反対側のホームには、九州新幹線「つばめ」が待っている。在来線の「つばめ」(現「リレーつばめ」)は、グレーのボディで、客室内も照明を落とした大人の雰囲気が漂う列車だったが、新幹線「つばめ」のボディはそれとは対照的に鮮やかな白である。
 はやる気持ちを抑えて車内に入ると、デッキは茶系統の落ち着いた色合いで統一され、在来線「つばめ」で感じた大人のムードが漂うが、客室に入ると、天井、壁面、床に至るまで鮮やかな白で統一されている。そんな車内にまぶしさを感じたのは、新車だからというだけではなさそうだ。一方、シートは落ち着いた色合いで、青、緑、オレンジを基調とし、車両ごとに色が違う。シート背面やひじ掛けは木製、日よけのブラインドはすだれのようになっていて「侘び寂び」を感じる。
 
 
新八代駅での乗り換え
 
 ところで、在来線から九州新幹線に引き継がれた「つばめ」という列車名は、国鉄時代から名列車にのみ与えられる称号といわれるほど重みがあるという。JR九州が博多〜西鹿児島の特急に「つばめ」の名を使用する際には、JR各社にあいさつ回りをしたという逸話があるというし、プロ野球チームのヤクルトスワローズの「スワローズ」というチーム名は、前身である国鉄が当時の看板特急「つばめ」にちなんで命名したことからもその重みが伝わってくる。したがって、新幹線「つばめ」もそれだけ重みのある列車名を名乗るにふさわしい列車でなけれはならない。ところが、新幹線「つばめ」にはグレードの高い列車には不可欠なグリーン車が連結されていない。というのも新幹線「つばめ」にグリーン車は必要ないからである。普通、新幹線は在来線よりも車体幅が広い分、シートは3列+2列で配置されていて、2+2列シートは、グリーン車か「ひかりレールスター」の指定に限られるが、新幹線「つばめ」は、全車2+2列シートで足元も広々としており、自由席でもグリーン車並みのシートが味わえるからである。シート背面は一枚板で覆われているため、後ろから見ると固そうな印象を受けるが、座ってみるとクッションかきいているし、リクライニングしようとしたら思ったよりも角度がつく。グリーン料金を払わずにこんな賛沢ができるとは、さすが「つばめ」を名乗るだけはある。全車2+2列シートの新幹線は、秋田新幹線「こまち」や山形新幹線「つばさ」で経験したことがあるが、こちらは在来線規格のトンネルや橋の上を走らねばならないので、車体幅が狭く設計されている。したがって2+2列シートといっても「つばめ」のような広々とした感じはなかった。
 
新幹線「つばめ」の車内
 
 席につくかつかないかのうちに新幹線「つばめ」は新八代を出発し、ほどなくしてトンネルに入る。今回開業する新八代〜鹿児島中央間は、全区間の約7割がトンネルで、そのトンネルを出たり入ったりしている間に、新水俣、出水、川内とこれまで「遠い」と思っていた駅をあっという間に通過していく。出水付近では、市街地とその向こうに不知火海が広がる景色が見える。新幹線は高架を走るぶんアングルも高くなり、在来線では見ることのできなかったパノラマが展開される。九州新幹線の一番のビューポイントと思うが、もたもたしているとあっという間にトンネルに入ってしまうので気が抜けない。
 実際に乗車しての印象は、新幹線に乗ること自体初めてではないので、車窓の流れるスピードに驚くことはなかったが、新八代から鹿児島中央までの所要時間の短さには驚きを通り越して軽い戸惑いすら感じた。新八代を出てから34分しか経っていないのに、目の前には桜島の雄大な姿が広がるという現実は、頭では理解できても、「八代から鹿児島までは時間がかかる」という長い年月をかけて築き上げられた体内時計がついていけないのである。SF映画では宇宙船が「ワープ」を繰り返しながら、数万光年かなたの惑星に向かうシーンがあるが、九州新幹線も「トンネルに入った風に見せかけて、実はワープを繰り返しながら新水俣、出水、川内の駅を通過しているのではないか」と思わずにはいられなかった。
 3月13日からは、擬似ワープ体験を誰もが体験できるようになる。私の体内時計も徐々に新幹線モードへと変化していくことであろう。
 
新幹線つばめ
 
(拡大画面:199KB)
 
 
◎春がきました。もくれん、菜の花、さくら、町を歩いていると楽しいです。
 
◎国土交通省国内貨物課長の惟村様から、内航海運に関する寄稿をいただきました。
 内航の歴史と厳しい現状について、重々しさと軽妙さの入り混じった「なるほど」と納得するエッセーをいただいています。
 
◎日本銀行下関支店長の武藤様からメッセージが寄せられました。
 下関は「日本一」の宝庫とか。隣の市に住んでいる私も「ホー」と感心しました。
 
◎独立行政法人国際観光振興機構理事長の向山様から水墨画が寄せられました。自分の世界を絵で表現できる方は羨ましいですね。
 思わず眺め入る力作です。
 
◎春号は「下関市シリーズ」です。
 事務所の目の前にある(本当に関門海峡を連絡船で渡ってたったの5分)下関が、こんなに元気がよくて、見るもの聞くものがいっぱい詰まっている町だとは、「灯台もと暗し」でした。
 
○表紙は森田氏による春の「関門海峡」です。
 毎回、印象的な表紙と挿絵を描いてくださって感謝しています。
 
○「ブレイクタイム」は山口県下関市港湾局長の谷川様のちょっと不思議なエッセーです。
 楽しい夢を語っていただきました。
 
○「コラム」は(株)関釜フェリー スチュワーデス、お2人からの体験談です。今回初めて韓国の方が登場しました。さすが国際都市下関ですね。
 
○「九州地方整備局 港湾空港部 海と空のコーナー」は、九州地方整備局下関港湾事務所のご協力をいただきました。ありがとうございました。
 
○「運輸と観光」シリーズは、山口県下関市観光振興課の方が、下関市の観光に関する現状を説明してくださいました。下関は今、弾んでいますね。
 
◎インタビューは下関観光コンベンション協会会長の平尾様です。
 平尾様は70才。語るべきものをあふれるほど持っている、エネルギッシュでダンディな方でした。「下関のふく」への愛情がよく伝わってきました。
 
◎2月6日、長崎市で開催された「物流講演会」をお届けします。
 最近の経済情勢をウィットに富んだ、歯に衣を着せぬ語り口で語られました。思わず吹き出しながら、かつ唸った講演でした。
 
◎今年度初めて開催した「海事振興セミナー」の概要をお伝えします。北九州港を例とした国際港湾の発展方策についての、わかりやすいセミナーでした。
 
◎今号は第10回コロキアムの報告をいたします。
 公共交通機関のセキュリティは、ふだん意識しないけれど緊急度の高いトピックだと再認識させられました。
 
◎3月4日九州新幹線の試乗会がありました。その試乗の様子を(財)九州経済調査協会の大谷様が報告してくださっています。
 早く新幹線「つばめ」に乗って擬似ワープ体験をしたいですね。楽しみです。
 
◎今回の「離島紹介コーナー」は奄美群島です。以前取材で訪れた奄美大島の海の色、風の香りを思い出します。ゆっくりと過ごしたい島です。
 
( T・I )
 
 
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