日本大学 里子先生の講演(抜粋)
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東京大学の塚田先生は、本ワークショップでの議論の総括を次のようにまとめている。
「水科学総合知見情報プラットフォーム」ワークショップ
研究内容総括と展望
東京大学大学院理学系研究科 塚田捷
ワークショップでなされた報告に基づいて、その概要を総括するとともに、今後の研究のあり方や協力研究体制の意義などについて、期待することを述べた。
ワークショップの報告内容は、水科学の研究に関わるものと、計算プログラムや情報知見の共有システムすなわち「総合知見情報プラットフォーム」に関するものとに分けられる。田中氏は分子動力学計算による水の構造・相転移・動的構造などについて総合的なレヴューを行い、特にクラスレートハイドレートやカーボンナノチューブ内にできる氷の1次元的構造について最新の成果を報告した。桑原氏は水や気体の流体現象の数値解析シミュレーションの最新成果を、興味深い動画として表示し紹介した。温度の異なる水流の混合、竜巻現象、エンジンの中の燃焼ガスの振舞いなど、様々な流体現象が詳細にシミュレーションできることは印象的である。ナノスケール流体デバイスや液中の走査プローブ顕微鏡の原理などでは、ミクロからマクロにわたる新しい問題が提起されており、マクロとミクロをつなぐ領域での研究の進展も今後期待したい。
福本氏は水科学の知見情報の総合化はきわめて重要な課題であるとして、特に異分野の研究者の情報と計算環境の共有が必要であることを述べた。また、田浦氏は環境問題において水科学が必要とされる例を紹介し、加藤氏は超臨界水についての話題を報告した。これらはいずれも産業技術や環境技術において、総合科学的な立場からの学際研究が必要とされる例である。
斉藤氏は計算プログラムを共有し、また、ホームページのブックマークすなわち水科学関連の情報データを共有するため開発したCollaborative Computing System(CCS)について、その概要を紹介した。計算プログラムや計算資源を提供する人と、それらを利用したい人とが仲介サーバを媒介として協力し合えるシステムの試みであり、極めて独創的なものである。提供者が利用者ともなるコミュニティーでは、極めて有用な仕組みになっていると思はれる。伊藤氏と善甫氏は、このプラットフォームによる計算の紹介を行った。
このような様々な機関に属する異分野の研究者が協力し合えるシステムの開発は、水科学のみならず日本の計算科学の今後の発展にとって、大きな役割を果たすものと期待される。わが国ではすぐれた計算ソフトウエアを自前で開発しているグループは少ないわけではないが、協力体制の欠如のために相乗的な効果で効率的な研究を発展させることができなかったり、十分な普及活動が欠如したりしている。CCSのような仕組みは、わが国におけるこのようなソフトウエア開発の壁を取り払う大きな契機になると期待できる。
2003年度事業目標の達成度を以下に要約する。
(1)水科学知見を共有するためのITプラットフォームのプロトタイプについて
ITプラットフォームプロトタイプ全体説明は第3章に詳述されている。システムは検索系と計算系にわかれておりその運用性と機能性は第4章の実証実験により検証された。検索系の特徴は、一般的な検索システムに比べ水科学のように特化された分野においてとくに数値データ化が困難な情報が一覧表示されたURLとして共有できる点にある。計算系の大きな特徴はシステムのセキュリティレベルに依存しないで共有できる計算資源とフリーウェア利用のシステム化に成功した点にある。このように水科学総合知見ITプラットフォームのプロトタイプとしては完成したレベルにある。
(2)大学等での研究成果のプラットフォーム上で共有化について
大学において利用されているソフトウェアを用いた長時間計算の研究成果をプラットフォーム上で展開し第4章4-1に示されているように、計算結果の数値データ、画像データを共有情報化を実践した。
(3)産学連携体制について
大学等で開発された水科学関連のソフトウェアでとくに水分子の計算が可能なフリーウェアをダウンロードしそれをプラットフォーム上で連携させ、民間企業を含む研究者と学習者、教育者が利用できる環境を構築した。第4章4-2に説明されているように比較的小さな水分子クラスターの安定構造と振動スペクトル解析を行った。またワークショップ開催において大学からは当該分野の専門家で本プロジェクトの趣旨を理解する研究者の参加をみた。また民間からは大学との連携についてのプラットフォーム活用方法と今後の方針などの検討がなされた。このITプラットフォーム活用による新しい産学連携の仕組みつくりが達成された。
(4)知の共有から生み出される新しい知見を活かす方法としてのネットワークコミュニティについて
本プロジェクトに参加したメンバーの水科学プラットフォームへの登録により検索系及び計算系の運用により集積された情報を共有が実現化した。参加メンバーは第4章の4-4に示されているように外部の研究コミュニティの参加と情報提供も行われたことから、今後さらにひろく質の高いネットワークコミュニティの形成が展望される。
「水」科学プロジェクトの今後の展開として、これまでに構築された水科学プラットフォームを活用して新しい知見情報を生み出し知見スパイラルを実現することである。これにより多岐で複雑な「水」科学の問題解決への強力なツールとなることが期待される。それは集積された知見情報がデータベースから知識ベースへと質的変化をとげることでもあり新しい研究開発の方式が展望される。それぞれの専門的領域と個々の属する組織からはなれて異分野の研究者が集まって初めてできる創造的知的生産活動の実践がこれからの科学技術の発展を支える重要な要因であると確信する。
日本財団の助成により本事業を推進し、産学研究者の連携活動とそれを支援するITプラットフォームのプロトタイプを実現することができました。本事業でさらに結束した研究者コミュニティとネットワークのシステムは今後とも継続して活動し、実用化を目指して発展させてまいります。本事業は、研究者コミュニティの中で従来から暖められてきた構想を実現したという意味で大きな節目となりました。この機会を与えていただきました日本財団海洋船舶部の各位、前田晃元部長、山田吉彦部長、内海宣幸国内事業課長、柏田智恵氏他関係者の皆様に心から感謝いたします。
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