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[4]利用促進は果たして可能か
 
 あと、路線性格と利用促進策に入っていきますが、私は3通りに分かれるかなと思っております。都市内、都市間、観光。これはライバルを比較してどういう性格かということで分類したものです。都市内はライバルである自動車が若干使いにくいので、なんとかやりようがあるかもしれません。都市間は、ライバルである自動車にそれより優位性を出すというのは、長距離になれば別ですけれども、中距離ぐらいですとしんどいなと。特に地方の都市間交通だとかなりしんどいということです。観光は、これは交通だけで頑張っても仕方がなく、観光地にいっぱい人が来ないとどうしようもない。これもマーケティング的な観点からは区別して考える。
 じゃあ利用促進をどうすればいいのかというのは(図11)、非常にシンプルな話で、一番は自動車を使わない人を増やしましょう、学生さんが増えるとか高齢者が増えるとか、それと出張者ですと車を持っていませんから、どうしても公共交通を使うわけです。それから2点目に、町なかにいろんな都市機能を集積させる、周りから町なかに入って来る、ここにマストランジットが発生するわけですから、公共交通に馴染みやすくなる。それから3点目に、自動車より便利にしましょう。4点目で、多少利用者利便性を高めましょうということなんですね。
 重さからみると、1点目から3点目までが根本原因で、利用者利便を高めようというのは対症療法ですね。
 で、交通事業者さんがどの部分を担えるかというと、4点目の部分なんですね。交通事業者さんが1点目から3点目までも考えるというのは無理なんです。これが交通の非常に厳しいところです。従いまして、地域と交通事業者さんが手をとりあって、同じテーブルで同じ向きで向かわなければいけないというのは、ここから出てくるわけです。事業者さんはあくまで民間企業でございますから、公益性の向上というのは企業目的ではないわけです。どこまで頑張るのかという話です。
 
図11 「根本原因」と「対処療法」
 
 あともうひとつ重要なのは、鉄道事業者さんは一部のマニアの方を除いては需要を創生できないということでございまして、要は、都市の活性化がないと交通の活性化というのはありえないんですね。都市にいっぱい人が来るとか、そういうことにならない限り利用者は増えない。地域の人口が増えない限り、利用者は増えないわけです。交通事業者さんに努力できる部分というのは、ある意味で限界がある。限界があるとすると、どうやって利用促進をするかというと、利用促進機能を外部化していかないと、トータルの戦略は描けないということです。
 今、熊本ではバスの統合の議論をされていると聞いておりますが、まさに利用促進を外部化していくということにはいいことではないかと認識しております。
 例えば利用促進というのは、町づくりとか、商業とかいろんなことを考えないといけない要素でございます。こういったところと、交通事業者さんと、自治体さんが連携してやっていきましょう、それから、バスの地域協議会とも連携してやっていきましょう。
 あるいは運輸局さんだけじゃなくて、地方整備局さんとかTMO(=タウンマネジメントオーガニゼーション。街づくり会社)とか経産省の方も同じような土俵で考えるといいんじゃないですか、商業だけでは成り立ちませんよね、ここに来る人の足というのもありますしね。こういう仕組みが作れるかどうかというのが利用促進の根本原因に対する処方箋を書くポイントじゃないかと思っています(図12)
 
図12 活性化のための処方箋(考察)
■処方箋を検討する際に意識すべきこと
 
1)輸送需要減少の『原因』を解明する
2)公共交通機関を支援することの都市圏全体としての費用対効果を分析する
3)『原因療法』と『対処療法』を整理する
4)役割分担とリスク分担を明らかにする
5)地域としての政策的支援フレームワークを用意する
 
■『対処療法』だけでは限界があることを理解する
 
☆鉄道事業者は「需要を創生できない」
 〜利用者にとって公共交通の利用は手段にすぎない
 
☆鉄道事業者は民間企業であり、「公益性の向上」は企業目的ではない
 
☆鉄道事業者の企業体力は極めて脆弱
 
 これにはICカードがひとつの共通用語になるんじゃないかと考えたのですが、実際にやってみますと、交通事業者と商店街を一つにまとめることはほぼ無理に近いものがありまして、なかなかできない。ただ、高齢化を迎える社会構造の変革の中で、NPOとか、コミュニティビジネスとか、新しい要素ができた。
 例えば60歳過ぎても社会参加の手段が増えてきた訳です。週2〜3回いろんな人が集まって、事業に取り組むケースというのは増えています。こういった人というのは、どういう所に集まるかというと、町なかのビルの会議室とかに集まるわけですけれども、要するに町なかに通ってきてくれる方なんですね。で、NPOはボランティアではないんで、対価はもらいますけれど、例えばNPO活動に協力してくれた人にキャッシュを払ったら、この事業は成り立たないんですね。そこで例えば地域通貨的なポイントをICカードに差し上げると、その地域通貨的なポイントは交通で使えるよと。まあ、こんなような試みがあると、こういったような活動を交通事業に結び付けることができるじゃなかろうかと、こんなふうに考えます。
 
 
 東急さんが世田谷線で、こういう連携の活動をいろいろやってますね。こういったものをICカードという共通のインフラで結ぶことによって、発展性がでてくるんじゃないかというふうに思っています。
 
[5]経営モデルのあり方
 
 経営モデルの話でございますが、基本的には、都市としてどういう公共交通レベルが必要なのか、これは恐らく公共で考えなければいけないことだと思います。恐らく熊本であれば、事業者さんが別々の思惑、経営でいろんなことを考えるということももちろん必要なんですけれども、都市としてどういう公共交通網がないと他の都市に負けるよ、熊本という都市を考えるときの一つの都市機能として考えなきゃいけない、それをどういう形で実施に移すかです。
 そこで重要なのは、経営インセンティブをどうやって盛り込むことができるのかです。ドイツのように公共交通は基本的に一般会計で支えるんだとなりますと、あまり議論しなくて済むんですが、日本の交通事業者さんというのは今まで、民間で非常に効率的な運営をされていますので、これをいきなり無しにして、全部、運輸連合で丸受けしましょうというのは、国民的にコンセンサスが得られるかどうか。この公共交通レベルをどうやって維持するか、そこにどういう経営インセンティブを組み込むかというのがポイントになってきます。
 それから、先ほど申しました投資がかさむお話になりますので、少なくとも向こう10年間ですね、鉄道の場合には少なくとも向こう15年間は、それでその事業体が成り立つんだよという絵がなければ、金融も恐らく手を貸してくれませんので、その絵をどう描くか、これが経営的に組み込まなくてはいけない内容だと思います。
 鉄道の欠損補助は如何なものかという議論がありますが、では、軌道化して、軌道上は鉄道とバスの併用にすると、バスについては欠損補助がもらえるのではないかという新しい形態も考えられます。
 たまたま、熊本は路面電車があるということで、これだけで随分都市機能は上がっていると思いますね。鉄道から路面電車にしたら、バスも併用できますよね。例えばドイツの電停で待ってますと、路面電車が来る時とバスが来る時とまちまちです。同じ料金で乗れます。鉄道ですと、レールから外れて走ることができませんが、バスですとレールから外れて、例えば新しい集客施設が出来た時、そこからちょっとそれる。基本的には専用道になってますから、自動車より速い。このようなモデルができるんじゃないかなと思っています。
 
図13 規制緩和先進国である英国の教訓(1)
 
 こんどはイギリスの話ですけれども、イギリスも日本と同様、自動車が増えるにしたがってバスの利用者というのは減ってきているのですが、最近、規制緩和により減少に歯止めがかかってきた。そのやり方が2通りあるということです。ひとつはロンドン以外でやっている規制緩和の仕方ですね(図13)。日本のバスもだいたいこういう施策ですが、採算のとれる路線というのは、各事業者さん頑張って下さい、赤字路線については補助をします。いわゆる系統といいますか、路線毎に収支をはじいて、赤字については補填してあげますけれど、黒字路線は競争しなさい、自由参入を認めます。これがロンドン以外の規制緩和の仕方です。







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